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【解説】私が制作している12弦金属弦ハープについて

このたび『基礎からはじめる12弦金属弦ハープ』という教本を編纂しました。ただ、多くの人にとって、12弦か20弦か、金属弦?と言われてもピンと来なかったり、一体どういう楽器なのかわからないと思いますので、すこし詳しく解説したいと思います。

こちらが、今回発表した教本です。現在のところPDF版だけのご利用となります。

12弦金属弦ハープの教本

12弦ハープは文字通り、12本の弦が張られたハープです。他社さんでも12弦ハープを作られているところは多いですが、私の作るハープは「金属弦(真鍮弦)」がメインであることと、音域が低い音が G(ソ)から始まる点が異なります。(巷でよく見かけるパキスタン系のハープは、なぜか F(ファ)から始まるハープが多いです)

横浜日吉の古民家の庭に建てた工房で、私一人でデザイン、製作しているオリジナルハープ。一台一台少しずつ違っていて、同じものがふたつありません。日本画家中井智子の美しい絵付けが施された特別なモデルもあります。

金属弦は、同じ音域でもナイロン弦よりも弦長を短くできるので、他社さんよりも小ぶりで軽いです。

爪で弾くと綺麗な音がして、指を使う場合はペダルハープやナイロン弦ハープのように引っ張らず、軽い力で弾きます。また、半音を変化させるレバーはありません。

私の金属弦ハープ教室で最も一般に用いられているのが G3(ヴァイオリンのソ)から E6 までの20弦ハープです。小さくて軽く、響きもよいので、これから金属弦ハープを始める方にもっともおすすめしているモデルです。

20弦ハープ

これをさらにコンパクトにしたのが2018年に設計した12弦ハープ(G4-D6)です。便宜上この音域を「アルト」と呼んでいます。

アルト

すでに20弦以上のハープを習われている方が、旅行用等で2台目、3台目のハープとして買われるケースが多かったです。近年はこの小さなハープから習い始めたいという方も見られるようになりました。そこで、そのような方のために今回この12弦ハープの教本を編纂しました。将来的に20弦以上のハープに移行できるように、金属弦ハープ特有の演奏技法の説明を丁寧に書いています。

弦の数が少ないからといって自己流で適当に弾いてしまうと、悪いクセがついてしまう恐れがあるので、それを防ぐ目的もあります。弦の数が何本であれ、私のハープを弾く方には音楽と芸術的表現に対して真摯に向き合ってほしいと願っております…!

ちなみに、これまでにこのハープのための曲集を3巻、さらに『12弦ハープのための333の曲集』(2023) を編纂しました。


実際にはこれ以上のレパートリーがあり、音域の狭い12弦ハープといえどもかなりの曲数が弾けることになります。弾ける曲を探すのも楽しみの一つといえるでしょう。制限がある中での演奏になるので、ある意味でストイックな人向けの楽器ともいえます。

メリット

12弦金属弦ハープのメリットは、小型で持ち運びやすく、旅行先やベッドサイド等でいつでも綺麗な音で弾ける点と、弦が少ないため比較的調弦が楽、音域が狭いので弦の位置が把握しやすく、左手が難しい動きをしない、アルトの12弦だとさほどダンピング(消音)技法を気にしなくても良い、20弦以上のハープと比べると価格が安め、教本を使ったり教室できちんと学べば20弦以上のハープにも応用できる技法を習得できるという点が挙げられます。

デメリット

デメリットとしては、アルトだと小さすぎて弾きにくいと思われる方もいます。私がかなりの曲数を編曲したとはいえ、20弦以上のハープに比べると当然弾ける曲やアレンジが限られてきます。また、様々な曲を弾く際に調弦を変える必要があり、『333の曲集』では14種類もの調弦法が使われています。

12弦か20弦以上か

20弦ハープになると、たいていの曲が C(調号なし) と G(#ひとつ)で弾けて、24弦以上だとたいてい C だけで弾けます。ちなみに18世紀以前のアイリッシュ・ハープでは基本的に C と G の調弦しか用いられなかったという証言が残っています。

ただ…多くの方にとって、調弦を変えるのは少々面倒かと思われますので、今回の12弦ハープの教本では なるべく調弦を変えずに、C で弾ける曲を中心に集めました。また『333の曲集』は14種類の調弦を使うとはいえ、117曲が G で71曲が C など一つのキーでもかなりの曲が弾けます(収録曲とキーはこちら)。これは十分すぎるほどの曲数ではないでしょうか。とりもなおさず、弦の数は12弦しかないので、慣れてしまえば調弦をストレスに感じることも少ないかと思います。

12弦の金属弦ハープは使い方次第で可能性が広がるハープですので、ぜひ皆さんに弾いてもらえたらと思います。横浜日吉のアトリエシナモンでは、12弦ハープを多数展示販売していますので、弾いてみたいという方がおられたら、ご予約の上お越しください。お買い上げいただいた方には無料ガイダンス(30分程度)を行っています。また、初回限定の体験レッスン(60分4000円)もあります。

queenmaryharp@gmail.com (寺本)

12弦ハープはBASEでもネット販売しています。遠方の方はぜひご利用ください。


12弦ハープのサンプル動画

現在、横浜日吉のアトリエシナモンで展示販売中の12弦ハープを中心にサンプル動画をまとめました。

op. 321(羊羹色)とop.316(黒)

スタンダードな国産ヒノキ製ハープ(アルト)。現在、羊羹色、黒と白の三色の在庫があります。600g程度と軽いです。オプションで絵付けを施すこともできます。黒はマットな仕上げで手触りがすべすべしています。

「メルヒェン」(op.305, 個人蔵)

