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電視観望・天体写真撮影システムの機材選び➀~基礎知識編

※元の記事が余りに長文だったので6つの記事に分割しました。


■スマート望遠鏡に不満を感じたら

スマート望遠鏡はそれ1台で全て揃っているので拡張性はほとんどありません。
天体によっては小さくしか写らなかったり、逆に大きく写り過ぎて天体の一部しか写らなかったりします。
センサーのサイズや画素数、望遠鏡の口径によっては解像度や感度、分解能、明るさに不満を感じたりもします。

それらの不満を解決する為にスマート望遠鏡からステップアップとして、自分で電視観望システムを組むのもいいでしょう。その先の天体撮影にも適した機材も含めて紹介していきます。

■電視観望で必要な機材選びの基礎知識


では、スマート望遠鏡以外に電視観望するにはどういう機材が必要かを以下に記します。

・望遠鏡(鏡筒)


短焦点屈折アポクロマート鏡筒

安価なアクロマート鏡筒とマルチバンドパスフィルターで色にじみを消すという方法もありますが、色収差補正レンズ(EDやSD、フローライトなどのレンズ)を用いたアポクロマート鏡筒が望ましい。

出来れば焦点距離450mm以下の短い焦点距離の鏡筒が望ましい。口径は30mm〜70mmぐらいの小型鏡筒が始めやすい。同じ合成焦点距離(画角による見た目の焦点距離相当)を得るにはカメラのセンサーサイズが小さいほど鏡筒の焦点距離を短くする必要がある。
又、焦点距離を短くして、レンズの明るさを大きくさせるレデューサーという縮小光学系の補正レンズが専用品として発売されていることがあります。

・架台と三脚

小型赤道儀と三脚

 自動導入経緯台でも使えるが出来れば2軸モーター内蔵の自動導入赤道儀が望ましい。小型鏡筒を使う電視観望の場合は、耐荷重は5〜7Kg程度の小型のもので大丈夫です。

三脚はとりあえず架台とセット品で付いてきたモノでもいいですが、出来れば、三脚は丈夫で軽い天体用カーボン三脚を推奨します。

・カメラ

天体専用CMOSカメラ

 一眼レフカメラや一眼ミラーレスなども一部使えるが、出来れば天体が発する赤外域の光もよく写る天体カメラが望ましい。
センサーが大きいほど値段が高いが広い範囲が写せる。また、1画素当たりの面積が大きいほど高感度特性が優れている。
センサーサイズは最低1/1.8型以上を推奨。1/2.8型以下の大きさのものは惑星や惑星状星雲、小さな遠くの銀河などには向いているが汎用性で劣る。
冷却式は高価だが長い時間の撮影時にノイズが少なくなる。短い時間で天体を見ることが多い電視観望では非冷却のもので十分です。また、モノクロ天体カメラは電視観望では使いません。フィルターを使ったカラー合成前提での天体撮影用カメラです。

・制御するコンピューター

小型天文機材制御コンピューター

 赤道儀などをコントロールして星を自動導入したり、カメラの画像を撮影、転送、保存したり、オートガイドカメラを制御したり、フォーカサーやフィルターホイールなどの周辺機器などコントロールする制御コンピューターが必要です。Windowsノートパソコンと無料ソフトでも制御出来るが、大きくて重いので天体用超小型コンピューター(ASIAIR)とスマートフォン(iPhone、Android)やタブレットでWiFi接続して制御するのがおすすめです。
※天文関連のソフトウェアやアプリはどちらかというとiOSよりWindowsやAndroidと相性がいい場合が多いので、お使いのスマホがiPhoneやパソコンがMacだったりする方は、天文用に中古のAndroid端末やWindowsパソコンを購入るすると苦労が少ないかも?

・ポータブル電源

ポータブル電源

小型の簡易システムだとモバイルバッテリーでも使えるが、システム拡張にともない容量不足になるので、最低でも100Whクラスのポータブル電源が必要です。
出来れば200〜300Whのものなら余裕があり安心です。
ASIAIRを使うならDC12Vの端子(シガーライターではないい。ASIAIRに付属しているケーブルが直接挿せる端子)があると便利です。

※ 特に、鏡筒、架台、カメラは予算がかかります。
どういう配分にするか難しいですね。
電視観望がメインならカメラにコストを掛けるのがいいかもです。天体撮影メインなら鏡筒や架台にコスト掛けましょう。特に将来ステップアップを考えるなら赤道儀にお金かけましょう!

