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集中治療におけるレミフェンタニルの良い適応を探る

集中治療でオピオイド鎮痛薬にレミフェンタニルが使えるようになってしばらく経つ。レミフェンタニルは超短時間作用型のオピオイド鎮痛薬で、本邦ではまず手術麻酔での使用が始まった。現在では無くてはならない存在となったが、しばらくしてICUでの鎮痛にも適応が通った。しかし現在に至るまで、その「使いどころ」は議論が分かれている。レミフェンタニルの特性を活かした使いどころはどこなのか。手術での使用経験を踏まえ、ICUでのいくつかの良い適応と思った例を挙げてみた。


1. 抜管時に確実に薬効を切りたい場合

具体例:挿管痛が強い肥満患者

翌朝に抜管を控えた肥満患者。挿管中はバッチリ鎮痛を効かせたいが、抜管直前にオピオイドの影響が残っていると舌根沈下や再挿管困難も予想され、薬効を確実に切りたかった。フェンタニルは脂肪蓄積もあり、長期投与で血中濃度の低下速度も鈍くなる。この症例では、鎮静はプロポフォールが使用されていた。前日夜間からフェンタニルをレミフェンタニルに切り替え、抜管30分前くらいでレミフェンタニルを切り、完全覚醒下で抜管した。

2. 呼吸器と同調性が悪い場合

具体例:ARDS で呼吸管理がギリギリで呼吸努力が強い患者

ARDS は目標呼吸設定がシビアだ。中等症から重症の患者では自発呼吸も相まってなかなか管理目標に到達せず、気道内の圧障害のリスクが増す。この症例では、鎮静はプロポフォールにより行われていた。レミフェンタニルを使用し、呼吸苦からの解放と呼吸抑制を利用して呼吸管理を容易にできた。ただちに筋弛緩を使用しない利点は、鎮痛鎮静の状態をマスクしない点だ。呼吸器設定後しばらく様子を見てから(6時間程度)、フェンタニル鎮痛とロクロニウムによる筋弛緩に切り替えて同様の管理を継続した。後に筋弛緩は終了した。

3.高血圧緊急症でシビアな血圧管理を要する場合

具体例:くも膜下出血での挿管後の管理

高血圧緊急症(大動脈解離、脳卒中など)では痛みなどの苦痛が血圧を上げ、上がった血圧が原病を増悪させる悪循環に陥ることがある。この症例では、鎮静はプロポフォールにより行われていた。レミフェンタニルは降圧効果もあり、鎮痛と合わせて非常に良い適応だった。ニカルジピンも併用したが、ニカルジピン単独に比べると必要量はかなり下がって、容易に管理目標に到達して維持できた。翌朝には血圧も落ち着き、フェンタニルに切り替えた。

※ICUでの使用の注意(主にフェンタニルとの違いに注意)

1.ボーラス投与できない

急速投与で血圧降下や胸壁の筋強剛による換気不全に陥ることがある。手術麻酔下では直ちに昇圧薬を使用できる状況にあったり、筋弛緩薬の投与下であったりとあまり問題にならない。特に筋強剛はそれ自体を知らないとレミフェンタニルが原因であると想起できず、気胸などの別の原因検索で時間を要したり、対処法を知らずに医原性の低換気に晒す可能性がある。

2.自然気道では使えない

呼吸抑制をきたすため、必ず挿管人工呼吸管理下で使用する。呼吸抑制は欠点でもあるが、裏を返せば利点にもなりうる。

3.長期運用に向かない

利点も多いがクセの強い薬剤である(インシデントリスクも増す)。薬価も高い。また、耐性や中止後の痛覚過敏(hyperalgesia)の懸念もあり、短期間のここぞと言うときに使うようにした。前述の使用例で挙げた症例は、いずれも半日程度(長くても1日)の使用であった。必ず最初に使用目的と期限を決めて都度状態を評価し、長期化しそうならフェンタニルやその他薬剤に切り替え、目的を達成した場合は投与を終了した。

まとめ

どのような使用場面であっても、レミフェンタニルの特性を熟知しておく必要がある。特性は利点としても使えるが、足元を掬われる場合もある。本来であれば、まずは手術麻酔などで使用に慣れておくことが望まれる。

レミフェンタニルが出たからといって、フェンタニルが過去の薬になったかと言うとまったく違う。長距離走の選手と短距離走の選手はどちらが優れているか?と言う比較と同じで、まったく違う特性の二者に優劣はつけられない。フェンタニルも相変わらず良い薬である(なんならネットでは「やっぱりフェンタニル使いやすいよね」と言う声の方が多い)。お互いの特性を活かしてケースバイケースで使い分けるのが医者の腕の見せ所ということだろう。

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