たとえ舐められても,なめてはいけない傷もある

救急外来ではいろいろな怪我をみることがあります。なかには不幸にも家族に傷つけられて受診するひともいます。家族とは必ずしも親や兄弟とは限りません。そう,ペットも立派な家族なのです。

ということで,今回はイヌ・ネコにまつわる外傷をとりあげてみましょう。

口は災いのものと

ヒトも含めて,動物の口腔内は非常に汚い。口の中は常に湿潤環境であり,細菌にとっては繁殖しやすい環境が整っています。とはいっても細菌たちが好き勝手に暴れまわっていては宿主としては生活できません。それぞれの動物たちにはある程度決まった菌種が、ある程度決まった割合で生活しています。これをフローラ(正常細菌叢)と呼びます。ヒトにはヒトの口腔内フローラがあるように,イヌやネコにも口腔内のフローラがあります。

口腔内フローラの細菌たちは,口腔内という限定的な環境であるために宿主に害を与えずに生活しています。これが違う環境に置かれると,暴れまわることもあるのです。

動物の口腔内フローラが悪さをするのは特に噛み傷(咬傷)です。これは口腔内フローラの細菌たちが皮膚バリアを破って体内に侵入することから,思わぬ感染症を引き起こすことになります。

口腔内の細菌が体内に侵入するという点では,かならずしも「噛まれる」必要はありません。たとえばヒト咬傷と言うと,たいていが「噛まれた傷」ではなく,ケンカで相手の顔を殴った際に相手の歯でできる傷です。また動物の場合でも,すでにある傷を「舐められ」たりしたら,菌は容易に侵入してきます。このように「咬傷」の名前で固定観念を抱かぬように診療する必要があります。

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