【 Care’s World case 10 今、この瞬間を楽しみ、自立へのキッカケをつくる 〜 CILひかり 上妻 龍一さん 〜 / -前編- 】
“ケアすることは、生きること”
そんなテーマでお送りしているCare’s World。
今回の主人公は、上妻龍一さん。
脊髄性筋萎縮症(※1)を患い、7歳から30歳まで脳神経内科病棟(※2)で過ごし、30歳から自立し一人暮らしをされています。現在は『CILひかり』(以下:ひかり)に所属しながら相談員(ひかり内では当事者スタッフと呼ばれている)として勤務されています。
そんな龍一さんから、今までの背景ついてお話を伺っていこうと思います(※3)。
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病院を飛び出して、自立した生活をしたい
龍一:僕は生まれつき脊髄性筋萎縮症を患い、7歳から23年間、専門病棟で生活してきました。24歳の時、『ひかり』の代表をしている川﨑さんとの出会いが一つの転機でした。彼も僕と似たような難病を患っていたのですが、地域の中で一人暮らしをしているのを知り、自立に向けて気持ちが動き出したんです。
僕は気管切開(※4)もしているし、重度の障害だったので、病院を出て自立した生活は難しいと感じていました。でも、川﨑さんから「自立できるよ」と背中を押してもらったことで一歩踏み出すきっかけになりました。
他にも2つ理由があって、1つは親のことです。ありがたいことに毎週のように病院に顔を出してくれて、一緒にお出かけをしたり、好きな食べ物を差し入れてくれたり、そのおかげで楽しい時間を過ごすことができました。
ただ、これからのことを考えた時にふと思ったんです。「親が高齢になれば、いつ何が起きるかわからない。」「もし、親がいなくなったら、病院での楽しみを見出せるのか?」って。そう思うと、急に大きな不安が襲ってきました。
龍一:もう一つは脳神経内科病棟で一緒に生活していた友人の死でした。当事者同士だからこそ分かち合ったことも多かった大切な人だったので、ショックは大きかったです。当時、その悲しみを感情として表に出すことはなかったけど、病棟のスタッフさんたちには結構心配されていたと思います。
そこから「病院を出て、自立した生活をしよう」と決めました。それが25歳の時です。ただ、結局、その想いが実現できるまでに5年かかりました。僕自身がすぐに行動に移せなかったことや周囲の心配の声もあったからです。時には厳しい言葉を浴びて「僕は人として扱われていないのではないか?」と怒りが込み上げたこともありました。
そんな状況でも、親からの「あなたの人生だから、好きにしていいんだよ」という優しい言葉が僕を救ってくれました。僕より先に病院を飛び出て、自立した仲間もいたので、それも背中を押してくれたと思います。時間はかかりましたが30歳で自立に向け一人暮らしをスタートすることになります。
“僕は今、この瞬間を生きている”と実感する
龍一:一人暮らしを始めたのはよかったものの、最初は大変なことだったり、悩みを相談できませんでした。昔からの癖で我慢する傾向にあって…。今の職場でも「もうちょっと自分の感情を出した方がいいよ」と言われます。
そんな時、ひかりにいる先輩たちに相談すると「我慢せずに、自分のやりたいことをやったらいいんだよ」とアドバイスをしてもらいました。そこから少しずつ好きなことをできるようになってきていると思います。一人暮らしを始めてから1年経つとコロナ渦になり色々と制限が出てきましたが、それでも好きなことができる喜びのほうが大きかったです。
入院している患者さんたちはコロナ渦が落ち着いた今でも、面会や外出が以前より制限されていると耳にします。だから、思うんです。「あの時、勇気を振り絞って病院を出ていなかったら、会いたい人にも会えなかったし、行きたい場所にも行けなかっただろう」って。
病院側も患者さんやご家族のことを配慮しての制限を決めているのはわかります。それでも、残っている患者さんたちのことを思うと切なくなってしまいます。
龍一:僕は今『ひかり』のスタッフとして働いています。一人暮らしを始めた時期は、家から事務所までが近かったので遊びに行ったり、イベントにたまに参加するぐらいでした。次第に「ゆくゆくはひかりのお手伝いができたらいいな…」と思うようになり、ここ2~3年で一緒にお仕事をするようになっています。
30歳になるまで社会経験をしたことがなかったので、最初は不安が大きかったです。でも、その中でも嬉しさもありました。入院している間は「そこにいるだけ」という感覚だったのですが、『ひかり』で活動するようになってからは「生きてる!」と実感できるようになったんです。
忙しさに追われて「大変だな…」と思うこともありますが「そんな部分も含めて、僕は生きているんだ」「今、この瞬間、本当にやりたいことができているんだ」と心の底から思っています。
(後編へ)
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