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ほとんどの医師がハマる ”キケン” な思考

なにか問題に遭遇したとき,多くの医師は無意識にハマる危険な思考がある。

「ぼくが かんがえた さいきょうの ちりょう」

多くの医師はこの呪いにかかって,知らず識らずのうちに悪手な治療法を選んでいることがある。

「この状態は〇〇だから,この治療が効くに違いない」
「読影所見で△△と言われたが,そんなわけはなく☓☓に違いない」
「コロナにはイベルメクチンが効くに違いない」 etc.

この(通称)「ぼくつよ理論」は何が危険なのだろうか。

科学的思考

一般的には科学的プロセスではまず 1.仮説 をたて,それを実際に 2.検証 していく。

「ぼくつよ理論」ではこの科学的プロセスの 1.仮説 で止まっており,それを検証もなく確定的に実臨床に適応していることになる。

別の方法論に「トライ・アンド・エラー」の方法がある。この方法論に当てはめてみても,「ぼくつよ理論」は トライ で止まっており,エラーの検証はされない。

そもそも「科学的プロセス」も「トライ・アンド・エラー」も,仮説とトライには「誤りを含んでいる可能性が多分にある」という大前提があるが,「ぼくつよ理論」では仮説・トライであるにもかかわらず「さいきょうのちりょう」という確定的正解の立場に立っている。ここが致命的で,修正不能な思考にはまっていく始まりだ。

医学は科学で,検証前の事象に「絶対」はない

かつて天動説はひっくりがえった。また,地球は平面だと信じられていたが,球体だった(いまだにフラットアースとか言って中世を生きてる方々もいるが)。

医学の分野でいうと,心不全に β 遮断薬の話がある。かつて,心機能が弱っている心不全にさらに心臓の機能を抑制する β 遮断薬を使うなんて正気の沙汰ではなかった。しかし実際は β 遮断薬の有効性が示されてきた。

米国集中治療学会のコースで配布されたテキストにもこのように書かれていた。

「循環動態を考慮すると直感に反するかもしれないが,β 遮断薬には心不全を合併した急性心筋梗塞のみならず,すべての原因の慢性心不全に対して有益であるとする抗し難いエビデンスが存在する
Stephen M, Pastors, MD, FCCM. Adult Multiprofessional Critical Care Review. SCCM

このように,科学(医学)には時に「直感に反する」現実があるのだ。

検証前の事象に絶対はない。日々われわれが目の当たりにする患者の訴えは,すべてが検証前の事象であり,鑑別診断という仮説をたてて,検査で検証していく。心のなかで「ぜったいにコレだよなあ」と思いつつも,やはり検証していく必要があるのだ。医師は科学者であって,呪術師ではない。心に思い浮かんだ ”お告げ” に基づくのではなく,科学に基づいて治療すべきなのだ。

「知っていること」も常に「検証」を

検査である程度診断が絞られてきて,治療の段階に移っても油断してはいけない。

あなたがいままでに何度も取り扱ったその病態の治療法は,今でも正しいですか?

医学はつねにアップデートされている。研修医時代に指導医から教わった治療を,「老舗の秘伝のタレ」よろしくずっと使っていないだろうか。

先に紹介した心不全に β 遮断薬のように,それまでの治療法がひっくりかえることはよくある。老舗の鰻屋では良いかもしれないが,医師に秘伝のタレは必ずしも良くはない。

私はすべての治療に対して,出会うたびに定期的に調べ直しをしている。何度もであった疾患や,それほど難解ではない治療でさえも調べ直しをしている。そうすると結構新しい治療に出会える。たとえば最近でいうと,

・高カリウム血症にアーガメイトゼリーやケイキサレートはもはや推奨されない
・胸腔ドレーンにトロッカーはもはや推奨されない

などがあった。みんな知ってました??これらはおそらく多くの人が「秘伝のタレ」としてるところだろうと思う。知らなかった人はぜひ,知識のアップデートのきっかけにしてほしい。

医学は新しいことに出会える楽しみがある。これを「苦痛」とならないよう,日々柔軟に振り返る姿勢が重要だ。

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