『文体の舵をとれ』練習問題② 改
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誰もいない薄暗い書庫の中でしばらく時間を過ごしているうちに、なんとなく目についたとても面白そうな本をどうしても手に取りたいという気持ちに駆られる。しかし何をどうしてもほんのちょっとだけ届かなくて、なんでこどもの頃にもっと牛乳を飲まなかったんだろうとか、バレーボールやらバスケットボールやらやってたらよかったんだろうかとか、そもそも人を呼びに行けばいいのでは、とか、そういったことが頭に浮かぶ訳なのだけど、まあそれもおっくうで、でもあの背表紙のキラキラはとてもきれいでやっぱり触ってみたい。埃っぽいのはちょっと嫌だけど古い本のザラザラ装丁の心地よさは好きで、それは別の本でもいいんだけど、そうじゃなくてこの本がよくて、この本じゃないといけない理由は思い浮かばないんだけど、直感を大事に生きてきて損をしたなあと思うこともそうない。見上げ続けているとちょっと首が痛くなってきて、目線を下げるとおんなじような本が見つかる。でもおんなじような本はおんなじじゃないんだよなあ、という心の中の悪魔がもう一度目線を上げさせてきて、筋がぴきりと痛んだ。はて、これはもしかして天使の方の仕業かもしれない、ということで、こっちの本でもまあいいかと新たに見つけた本の方に手を伸ばしながら、きっと天使が言うんだからこっちの方が結果的に良くて、それもやっぱり直感を信じるということでもあるわけで、私の生き方に間違いはないんだと考えるに足る材料を与えてくれる。ということで納得しながら、まだしぶとく残る悪魔の声を振り払い振り払い、濡れた犬みたいに頭をぶるっとしてすっきりしたと思い込んでみて、やっぱりちょっと気になる。でも、まずは動くのが吉だとおじいちゃんの声がしたから、こっちの本を手に取ってみようと考える。おおよそ私の思考はこんな感じだった訳なのだけど、みんなきっとすっぱいぶどうだと言うんだろうな、ということは私にだってわかっているんだけど、仕方のないことってあるし、あっていいし、あるべきだと思うし、それが生きるってことな訳。っていう内容が書いてあったんだ、この本には。