この塹壕のような惑星に救済を(原題:CビームのCはCrusaderのC)
〈以上が道に迷う者どもを待つ来世の一覧となります〉
草木も眠る丑三つ時。自室で眠っていた狩人の青年を揺り起こしたのはB教の司教でもある伯爵に侍る小柄な鉄の乙女、マイクロ比丘尼どもであった。
〈我々が計算した結果、今の狩猟生活を四十歳で死ぬまで続ければゼラ様の来世は良くて棘皮動物、最悪の場合はアミノ酸もありえます。今すぐB教に帰依しましょう〉
青年の名前はゼラ。是で良しと書いてゼラと読む。文机も燭台も無い狩人の部屋に集まった尼僧どもの双眸が闇夜の中で明滅を繰り返している。こんな夜分に伯爵の使いが来るというのは今に始まったことではない。伯爵は昼には眠り夜半に目覚め、領民の血を吸って生きる長命種であるからだ。
〈伯爵がゼラ様をお呼びです。すぐに召喚に応じてください〉
ゼラには父親がいた。名前を是空といって、生きる為に獣を殺すのではなく獣を殺す為に生きる狩人だった。その父親が伯爵の館に招かれて以来、何年も家に戻らないのがゼラの懸念だった。
〈悪人正機です〉
尼僧どもの説明によれば、殺生に明け暮れていた是空は伯爵の説法によって発心し、住処と家族を捨てて修行の旅に出たのだという。出家とは即ち出世であり、敬虔なB教徒にとっては歓迎すべきことであるらしい。そして妻子を案じる想いとは執着であり、家族への愛とて苦しみを生む源でしかないと伯爵は説いている。
(そして今夜、おれの番が訪れた)
ゼラには伯爵の召喚を拒むことが出来なかった。尼僧どもが「鉄」の力で動くように、狩人は石火矢に込める「鉄」を伯爵から与えられなければ生きる糧を得ることもままならぬ。そして何より、「自ずから動く」鉄の車によって彼の家は既に包囲されていた。(続く)
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