シカモアの一枚板をくり抜いて作ったハープ。op. 316, 314 などのスタンダードなモデルよりも少し大きめ。日本画家中井智子がメルヘンチックなかわいい絵付けを施した特別な一台です。赤ちゃんのようなすべすべした手触り。

「鳳凰と桜図」(op.255)

日本画家中井智子が「鳳凰と桜図」を描いた特別な一台。美術品としての価値もあるかと思います。

「迦陵頻伽」(op.235)

日本画家中井智子が「迦陵頻伽」の絵付けを施したモデル。

ゆりのき (op.274, 個人蔵)

ゆりのきをくり抜いて作ったハープ。若干ずっしりとしていますが、伝統的な金属弦ハープならではの上品な響きが個人的に気に入っています。支柱とネックに用いたサペリの光沢も美しいです。

青いハープ (op.219, 個人蔵)

個人蔵の青い12弦ハープ。『333の曲集』からダンス曲を弾いています。アルトの12弦はダンス音楽など速い曲が楽に弾けるのもメリットです。

様々な音域の12弦ハープ

スタンダードな G4-D6 の「アルト」以外にも様々な音域の12弦ハープを設計、制作してきました。「バス」「バリトン」「テナー」「アルト」「ソプラノ」の5種のファミリー楽器です。それぞれ個性があって魅力的です。何人かでアンサンブルで演奏するのも楽しいと思います。

テナー (G3-D5)

アルトよりも1オクターヴ低いモデルの「テナー」。ヴァイオリンのG3から始まります。他にはない丸くてかわいいデザインを採用しました。アルトよりも金属弦ハープ特有の残響音が長く感じられますので、ゆったりとした曲が合います。また、教本に書いた「ダンピング(消音)」技法の練習に最適です。20弦ハープに移行するときに違和感が少ないモデルでしょう。アルトよりは大きくなり、20弦ハープとあまり変わらないものもあります。木材や工法によって値段が変わりますが、6-8万円からお作りしています。

テナー

バリトン(G2-D4)

5種の音域の中で私が個人的に最も好きなモデルがバリトン。いつまでも長く響いてくれる低音が大変心地よいハープで、ずっと奏でていたくなる魅力があります。日吉に来られたらぜひ試奏してもらいたいです。演奏する際はしっかりとダンピング(消音)をすることをお勧めします。12万円から受注制作します。動画を見てわかるようにかなり大きくて形もユニークです。

バリトン

このハープから派生した低音に特化した20弦ハープ(op.271)も設計、制作しました。通常の20弦(G3-E6)を全体に1オクターヴ低く (G2-E5) しました。

バス(G1-D3)

ともかく大きなハープで、op.200 の 34弦ハープよりも大きいです。チェロよりも低い音が出ます。198000円から受注承ります。

バス
34弦のop.200との比較


ソプラノ(G5-D7)

5種の12弦ハープの中で最高音域のソプラノ。これだけは金属弦では難しいのでカーボン弦を使用しています。残響音が短くて物足りなさを感じますが、これはこれでキラキラとしたかわいらしい音色。ダンス音楽などを弾くのに適しています。4万5千円からお作りしています。

ソプラノ

バスからソプラノの5種の12弦ハープによるアンサンブル。


臨時記号の音の演奏

あらかじめ変則調弦(スコルダトゥーラ)を用いる場合、木の棒やフィンガーピックを用いる場合、左手の爪を使う場合があります。

ラ・ロゼットの変則調弦 曲の最後に爪を用いた半音変化も使用しています。

フィンガーピックを用いて臨時記号を演奏

左手の爪を用いてコードの中の臨時記号を弾いています。

カレンダマヤ変則調弦

このカレンダマヤ、次の「かえるとネズミの結婚」はユニゾンの弦を作って複弦楽器のような効果を出しています。

かえるとねずみの結婚の変則調弦

このように12弦ハープは、使い方次第で様々な演奏ができます。

12弦ハープから派生したセミクロマティックハープ

12弦ハープ(アルト)からC♯とF♯の弦と、低音にD4のドローン弦を追加した特別モデル。12弦ハープのための曲をC, G, D の3つのキーを調弦しなおさずに演奏することができます。68000円から受注制作します。

12弦ハープで奏でる讃美歌

販売中のハープ画像

op. 316 杢目を活かした黒の塗装
BASE で販売中。
横浜日吉のアトリエシナモンで展示販売中。
テラスで弾くのも楽しいです。
羊羹色のop.321
op.321 は共鳴胴を少しだけ広めにとりました
「鳳凰と桜図」(op. 255) 賀茂川で奏でるのが心地よいです。
軽い力でよく響くモデルです。
日本画の岩絵の具と金箔で繊細な絵画が描かれています。
「迦陵頻伽」(op.235)
仏教における上半身が人で下半身が鳥の生き物。非常に美しい声で歌うと言われます。
アルトより1オクターヴ低いテナー (op. 263) よく響きます。


テナーの新作(op.320)とっても長い響きの名品。
op.263よりも共鳴胴の幅を広く取りました。

個人蔵の12弦ハープ

「龍のハープ」(op. 295)
アルトの音域ながら共鳴胴を大きく取り、響きを大きくした特別モデル。
高さができるので少し弾きやすくなります。
「人魚のハープ」(op. 282)
無塗装ですべすべした手触り。
2018年に制作した op.145
12弦ハープ(アルト)の原型となったモデル。
ピーコックブルーの op. 219
ご購入後、鳳凰の絵付けを施しました。
「迦陵頻伽」(op.146)
天使のようなイメージですね

受注制作について

在庫のないハープは受注制作可能なものもあります。全額先払い、製作後のキャンセルは不可となります。

queenmaryharp@gmail.com (寺本)

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