◆その他に揃えたい機材

・光害カットフィルター

マルチバンドパスフィルター48mm径

お住まいの地域が光害地(日本の住居地人口の80%以上)なら必要になります。光害地では街明かりで星が写り難かったりノイズが入ったりするので、街明かりの光をカットする光害カットフィルターがあった方がいいです。
さらに複数(2〜4)の特定周波数帯域の光しか通さないマルチバンドパスフィルターは対象の天体により非常に効果がある場合があります。
シングルナローバンドパスフィルター(hα、hβ、oⅢ、siⅡなどの各フィルター)は電視観望では使えません。モノクロ天体撮影用です。(oⅢ,hβは眼視用にも使われる。)
尚、センサーサイズがフルサイズやAPS-Cなら48mmフィルターが必要です。4/3以下のセンサーサイズなら31.7mmのアメリカンサイズの小型フィルターでも使用出来ます。

マルチバンドパスフィルター31.7mm径

・レンズヒーター

USB給電型レンズヒーター

晩秋から早春の季節は夜露が激しく、レンズが曇ったりしますので、この時季の電視観望では夜露防止にレンズヒーターが必要です。又、鏡筒を両面テープを使ってレスキューシートで巻くのも効果があります。
レンズヒーターは一般的にUSBから給電するタイプが多いですが、USB機器を多く繋いだ時は容量不足になり、一部のUSB機器が認識しなくなるので、ヒーターだけ別電源にするか、DC12V給電のタイプのレンズヒーターが必要になる場合が有ります。

・オートガイダー

ガイド用モノクロカメラ

 架台の追尾が少しずつズレて画像の隅の星が点に写らなかったりするのを防ぐため、追尾のズレ幅を修正する役目がオートガイダーです。
口径30mm〜50mmのファインダー鏡筒に小型モノクロCMOSカメラで暗めの星を複数追尾してズレた量を制御コンピューターに送り、架台の動きを調節します。
電視観望ではオートガイドしなくて大丈夫ですが、天体写真撮影の場合はオートガイドした方がいいです。

ガイド鏡

またガイド鏡を使わず、オフアキシスガイダーという、主鏡のイメージサークル内の撮影領域(四角形の領域)より外側の光をプリズム分光して、接続したガイドカメラに光を分ける装置を使うこともできます。

オフアキシスガイダー

・オートフォーカサー又はバーティノフマスク

オートフォーカサー

鏡筒の厳密なピント合わせを自動で制御する機械がオートフォーカサーです。制御コンピューターから制御します。尚、オートフォーカサーを組み込むと手動フォーカスノブが固くて回らなくなります。


バーティノフマスク

手動でピントを合わせる時は安価なバーティノフマスクを使うと合わせやすくなります。出来れば金属製のものをおすすめします。

・フィルタードロワー又はオートフィルターホイール

フィルタードロワー

光害カットフィルターやマルチバンドパスフィルターなどを素早く入れ替えする場合にはフィルタードロワーがあると便利です。(フィルター毎にピント位置がズレますので注意!)
モノクロカメラでLRGB合成やSAO合成などを前提で撮影する場合はオートフィルターホイールがあればフィルターの入れ替えが制御コンピューターから自動制御出来て便利です。

オートフィルターホイール

■合成焦点距離とは?

鏡筒の焦点距離や補正レンズ倍率、カメラのセンサーのサイズで画角が変わります。それをひっくるめて数値で表したものを合成焦点距離として使われています。デジタルカメラの35mm換算焦点距離と同様です。

◆各センサーサイズの倍率

センサーサイズの倍率とは35mmフィルムサイズのセンサーを持つカメラで直焦点撮影した場合との画角を焦点距離に換算した時の比率。

フルサイズ 1倍
APS-C 1.5倍
4/3 2倍
1型 2.7倍
1/1.2型 3.24倍
1/1.5型 4.05倍
1/1.8型 4.86倍
1/2型 5.4倍
1/2.3型 6.21倍
1/2.5型 6.75倍
1/2.8型 7.56倍
1/3型 8.1倍

合成焦点距離=鏡筒の焦点距離(×レデューサー倍率)×センサーサイズによる倍率

例えば焦点距離400mmの鏡筒にセンサーサイズ4/3なら合成焦点距離は800mmになります。

例えば焦点距離400mmの鏡筒に0.8倍のレデューサーを付けて1/1.8センサーサイズのカメラで撮影すると合成焦点距離は
400mm✕0.8倍✕4.86倍=1555mm
になります。

