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魔法少女を民営化してはいけない理由

最近、株式会社マジルミエ(以下、マジルミエ)というアニメを観た。作品世界内で魔法少女という職業が民間によって運営されており、日夜問わず怪異という人類への敵対生物への対処に勤しんでいる。主人公の桜木カナは就活に失敗を繰り返す大学生であり、金融や建築など様々な業界の就職面接を受けるが悉く惨敗を繰り返す。そんな中、大手金融企業のグループ面接中に怪異が発生する。現場に駆け付けたベテラン魔法少女の越谷仁美の活躍に咄嗟の対応力を褒められたことが嬉しく、魔法少女業界のベンチャー企業『株式会社マジルミエ』への入社を決意するという物語である。私は視聴後の感想をYouTubeに動画でアップした。「正直つまらない」という感想を述べたが、上手く言語化できていたとは言いづらい。そんな中、マジルミエの感想や批評をネットで探していたところ下記のnoteを発見した。いいね数こそ少ないが、タイトルが経済学の視点を提供する内容を想起させる。

読んでみると、私がマジルミエに抱いていた違和感が言語化されていた。つまり、ブルーワーカーである魔法少女という職業が成立しない、もしくは成立したとしても作中のようにキラキラした女の子たちが活躍するような業界にはなり得ないという至極当然の話である。上記noteの作者であるハロイオ氏は有効需要の原理から作中の矛盾を指摘する。作中では、生命や生活が懸かっている為、個人や企業は魔法少女業界に多大なお金を払うため、日本全体は不景気であるが、魔法少女業界は右肩上がりになるという理屈が説明されている。これはありえない。日本がデフレであれば、モノやサービスを幾ら生産しても消費する個人や企業がいないので、生命や財産にかかわるサービスであろうとも右肩上がりに成長することはない。介護や運送業などはエッセンシャルワークでありながら低賃金と長時間労働が常態化している。建築や土木などは、ホワイトワークと比較すれば賃金水準は高いが3K(キツイ、汚い、危険)のため給与と労働が見合っていない。

もし、現実世界に魔法少女という職業があるとすれば『保安職業従事者』という職業区分に入るだろう。保安職業従事者とは自衛官や警察官などの公務員から、民間の警備会社や交通誘導員など、生命や財産及び法の秩序の保護に従事する人たちである。保安職業従事者の2024年度有効求人倍率は6.37で全業界で2位である。ちなみに1位は建設躯体工事従事者の8.5である。言い方は悪いが、主人公の桜木カナは人気業界業種の面接に悉く落ち、最終的に不人気のブルーワークに従事することになった女の子である。

2024年7月の有効求人倍率

「ベンチャーは現場をみて最善を~」という重本(マジルミエ社長)の台詞を聞くたびに、なんで所属魔法少女が(桜木が入社するまで)越谷しかいないのだろうかと呆れる。重本はベンチャーという言葉をただの中小零細企業と捉えている節があるのではないか。ベンチャーには新規市場分野の開拓や雇用の創出などが期待される。少人数でモノづくりをしているのでは、下町の町工場と同じである。それこそ池井戸潤小説のような人情経営万歳の思想ではないか。ベンチャーという言葉は和製英語で、本来は中小企業という意味合いと大差がない。それでも「ベンチャーは~」というセリフが吐きたいのであれば、重本の会社がイノベーションを志向していなければ嘘である。マジルミエの技術者の二子山和央が凄いのは作中でも表現されているが、彼の技術が場当たり的な怪異退治のために使われるに終始しているところを見ると宝の持ち腐れ感が否めない。「二子山すげー」ではなく、その技術を運用して桜木や越谷の業務負担を減らすことにまで目線を広げて欲しいものだ。

民営化は無理筋

私はマジルミエの原作を読んでいないので知らなかったのだが、ハロイオ氏曰く魔法少女業界は作中の20年前に民営化されたそうである。上述したが魔法少女は保安職業従事者にあたる。民間企業で言えば、ALSOKやセコムのようなものである。魔道具ホーキによって、肉体的な鍛錬をしなくても怪異と対峙できるとはいえ、怪異の反撃で致命傷を受ける描写もあり、ある程度のタフさが求められる。そんな業界で男性が活躍できない理由は『男性は魔力の出力が強すぎてコントロールに向いていない』ということらしい。これで魔法少女が女性活躍の職業になっていることを納得させようとしているが、明らかに無理筋である。大企業事務職の容姿採用を始めとして若い女性が求められる職場は無限にある。ルッキズムを肯定するわけではないが、警備員のような半肉体労働の求人に女性が集まるとは思えない。勿論、魔法少女の戦闘業務はお飾りで、裏で機械が自動的に戦闘してくれるならば話は別だが。別の資本があるのに、わざわざ肉体資本を投入して重労働しようなどとなるわけがない。女性を雇い入れるにしても一般的な大学を卒業した女子学生よりも、体育大学でレスリングや柔道を学んだ学生を優先的に採用するだろう。それが現在のALSOKやセコムなどの大手警備会社である。間違っても作中で描かれている美人キャラの葵リリーなどが参入してくるはずはない。





これらの矛盾を解消するには

  • 魔法少女は国営ビジネスで、大量の補助金が支払われている。

  • 魔法少女は実は戦闘業務を殆どしない。

  • 魔法少女が営利団体ではなく、宗教的なリスペクトを国民から得ている。

これらの理由がなければ、舞台装置に納得できない。お仕事アニメとしても腹落ちせず、重本社長と従業員が綺麗ごとを言っているだけに聞こえてしまう。そもそも怪異には意志や思想がないため、シロアリ駆除やスズメバチ駆除を見せられている気分になる。刑事ドラマのような犯人の真理を読む面白さも感じられない。単純労働は映像化しても面白くなることはない。労働はクリエイティブ職以外は絵にするのは難しい。なんとも残念なアニメである。2期が既に決定しているらしいが、もう観ないだろう。

下記は視聴10話時点の私の感想である。合わせてご視聴ください。




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