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端山茂山奇譚(拾参)

端山茂山奇譚(拾参)

この連なる山々の一番端にある、小さな山。
あそこに住む天狗どもの話を聞いたか?
なんでも、江戸から小僧を一人連れてきてたそうな。
そいつは、天狗になりたいと言っていたから、連れてきたとか。

どうやって連れてきたんだ?

そこはそれ。天狗は遠くまでひとっ飛びで移動できるからな。

天狗どもは、年中、江戸にいくのか?

江戸だけじゃないな、もの覚えの良い奴の噂を聞きつけては、いろいろな場所に行く。
ただ、江戸に住む人間は多い。だから適材も多いってことだ。

それにしてもあの小僧、えらく記憶力が良い。
見聞きしたものをすぐ覚える。

大丈夫なのか、そんな小僧を連れてきても。

いやなに、天狗の親方が言うには、問題なくて面白そうなところと見せているそうだ。
で、しばらくしたら、江戸に返すんだとか。

何のために天狗どもはそんなことするんだ?

江戸には物書きも多くてな、奇談も喜ばれる。
この小僧に見聞きしたものを、物書きが話のねたにするために聞きに来る。
それを書いて、売り出す。
そうすると広く天狗のことが知られるって寸法だ。

なるほどな。あの山のことを世に知らしめるには良い方法だ。
力を持つ天狗が沢山いると知らしめて、願掛けに来る人間を多く呼びたいんだろうな。

天狗は、願掛けに来た人間の願いを叶えるのも仕事だ。
江戸からあの山に、ご利益を求めて人が来る。
そうすると天狗の仕事も増えるし、実入りも増えるってわけだ。

しかし、ひとっ飛びで江戸に行けるなら、天狗どもは江戸で実入りを稼げばいいじゃないか。

いや、江戸には既に、他の天狗の仲間の縄張りになっているからな、そこでは稼げないのさ。
そこで、記憶力の良い小僧を連れてきて、いろいろ面白いことを見聞きさせ、しばらくしたら
江戸に連れて帰る。
江戸ではしばらく行方不明だった小僧が戻ってきて、しかも、遠くの天狗の話をする。
物見高い江戸の人間の噂になり、物書きもその話を書き、それをまた人間が買い求めて読んで、
話を広めるってことだ。

うまいこと考えたな。

ではあの山の天狗の目論見、見物しようじゃないか。



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