習作・ショートショートのようなもの③『丹田』
「丹田は下腹あたりにあるというよな」
「聞いたことあるな」
「あれ、なんでだと思う」
「さあ…? うーん、ここぞという時に、『下腹に力を込めろ』というし、
力が入りやすいからじゃないのか」
「たしかにな。頭にも、手足にも力は込めろとは云わないな。胸に力を込めろもないし、 同じ腹でも『胃に力を込めろ』もないな」
「経験則でそう言われてきたんじゃないのか?」
「そこよ。経験的に、どうして下腹に力を込めると良いのかってことよ」
「うーん…体の中心だからか…?」
「体の中心かなぁ?腹の下はほとんど脚だろ」
「腹って、つまりはほとんどが腸だよな」
「そうだな」
「生き物と、生き物でないものの一番の違いは、物を外から体内に取り入れるかそうでないか…ってことじゃないかと思うんだよ」
「うんうん」
「単細胞生物でも多細胞生物でもそうだよな」
「うん、確かに」
「俺ら人間は多細胞生物で、植物でなくて動物だけど、母親のおなかの中の赤ん坊は、 生物の進化の過程に従って、育っていく…と昔、学校で習った記憶がある」
「それ、本当なのかな」
「分かんないけどさ、で、細胞が分裂して、最初に形成されるのが腸の元…原腸というらしいんだけど、それだって何かで読んだ」
「ほお!お前、詳しいなぁ」
「いや、読みかじっただけだけどな。…つまり、多細胞生物が進化していくときに、腸はとても早い時期に出来たってことだよな」
「効率的に外からのものを吸収してエネルギーにするためだろうな」
「とすると、丹田なるものがあるとしたら、やっぱり腸のあたりだとうのが自然だろうな」
「『下腹に力を込めろ』は生物進化の何億年もの歴史に基づくと?」
「そういうことになるな」
「なるほどな! すごい説得力あるな」
「あと、もう一つ、思うんだけど、腸の中にはものすごい量の細菌やらバクテリアやらが住んでいるっていうじゃないか。体重の数分の一は腸に住むそいつらだそうだ」
「…まじか!考えると不気味だけど、確かにそうかもしれないな…」
「腸に住む細菌によって、体調もコントロールされているっていうぞ」
「確かに最近、『腸活』とかいって、腸の中の細菌やらバクテリアに良いものを食べましょう…という番組を見たな」
「そうなると、『下腹に力を込めろ!』は、自分自身の他に、体の中で活動している自分以外の微小だが、超大量の生き物たちの総力を結集しろ!ということにもなるな」
「これまたすごい説得力だな」
「丹田って、それの総称じゃないかな」
「すごいな…おまえ、さては仙人だな?」
「ふふふ…そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
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