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境界知能の人が就労で困っている


 2024年10月に『教師、支援者、親のための 境界知能の人の特性と支援がわかる本』を中央法規出版から出しました。そこで、著者の梅永雄二先生(早稲田大学)に、本書に込めた思いをうかがいました。


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執筆の動機、背景

 私のところに相談に来られる成人の方の中には、発達障害、とりわけご自分のことをSLD(限局性学習症)ではないかと考えられている人たちが数多くいらっしゃいます。ところが知能検査を実施すると、知的にボーダーラインであるIQ70~85の範囲の人たちが多く、単に読み・書き・計算等が苦手なのではなく、判断力や推理力、記憶力などを含めた全般的知的能力が定型発達の人たちに比べ低いことがわかりました。
 境界知能は、医療機関で診断されることがほとんどなく、教育機関においても何とか学校を卒業できるものの、就職がなかなかできません。たとえ就労したとしても、「仕事ができない」といわれ退職される人たちが多いことに気づきました。境界知能の人たちは、学校教育においては特別支援教育の対象とはなっておらず、就労においても障害者雇用の対象となっていないため、支援の必要性を感じたというのが執筆の動機の一つです。

境界知能の人の現状について

 境界知能の人たちは、幼児期には保護者や本人もその特性理解ができておらず、学校に入ってから勉強についていけないため先生に叱責されたり、友だちからいじめられたりすることにより、不登校になることがありえます。しかしながら、医療や教育、福祉ではほとんどサポートがされていないのが実情です。
 勉強についていけないことは努力不足のせいだと周囲からみられてしまうことで本人は強い自己嫌悪に陥り、それがひいては非行・犯罪につながる可能性もあります。
 現在の日本は少子化の影響もあり、選ばなければ高校だけではなく大学への進学も可能となっています。しかしながら、学校卒業後の社会参加がうまくできていません。とりわけ、就職が困難、たとえ就職しても定着できずに離職するといった状況を呈しています。
 仕事がないということは経済的に自立できないため、成人期の社会参加で様々なトラブルを生じさせます。はっきりとした数字はわかりませんが、性的搾取や犯罪などに関連している場合も多いのではないかと考えます。

職業的自立は可能です

 境界知能の人たちは、知的レベルは定型発達者に比べて高くはないものの、決して社会参加、職業的自立が困難な人たちではありません。ただ社会の無理解のため、彼らは苦しい思いをしています。医療、教育、福祉、労働等の領域で彼らに合ったサポートがあれば、自立できる可能性はずっと広がってきます。
 本書では「彼らが抱える困難さ、そしてこのようなサポートがあれば彼らも自立して社会に参加できる」ことを書き記したものです。それらが読者に理解され、伝わることを切に願っています。



梅永雄二(うめなが・ゆうじ)
早稲田大学 教育・総合科学学術院 教育心理学専修 教授。
障害者職業カウンセラーとして地域障害者職業センターに長年従事してから、障害者職業総合センター研究員、明星大学、宇都宮大学の教員を経て、現在に至る。主に自閉症を中心とする発達障害児者の社会参加・職業的自立に関する研究を行っており、米国ノースカロライナ大学TEACCHプログラムにおける構造化による支援を推進している。
著書に『15歳までに始めたい! 発達障害の子のライフスキル・トレーニング』、『発達障害の人の「就労支援」がわかる本』(共に講談社)、『こんなサポートがあれば!』3巻シリーズ(エンパワメント研究所)など多数。

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