センサーサイズが小さいほど広い範囲を写すには、より短い鏡筒の焦点距離が必要です。
焦点距離135mmの鏡筒でも1/2.8型センサーなら合成焦点距離は1020mmになってしまいます。

従って、対象天体に合わせて鏡筒の焦点距離とカメラのセンサーサイズを選ぶ必要があります。

5000mm以上の合成焦点距離だと、架台や三脚は耐荷重に余裕のある、かなりしっかりしたものでないとブレます。この場合、オートガイダーも必須です。

トリミング(画面の切り取り)で2倍の大きさにするには縦横をそれぞれ1/2のピクセル数にします。従って、画素数は1/4になります。
例えば、横4000ピクセル縦2000ピクセルの800万画素で撮った画像を2倍にするには横2000ピクセル縦1000ピクセルでトリミングすることになります。切り取った画素数は200万画素になります。同様に3倍にするには縦横をそれぞれ1/3にするので画素数は1/9になります。例えば2000万画素の画像を4倍の大きさになるようにトリミングすると画素数は1/16の125万画素になります。

■対象天体別の最適な合成焦点距離

観望や撮影する天体によって最適な合成焦点距離が異なります。対象天体の大まかな画角に合わせて鏡筒の焦点距離とカメラのセンサーサイズの組み合わせを考えましょう。
合成焦点距離   画角
100mm     24.4°
200mm     12.2°
300mm     8.2°
400mm     6.1° (ヒアデス星団の視直径)
500mm     4.8°
600mm     4.1°
800mm     3° (アンドロメダ銀河の視直径)
1000mm     2.4°
1200mm     2° (プレアデス星団の視直径)
1500mm     1.6°
2000mm     1.2°
2400mm     1° (オリオン大星雲の視直径)
3000mm     0.8°(48′)
4000mm     0.6°(36′)
4800mm                 0.5°(30′) (満月の視直径)
6000mm     0.4°(24′)
8000mm                 0.3°(18′) (らせん星雲の視直径)
10000mm               0.24°(14′)
20000mm               0.12°(7′) (亜鈴状星雲の視直径)

実際の天体の視直径の2〜4倍の画角が画面の収まりがよくなります。例えば視直径1°の天体なら600mm〜1200mmぐらいの合成焦点距離になります。

・合成焦点距離:2000mm〜6000mm以上

 惑星や惑星状星雲、球状星団、見た目の小さな銀河
 (例:木星、土星、亜鈴状星雲、リング星雲、かに星雲、らせん星雲、バブル星雲、トールの兜星雲、青い牡蠣星雲、小亜鈴状星雲、エスキモー星雲、ふくろう星雲、アイリス星雲、M15球状星団、子持ち銀河、ソンブレロ銀河、黒目銀河、ひまわり銀河、アンテナ銀河など視直径が20′(0.3°)以下の天体)(土星を画面いっぱいに撮るには10000mmぐらい必要です。)

・合成焦点距離:1000mm〜3000mm

 小さ目な散開星団、中程度の大きさの星雲、大きめな球状星団、中程度の見た目の銀河など多くの天体
 (例:月、オリオン大星雲、燃える木星雲と馬頭星雲、干潟星雲、三裂星雲、わし星雲、オメガ星雲、パックマン星雲、勾玉星雲、ハート星雲、モンキー星雲、くらげ星雲、M13球状星団、M4球状星団、二重星団h-χ、回転花火銀河、おおぐま座ペア銀河など視直径が20′(0.3°)〜1°の天体)

・合成焦点距離:400mm〜1200mm

 大きな星雲、距離の近い散開星団、距離の近い大きな銀河、複数の天体の範囲など
 (例:バラ星雲、北アメリカ星雲、ペリカン星雲、網状星雲(東と西)、カルフォルニア星雲、ガーネットスターと散光星雲、エンゼルフィッシュ星雲、かもめ星雲、プレアデス星団、プレセペ星団、アンタレス付近の分子雲、アンドロメダ銀河、さんかく座銀河、しし座トリオ銀河など視直径が1°超の天体)
(ちなみにバーナードループは視直径18°でフルサイズで135mmの焦点距離になります。)


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