57. 石塀を作れ 2
月曜日。
マヌエル来ない。
昼過ぎになっても来ない。3時になっても来ないので、もう今日は来ないと思う。
火曜日。
マヌエル来た。
馬に乗ってまたいつものようにぽっちゃりのアンドレス連れてきた。11時過ぎに来て、特に変わった様子もなく作業を始める。「昨日来れなくてすいません」とか何もない。まるで、彼にとって、昨日の「月曜日」がすっぽり穴の中に落ちてしまっているかのように。(村上春樹か)あまりのいつもすぎて私も唖然とする。
現場監督とその一味↑
マヌエルとその部下アンドレスには、私ももうほぼここに常駐しているので多少お接待する余裕がある。飲料を入れた大きなプラスティックのピッチャーと、プラスティックのコップ。飲み終わってもそこら辺に置いておいて構わない、壊れても全然痛くないもの。お菓子。2時間ぐらい働いて、木陰で休む。
マヌエルが働いている間、彼の乗ってきた馬は向かいの空き地に居て、好きに草を食べている。
↑一週間でこんなに作っちゃうのはすごいと思うのよ
細身のマヌエル(多分クマ夫の重量の75%)は全身筋肉のような感じで、コンスタントに石を運び積み上げていく。えっさほいさえっさほいさ、おしゃべりすることなく黙々と。食事量も大した量ではないらしく、いつも小さなサンドイッチをぶら下げている。こんなに燃費のいい人も珍しいもんだ。金かからなそうだね、と思ったのも数日。
水曜日の午後にモジモジしながら言ってきた。「土曜日までお金もたない感じなので、昨日と今日の分、今日いただいていいですか?」はい??まあ前借りじゃないからいいとして。先週のお金、もう使っちゃったの??まあ、よそのご家庭なのでそれはいいとして。
そして、それが毎週になっていった。
作業に来るのも、当初は月〜土だったのに、いつの間にか火〜土、水〜土。まあ、歩合制だから別にこちらは損はしてないんだけど。そして毎週土曜日支払いが大体週2回の支払いになって。まあこちらは損はしてないんだけど。
でも、家族(特に奥さん)にしてみたらちょ〜〜〜〜〜〜っと大変だよなぁ。うちに来ない日、何してるか知らないんだけどもぉ、何をそんなに使ってるんだろう?馬じゃなくて、そのうちすげーピックアップトラックとかで来るようになるとか?
ソーラーパネル取り付けを見守りつつ、塀も見守りつつ
ある日、わかった。
マヌエルを紹介してくれたエクトルさんの奥さんエルビラと話をしていた時だ。
「ああ、月曜日は来ないでしょ?あの子には月曜日ってのがないのよ。土曜の夕方から飲み始めて日曜終わるまでずっと、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと飲んでるのよ。だから月曜日は使い物にならないの。」
はい?
土曜日に夕方帰宅したらもうそこからずっと、酒飲んでるんだって。30時間。で?月曜日は来ない。ということはあれか、土曜日に渡しているお金はマヌエルの酒代で、水曜あたりに渡しているのは奥さんに行く家族の食費とかか。
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こりゃ、家族大変だ。
ま、よそのお宅のことだからいいんだけどもぉ〜。
親から代々続く農家さん酪農家さんで、家や周辺のあれこれ子供の頃から作ったり直したりで経験豊富で、別に高校出たらやりたいこともないからそのまま農場手伝って、人から頼まれれば一応できることはなんでもやる。会社での仕事経験とかは皆無だから時間にはルーズだけど、ルーズというよりも「違う地平で生きている」と考えた方が良い。なので、時間、という考え方がないのだ。来る時は来る。来ない時は来ないし、そのことで悪いと思うこともない。こちら側としては「いつ来るんだ、いつできるんだ」とヤキモキするのでたまったもんじゃないけど、相手はそうなのよ。違う時間軸、違う地平で生きているんだから、怒ったって仕方ない。
この事実を受け入れるのに、私は13年かかった。かかりすぎちゃうん?でもね、かかったのよ。彼らには彼らのスピードと生活スタイルがある。私たちのそれを比べてもいけないし、当てはめてもいけない。ではどうするか。
はいそうですか、と受け入れるしかない。別に彼らは悪いことをしているわけではない。盗んでもいないしサボってもいない。彼らは彼らのやり方でやっているだけで。
と、言っている間に、それでも石塀は着々と進んでいるのだから大したもんだ。