『文体の舵をとれ』練習問題① 問2

※問題を引用してよいものかわからなかったので習作だけ載せています。どういう文章なのか気になる人は本を手に取ってね。(ル=グウィン、アーシュラ・K『文体の舵をとれ』大久保ゆう訳、フィルムアート社、二〇二一年。)

以下本文(所用時間30分)

 歓喜の声を上げる者もいれば、生気を失った相貌をして、ただ前を凝視する者もいる。喜びを抑えられず、金切り声で電話をかける者がおり、震える手で嗚咽を精一杯こらえて、不合格を伝える者がいる。一緒に訪れたのであろう友人同士で抱き合う者、目の端に映る絶望を察し、静かにその場を立ち去る者。これから先の人生を、あらゆる意味で変えてしまう。そんな岐路を眼前にした、まだ年端の行かないこどもたち。悲喜交々を少し離れて見遣る少年は、なんてくだらない、こんなことに関わらなければいけないとは、と、自分を憐れんでいるとでも言わんばかりに、一つ大きくため息をついた。これがみな同じ年の人間だというのか。誰もかれも、可愛らしいほどに、幼い。木陰のベンチに腰を下ろし、人の波が引くのを待つ。空を見上げ、もう一月もすれば満開になるのだろう桜の枝を思う。朝からそわそわと落ち着かず、ついていくと言って聞かない両親を振り払い、少年は一人、自転車を漕いできた。大きな坂を越えて上がった息も、心臓の早鐘も、一向に収まってくれる様子はない。ぼくに運動は似つかわしくない。こんなのは野生を忘れられない野蛮なやつらのすることだ。次第に人もまばらになり、波を割るがごとく、少年の前に道が開かれる。少しばかり柔らかくなった受験票を一瞥し、少年は立ち上がる。一歩進むごとに、また心臓が痛いほどに大きく鳴る。まあ、多少は身体を鍛えておくのも悪くないのかもしれない。これではこの先、身が持たないかもしれない。季節外れの汗にズレた眼鏡をかけ直し、少年は居並ぶ数字と相対する。宛がわれた大きな番号を無視するかのように、一番から順に確認していく。そこにない数字の数だけ、彼はこの世の無情を嘆いていく。たったこれだけのことで。そのたったこれだけが、人の人生を変えてしまうのだ。そうして最後まで確認し終えて、彼に自分の番号を見つけることは叶わなかった。受験票をつかむ指に、強い力がこもる。何事もなかったかのように振り向こうとし、彼は膝に力が入らないことに気付く。残った力を振り絞って、右回り。そして掲示板が二つに分かれていたことに気付く。当然、普段の彼なら気づいていただろう、彼の番号の半分に満たない番号で、合格者が打ち切られるわけなどない、と。情けない、こんな簡単なことにすら、すぐに気づくことができないなんて。少年は、自らを嘲るように、ふっと息を漏らす。そして、思い通りに動かない脚に鞭打って、もう一つの掲示板を見る。家で待つ家族に電話をかける彼の手は、何度も違う番号を指してしまうほどに、震えていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?