端山茂山奇譚 (弐)
端山茂山奇譚 (弐)
ああ、またあの海がぼうっと青く光る時が来たか。
山の端の向こうに続く海が。
水無月の塑月の夜がまた巡ってきた。
水無月の塑月の夜にだけ、あの海が青く光る。
晴れた、穏やかな、月のない塑月の夜にだけ、この山から見ることが出来る。
この修行の山で、運の良い行者しか見ることは出来ないが、
あの光を見た修行者が代々、語り継いでいる。
今年も見ることが出来た。
この光、ある者は『龍灯』と呼ぶ。
また別の者は、雷が鳴る夜、高い梢の先に灯る青い炎を『龍灯』と呼ぶものもいる。
わたしは、この水無月の塑月の時だけ見える、あの海とこの山を繋ぐような龍灯が好きだ。
この山の中にも、蛍が飛び交う所がある。
そこで佇んでいると、あの海の青いぼうっとした光と同調するように、沢山の蛍が光り、飛び回る。
ああ、あの海から青い光が飛んできて、ここで舞っているようだ。
水無月の塑月の夜の、光の幻惑。
月のない夜、星々を背景に 闇の中を静かに舞う龍の、鱗の煌めき。
この夏の水の恵みをもたらす、龍の舞。
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