【直球勝負】6回100球はどう見るべきか?

今日は5/22の中国新聞の記事より。
大瀬良、14打者と対戦。
いよいよプロ野球も開幕日が設定されたことで各チーム実戦モードに入った、というところでしょう。

投手の評価をするにあたって、6回3失点で投げていけば試合を作ったことの目安になる、という人もいれば、投手は勝ちがつかないとチームのために働いたことにならないのに、イニングで分けることが果たして正しい判断基準なのか、という見方をする人もいます。
または100球で変えるという判断に関しても、あまりにも少なすぎるという考えや、肩や肘への負担を考えるといいのではないか、という2つに分かれることがよくあります。
一体どちらが正しいのでしょうか?

まず先発投手の役割は「なるべく長いイニングを投げること」がまず第一になります。短いイニングで降りればリリーフ陣への負担も大きいですし、試合を進めるにあたって戦術的にもビハインドを背負っていくことにもなります。そしてもう1つの役割は「最小失点を目指して投げること」です。野球というスポーツは無失点なら負けることはありません。点を取っても負けることはありますが、点を取られずに負けることはありません。味気ないかもしれませんが、勝つということを念頭に置いて戦う際ここは大事なポイントであり、投手は大きなカギを握っています。

まず100球という考え方はメジャーリーグの投手起用の考え方で、日本では、例えば2009年までカープを指揮されたマーティー・ブラウン監督の影響を受けています。ブラウン監督の本国・アメリカでは投球数による規制が少年野球から厳しく取られていて、WBC(ワールドベースボールクラシック)でも決勝ラウンドでさえ95球という規制があるくらいです。投手には1イニング15球という大まかな目安があるのですが、95球ということは大体6回とちょっとぐらいになります。

アメリカのプロリーグ・メジャーリーグでは先発のローテーションが大体5人しかいません。さまざまな問題はありますが、先発投手には中4日で規則正しく投げ続けることが求められます。また東西に広い国土なので国内で時差があり、加えてカードごとに飛行機での移動など体にかかる負担というのはかなり大きいです。(ちなみにNFLの東海岸と西海岸のチームの対戦戦績において明らかな差が出ているくらいです。)
そんな過酷な環境でいいピッチングをすることがまず難しいのですが、それを定義した指標があります。クオリティースタート(QS)です。これは投手の成績を評価する上での指標で、6回3失点が1つの基準になります。投手にとってはこの指標はとても大事で、チームのためにどれだけ貢献したのかという点でクオリティースタートの確率が高ければ、負けが多くても高評価を得られます。

つまり6回や100球で、という考え方の大元は

①少ない人数のローテーションで規則正しく回していく必要がある
②時差、サマータイム、移動など環境変化におけるコンディションに対しての対応

であり、基本的には"過酷な環境で投げ続けられたという目安"であることと同時に、"どんなコンディションであっても投げてチームに貢献出来たと言える目安"でもあります。それを1年間、何年間も出来る投手というのはいわゆるスランプが少ない、波が小さいと思われることでもあり、評価も当然高くなります。

ここでとあるデータを1つ。

(名前/完投勝利数/完投勝利時平均球数/1イニングあたり平均球数/1打者あたり平均球数)
大瀬良/5/114/12.6/3.58
ジョンソン/1/120/13.3/3.87
菅野/3/125.6/13.9/3.77

これは2019年セ・リーグの完投勝利をした投手の一部の成績になります。
完投勝利をした3人の投手は1イニングあたり12〜13球くらい、110前半〜125球で完投し勝利をあげています。平均値から計算すると6回終了時は72〜78球。6回で100球に達していると、イニング平均は17球程なので完投するとなると大体150球になります。ちなみにこの3人の完投勝利時最多球数は140球にすら達していません。
まず完投勝利を目指すには、6回100球は球数だけを見ればペースとしてはかなり多すぎることが分かると思います。しかし逆に言えば6回を投げて100球で抑えるということは、調子は本調子ではなかったにしろその日のベストを尽くして、チームのためにしっかり粘り切ったということでもあります。

投手が完璧な状態でマウンドに上がることは、正直少ないと思います。僕自身も内転筋を痛めた状態で、バレぬよう隠して投げたこともあります。仮にいい投球を続けていても、ピンチを迎えるイニングでどうしても球数は増えてしまいます。そこで崩れずに投げきれるからこそイニング数というのはついてきます。先程6回や100球の考え方の大元とは何かをお話しましたが、まさにその日のコンディションに対応して投げたといういい例ではないでしょうか?

もちろん勝ちがつかなければ意味はないのですが、1つだけ言えるのは先発投手はあくまで長いイニングを最小失点で抑えることが役割で、球数が少なければ少ない程いいのです。何百も投げることが目標でもなく、投げた試合全てを勝ちに導くために努力を重ねるのです。我々野球の選手1人1人は技術者でもあります。6回や100球はあくまでも通過点や結果であり、その数字だけで読み取れないこともたくさんあります。選手はよりベストな結果を求めるために努力を積み重ねていくべきですし、見ている方々も言葉に踊らされることなく、投げている選手の内容もしっかり見ていただけるとありがたいなと思います。

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