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日産とホンダの「人事」の統合はどうなる?水と油?と言われる理由。
"Show me your secret weapon, ha ha !"
カルロス・ゴーンは、大勢の前で、冗談っぽくこう述べることが多かった。日産は、いつも「最新の武器」を探していたかのようだった。特に外資系特有の文化で新しいものをどんどん取り入れる。外資と日本のハイブリッド。和魂洋才。そんな人材と風土を育てようとしていた。
本田宗一郎の言葉「私がやった仕事で本当に成功したものは、全体のわずか1%にすぎない」。朝礼でも「ホンダ」の創業者の言葉をかみしめるホンダの従業員。チャレンジと伝統を大事にする。The昔ながらの古いけど良き日本企業。
この日産自動車(以下日産)、本田技研工業(以下ホンダ)2社の統合はどういうことになるのか?
水と油ともいわれていますが、どういうこと?
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今後のCASE(※)と呼ばれる100年に1度の事業戦略、EV戦略についての領域が主になってます。しかし、肝心の「人事制度・風土の統合」は、あまり語られていないのでしょうか?
(※)Connected Auto Share EVの略
以下の文脈で順番に論じていきましょう(個人的見解です)
日産とホンダの人事領域の違い一覧
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1.人事施策のポリシー
2.評価制度
3.等級制度
4.教育制度
5.採用
6.その他の特徴
なお、結論としては、両社の人事制度の一切を統合することは現実的ではないでしょう。経営統合するにしても、しばらくは各々の独立した制度をそのまま運用はしていくと思います。
外資系主導の買収であれば、一気に制度の一切合切の洗い替えもありますが、今回は逆(今は外資ではないですが、文化は残っています)だからです。
一方で、以下のような文化・ポリシーレベルの違いは、今後の事業運営上、問題となってくる可能性があり、高いレベルでのポリシー修正が起こってくる可能性があるでしょう。
これに混乱はきたさないのでしょうか。
<日産と本田の人事領域の違い一覧>
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1.人事施策のポリシー
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ここに大きな隔たりがあることは否めません。
日産自動車は、上記のように一言で言うとグローバル基準を重視、多様性を推進する体制にあります。カルロス・ゴーンの着任以来、日本基準ではなく、人材においても、グローバル基準を重視してきました。その名残は、同氏が退出後も基本続いているといわれます。
例えば、NACと呼ばれるタレントマネジメント会議では、キーポストに対して、候補者は、日本人だけではありません。ずらっと、全世界の外国人の名前が並びます。世界中から世界基準でタレントを選んでいくのが常識です。
また、多様性も重視します。女性の役員比率、部長比率について非常に敏感です。もちろん、外国人比率も。多様性=武器という考え方が深く浸透しているのです。
(参考引用・こちらの日産自動車公開情報から)
no13_290310_shiryou01.pdf
一方ホンダは、上記についても、もちろん、大事な取り組みとしつつも、昔ながらのThe日本企業という側面が強く残っています。日本を中央集権的に物事を決めていき、比較的、まだまだ日本人中心、男性の要職が多いThe JTC(日本伝統企業)です。
上記から発する2つの問題点が浮かびあがります。
懸念1.短期コミット志向VS長期視野
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日産という会社は、「短期」で物事を考えがちです。
なぜか?いわゆる外資系の文化では、傾向としていかに投資して、早期で刈り取るかのサイクルを早くするかを重視します。日本のような農耕文化でなく、狩猟文化であるが故。
これは、日産という会社の文化というよりも、中にいる「人」(DNA)がそうさせているかもしれません。日産にいまいる従業員は、ほぼ昔ながらの日産社員ではありません。
日産自動車では2024年3月時点で、管理職に占める中途採用者の比率が35.6%と報告されています。同業のメーカー出身というよりはコンサル業界出身の外国人も多く在籍しており、どちらかというと、短期成果志向の社員が多いといわれます。
例えばの一例で言うと、人事領域では、とある部門の女性管理職比率を10%にするというKPIを一度決めたら、本人の意向や適性も大事にしつつも、やはり数字達成の方(コミット)が大事。何が何でも1年で女性管理職の登用を達成します。
一方、ホンダは、比較的長期的視野に立った考え方する傾向にあるでしょう。この水と油の志向をどうするかの問題は残るでしょう。
懸念2.グローバル標準と日本標準
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日産という会社では、日本(GHQ)を中心に考えることもありますが、事業領域もスタッフ領域もすべてが日本の中央集権的ではありません。
このファンクションは、米国がHQ,この領域はタイがHQというように、グローバル基準で、集権機能を考えています。
ホンダは、まだまだ日本本社がHQで強い権限を持っているでしょう。このすり合わせはどうなるのか。このDOA(権限移譲)の整理は難航を極めるのではないでしょうか。
