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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #24

「アタシの銭投げを、盾で受けたとはいえ微動だにしないとは」

「若様、早く其処をお退きください! そこな売女は更なる切り札を隠しておるやもしれず……!!」

二人の実力は拮抗していることが見て取れる。どちらかが倒れるまで見届けようと思えば、その間に僕の家が何度お取り潰しになるか知れたものではなかった。敵意が無いことを示すべく、金貨の入った革袋を拾い上げて行商人の足元に放り投げる。やはり重い。これほどの財貨を惜しみなく投じられる程の蓄えがあれば行商などせずともみやこに立派な店を構えられるだろうに。そんなことを思わずにはいられなかった。

「あ、いえ。そいつは慰謝料として受け取ってくれませんか。アタシにとっては端金ですが、お侍さんにとっては大金でございましょ?」

呉れるというなら遠慮なく頂戴しよう。放物線を描いて再び僕に向けて放たれた革袋を掴んで早速中身を検めてみる。日々の買い物に使うのが惜しいと思えるほどに眩く輝く良貨が、これでもかとばかりに詰められていた。

「ついでに、これも」

僕の足元に例の杖が転がって来た。「口封じの魔法」とやらが込められた一品である。やかましい相手を黙らせるのに有効だ。これもありがたく頂戴するとしよう。しかし忍者は面白くもなさそうな顔をしている。家来の機嫌が回復する魔法でもあれば良いのにと思うが、そんなものは無いのだろうか。

「よいのですか。本当にあの女狐を生かしておいても」

苦無と苦無を打ち鳴らして生み出される火花が、魔窟の薄暗闇の中で苦渋に満ちた忍者の顔を断続的に照らしていた。強敵との戦いにケリを付けたい気持ちも解る。だが戦えば長引くし、必ず勝てるとも限らない。何より、手傷を負わせて取り逃がしたとなれば、どんな手段で報復されるかわかったものではなかった。あの行商人は相当な財力の持ち主だ。金の力で手の空いた上忍を片っ端から雇われでもしたらと、考えるだけで恐ろしい。(続く)

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