【 Care’s World case 12 リハビリを空気のように日常に溶け込ませ、誰もがWin-Winとなる文化を 〜理学療法士 村場 弘卓さん 〜 / -後編- 】
前編では、理学療法士の現場を通して感じた違和感について伺いました。
後編では、その違和感をもとにした地域との関わり方などについて深掘りしていきます。
前編はこちら。
Care’s Worldについてはこちらから。
空気のようにリハビリを
村場:新卒2年目の時、骨折した患者さんのリハビリをしていて「何を目指してリハビリをするか?」を考えたんです。一般的に理学療法士なら「歩けるようになりましょう!」と考えると思うのですが、そうではなく「杖で歩いていた人が、二度と転ばない歩き方までもっていくのが理学療法士なんだ」と意識するようにしました。
転んでしまったことが問題であって、転ばないように歩くまでにどのように体と環境を整えていくか。それが僕の今のテーマにもなっています。歩けたから「よかったですね、おめでとう」じゃないんです。「病院の中で、いかにイレギュラーな状態や患者さんの自宅の状況を想定しながらリハビリできるか」が大事なんです。それが逆にチャンスだと感じています。
村場:その上で、空気のようにありたいと思っています。今勤務しているデイサービスでは、1日のプログラムの中に集団体操を取り入れています。朝の家庭菜園の小話から始まって、アバターの動画を流しながら体操をするのを毎日ルーティンでやっていて。僕自身がやっている運動プログラムを動画編集しているのですが、そこに至るまで3年かかりました。
単に時間を決めて、体操をするだけだと患者さんにとってつまらないものになるし、現場のスタッフにとっても負担がかかってしまいます。それよりは、楽しく、かつ、負担なくという視点で、日常の中にリハビリがあるように組み込むように試行錯誤しているところです。
間抜けであること
村場:お客様体質の体操教室をやめる。そこをチームで意識しながら、地域の皆さんと関わっています。例えば、老人ホームの窓拭きや洗車をしてもらったりして、その代わりに体操の時間や体のノウハウを共有し、お互いに交流しようというカタチにしたんです。そうするとWin-Winですよね。お互いのことを好きになるし、近しい存在になれば、普段言いづらいことも話しやすくなり、早期予防に繋がったりするので、非常に大事なことかなと思います。
そこから派生して、地域ですれ違ったら挨拶もするし、リハビリ関係なく困った時に相談できる相手もできますし。それも先ほどお話した「空気のように」という部分も通じてきますよね。他にも、地域サロンにも仕事で出向いていて、血圧を参加者同士で測ったり、体操の準備を一緒に手伝ってもらうとか。時間はかかりましたが、お客様体質ではないものになってきていると思います。今では地域サロンの最後は皆で一緒にお茶を飲む時間が恒例になっていますね。
村場:「間抜けであることがいいのでは?」と思っています。ある時、職場に忘れ物をしてしまって、『あ!忘れ物しちゃった!申し訳ないですが、お互いに血圧を測りあって待っていてくれませんか』ということがありました。『もう、しょうがないなぁ〜』なんて笑いながら地域の方々も仰ってくださったのですが、なんとそれ以降、私たちが来る前に、公民館に常設の血圧測定器で、お互いに血圧を測って待っていてくれるようになったのです。
私たちが医療職として完璧な姿に見えるよりも、ちょっと間抜けな方が、地域の方の力を引き出せるのかも、と思った出来事でした。そうすると息子や孫のように可愛がってくれますし。3地域合同でサロンの皆さんと忘年会を開催したことがあります。そば打ち・天ぷらづくり・門松づくり、というふうに地域ごとに役割を分けました。そして、それぞれつくったものをそれぞれに分け与えるようにしました。家族みたいな関係性なっちゃっています(笑)。すごいなと感じたのはサロンを『デイに行く前のデイサークル』と称して、毎週火曜日に自主的にやっているんです。「デイサービスに行かないため」もですが「何かあったら、よろしくね」という意味合いも含めているようです。
その中には短期記憶障害(※1)の人もいらっしゃって、毎朝公民館の窓開けとゴミステーションの掃除をしてくれています。その活動を地域で見守ってくれていて。そんな方が自宅で暮らすのが厳しくなってきた時、画一的なサービスだけでは補えない部分はたくさんあります。「今度、僕がコーヒー用意していくので、お話しましょう」という感じで、送迎がなくてもご自宅に伺い、本人とご家族と話をするようにしています。それを許してくれる職場の環境があるのは本当にありがたいです。
やりたいと思った時に、動くか・動かないか
村場:皆同じだと思いますが、アイデアは浮かびます。でも、その先に「動くか・動かないか」は結構大きく分かれていて、それ次第ではアイデアが無駄になっているものがたくさんあるんです。仕事や活動でもですが、趣味でも同じことが言えます。車の整備は好きですし、植物やコーヒー、DIYとかにも時間とお金を投資しています。すべて共通しているのは「“やりたい”と思った時に、行動に移すこと」です。
今やりたいと思っていることは腰痛予防対策の鹿児島支部の活動です。ノーリフティングポリシーの理念を持った組織づくりをいろんな分野の経営者やスタッフ、地域に落とし込むことで絶対Win-Winになると確信しています。今年は県でも今までの取り組みを発信し、県内各地を行脚しながら、2027年までに「ノーリフティングポリシーを取り入れることで、腰痛予防対策から始まるケア文化の刷新が生まれるんだよ」ということを届けられたらと考えています。
村場:2021年に東串良町の山中醤油株式会社のサポートメンバーとしても、異業種の仲間と活動をともにしています。醤油の製造や商品を運ぶ際に姿勢に気をつけないと腰痛になってしまうので、理学療法士の視点でアドバイスしています。逆に、僕が触れたことのない分野の仲間がいるので、彼らから教えてもらうことも多いです。
そこから、どんどん派生できる部分があると思うので、病院や地域だけではなく、医療や介護以外の企業にも入っていきたいと考えています。そうすれば、腰痛の人も患者数も減らせるし、病院側も負担も減ってきます。本当Win-Winなんです。他にも、障がい福祉や建築の基礎についても学びたいので、それを行動に移して、僕の思い描くケア文化の刷新ができるようにしていきたいです。
(終わり)
(前編はこちら)