歌川たいじ「心が折れる…を、どうやって乗り越える?」
(キャリエルメディ2022年10月号特集「折れた心を乗り越える」特別寄稿より)
看護とリハビリキャリエルメディ2022年10月号(書籍版)
看護とリハビリキャリエルメディ2022年10月号(キンドル版)
「心が折れる」
そんな言葉をよく、耳にしますね。
Twitterで検索してみると、いつでも夥しい数のつぶやきがヒットします。1時間のうちに100を超えるツイートがあるのを見たときなど、「日本人、どんだけ心が折れてるんだ」などと、心配になったりします。きっと全国でバキバキと音を立て、さまざまな人の心が折れているのでしょう。日本人って、割り箸なんでしょうか、パスタなんでしょうか。
そんなご時世だからなのか、私が逆境人生をいかに乗り越えてきたかをテーマに講演してほしいという依頼をたくさんいただくようになりました。まぁ、私も好きで逆境を食らってきたわけではないのですが、こんな経験でも誰かのお役に立てるならばと、全国の自治体や企業、大学や高校などで、逆境乗り越えヒストリーをお話しさせていただいています。
逆境を乗り越えるといっても、「オラ、ワクワクすっぞ」とカメハメ波を撃ち込んだわけでも、敵対人物にキレたゴリラのように排泄物を投げたわけではありません。たいていのことは、勇敢でも凶暴でもなく、ただ逃げました。
自分で言うのもなんですが、いいんです、逃げたって。
野生動物にとって、逃げることは生きることです。どれだけ敏捷に逃げ隠れできるかで、まさに生死が分かれるのです。ライオンに立ち向かうガゼルなんか、いません。できれば逃げ際にスカンクの最後っ屁でもかましてやりたいところですが、努力で臭腺を獲得することはできません。もし獲得できたとしても、臭腺を抱えて生きていくことに若干の疑問も残ります。復讐とか余計なことは考えず、ジグザグ走りで逃げ切るのがいちばんです。
そんなふうに、たいていの苦境から逃げてきた私ですが、その割にいま幸せです。 パートナーと20年以上仲良くやっていますし、40年近くつきあいのある友だちと愉快な酒盛りをしょっちゅうやっています。四十路を過ぎてからまったく経験がないのに、まんが家・小説家デビューしましたが、作品はそこそこ売れて、映画にしていただいたりもしました。
「なぜなんだろう」
自分でも首をかしげたりするのですが、思い当たる原因があるとすれば、逃げるに逃げられない、網戸にはさまった蛾のような状況になったときに、たくさん「学んだ」からではないかと思うのです。
私は子どもの頃、凄惨な児童虐待といじめに遭いました。虐待死やいじめを苦に自殺などの悲しいニュースを目にしますが、私が経験したのはそれと寸分違わぬものでした。子どもですから、当然、逃げ場はありません。大人になってからもひどいトラウマや、発育過程でのねじれを抱えていますから、普通にコミュニケーションをとることもできません。ともすれば、おまえなど誰からも好かれない、死ねばいいなどと、自分を攻撃する自分に痛めつけられました。それは自分の中にいますから、逃げることなどできないのです。
また、かつては自分に暴力をふるった親に、相続放棄でなど片づけられない数千万円の借金を遺され、債権者に追われた挙げ句、2年も裁判をやったこともありました(一審で敗訴、控訴して逆転勝訴)。
「ちょっくら2000年ぐらい石になるわ」と中国の未開の秘境に消えるわけにもいかず、どうしたらいいのかわからないという状態のまま、今日よりつらいだろう明日を待つ毎日でした。
幾度となくそんな目に遭ってきた私ですが、命を捨てずにこられたのは、友人たちがそんな私を見捨てないでいてくれて、私も友人を「オマエらに王妃アントワネットの気持ちがわかってたまるか」と見限ったりしなかったからだと思います。仲間さえいれば、そこが居場所なのです。居場所がある限り、人は生きていくのです。
仲間を手放さないでいられたのは、つらい中で学んだいくつかのことが、私に力を与えてくれたからだと信じています。今回は、その「学んだこと」の最重要ポイントを、みなさんにご紹介させていただきます。
これ以降の内容は「キャリエルメディ」でお読みいただけます。
続きがきになる方は、ぜひご確認ください。