また、女性の登用についても、日産が、2024年3月時点で、グローバル全体の女性管理職比率は15.9%と公表している中、ホンダの女性管理職の比率は、2.2%で、女性社員の比率は1割に満たないと言われています。このグローバル基準で求められることとの軋轢は生じていきそうです。
2.評価制度
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次の評価制度です。日産という会社は、評価の基準は、コミットという文化で語ることができます。
これは、カルロス・ゴーンが着任した当初、確実に成果を出すことを意識づけるために根付いた言葉とされてますが、評価制度は、コミットとターゲットの2段階で評価されます(今は廃れている)。このシステムにより、1年でどんな成果が出たかを重視し、結論、短期志向になりがちです。しかし、成果は定量化されており、透明度も高いのは特徴です。
一方、ホンダは、「2WAYコミュニケーション」というシステム(これは、1990年代にNECなどの電機でも導入するなど流行った)で、しっかり上司と部下が目標について話し合い、評価項目もチームワークや、個人の成長といった項目の比重が大きいのが特徴です。
評価についても、上記で挙げたような短期志向・長期志向の軋轢が生まれることがありそうです。
3.等級制度
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ホンダでは「一般(K3→K1)」「チーフ(P2)」「主任(P1)」「課長」「部長」と昇進する形式となっています。 一般(メンバー)クラスはK(開発)クラスとなっており、以降P(パフォーマンス)クラス、M(マネジメント・管理職)クラスと昇進していきます。
日産では、基本的に役職・グレードによって年収が決まってきます。「PX(一般)」「PE2(総括職・主任)」「PE1(課長代理)」「課長」「主管」「部長」と昇進する形式となっているようです。
上記2社は各々の等級についての基本設計は、両社ともさほどの違いはないでしょう。そもそも、等級制度をゴリゴリと統一されるような荒療法は取らない可能性が高いでしょう。
ただ、懸念点は、その階段です。一般的に、外資文化の会社は、ステップアップするほど給与は高くなっていきます。例えば、課長・部長級の昇給率が日産の方がかなり高い可能性があります(その分課長手前が低い)。このポリシーまで変える可能性は低いかもしれませんが、等級制度そのものというよりも、報酬との連動で多少のメスが入る可能性はありそうです。
4.教育制度
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大きな違いとして、日産は、選抜型(エリート育成型)、ホンダは昔ながら全員底上げ教育型の違いがありそうです。
日産は、様々な人材育成の取り組みがあり、早期に人材を刈り取り、グローバルリーダー研修に突っ込み、早期に幹部としての登用を目指しています。
また、キャリアコーチ制度なども早期から取り組んでおり、キャリア形成支援も充実はしています。ただ、比較的、優秀層への教育投資を厚くしているのが特徴でしょう。
一方、ホンダです。ホンダは、実務の経験を重ねるなかで、専門性や職務遂行能力を高めるOJT(On the Job Training)を基本とした人材育成を行っています。社員一人ひとりの能力向上に応じて、各階層別に研修プログラムを整えているとしています。
教育ポリシー・仕組みについては、どこまで統合を図るかは難しい問題であり、基幹人事制度・ポリシーの突貫工事が先になりそうですが、長い目で見ると、梃子を入れられる問題となりそうです。
5.採用
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その特徴での違いは、新卒採用比率と中途採用比率があるかもしれません。
全体として、自動車業界では新卒採用が中心である一方、技術革新や市場の変化に対応するため、どちらも中途採用の比率が増加している傾向があります。
以下によれば、ホンダの中途採用も増えており、2023年度には約半数の49%というデータがあります。
日産も、2023年度で約62%とされています。積極的に中途採用を行っているようです。
両社とも中途採用強化のポリシーは同じようです。日産の方が社内資料などの多言語対応が進んでおり、外国人が多い印象はあります。
6.その他の特徴
その他といえば、日産の方は、ここ最近の社内政治のごたごたや、外資系の影響もあり、創業者精神、DNA、よりどころを探しているという現状はありそうです。一方、ホンダは、過去よりさほど、他社との協業の経験が少なく、創業者精神に軸を置いているという点はありそうです。
このDNAについては、まさに水と油と言われる中、どのように、従業員に方向性を示し、エンゲージメントを発揮させていくのかが重要な対応となりそうですね。
最後に
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電機業界が総崩れして、さらに、自動車業界にもその波が来ています。正直、自動車業界の母屋がつぶれたら、いよいよ日本は、おしまいです。観光産業とゲーム産業ぐらいで生き残るしかないかもしれません。
ぜひ、相乗効果を発揮できる体制を整えていただきたいです。
一方で、1+1が2以上になる経営統合って、正直あまりお見受けしません。建前上そういうしかないですが、そこまで期待していいのかとも思います。投資家の方には納得いかないかもですが、せめて、産業維持のため、1+1を長らく維持いただきたいと切に願う次第です。
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