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【ケアまち座談会vol.2】「芸術が作る場づくり」開催レポート

8月21日21:00-22:00、【ケアまち座談会vol.2】「芸術が作る場づくり」をオンラインで開催しました。

前半は、ゲストトークとして上田假奈代さんから「ココルーム」での活動についてお話を伺いました。後半では、ダイアローグセッションとして、ココルームの取り組みとケアやまちづくりについて、上田さんとココルームでインターンをしていた金田が対話を深めました。

【ゲスト】上田假奈代さん NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)代表理事
【ファシリテーター】玉井・金田・守本 ケアまち実験室ラボマネージャー


ゲストトーク

ご登壇いただいた上田假奈代さん

喫茶店のふりをしたアートNPO「ココルーム」

今回のゲスト上田假奈代さんは、大阪の西成釜ヶ崎(*1)で「こえとことばとこころの部屋(ココルーム)」を運営している。釜ヶ崎は戦後、高度経済成長を支えるべく、日雇い労働者が集められた街だ。劣悪な労働環境や度重なる暴動のためネガティブなイメージを付与されてきた。この街で暮らしてきた労働者たちは、仕事がなくなり、路上に押し出され、現在では、高齢化が進み生活保護受給者も増えている。
この街に関わるようになった上田さんは、2003年に喫茶店のふりをしたアートNPO「ココルーム」を立ち上げた。
「アートといえば、美術館や劇場で行われていてその担い手はアーティストだと思う人も多いかもしれませんが、私は今を生きる私たち一人ひとりのものとしてその間に表現を置きたいなと思っています。」
と上田さんは語る。

ココルームでは店内で定期的に詩や俳句を書くワークショップを行っている他、店先でバザーを開いてコミュニケーションが生まれるようにしたり、医療者と連携して月に一度まちかど保健室を開いたりしている。365日開いた場所をつくりながら、そのところどころに時間と空間を区切るワークショップの時間を持っている。
2012年には、ココルームを飛び出し、おじさんたちのところに出向いてダンスや狂言、写真、お笑い、民族楽器、ジェンダーの講座等をやったり、おじさんたちの得意な土木仕事で井戸をつくったりという活動をする「釜ヶ崎芸術大学」もスタートした。

*1)現在、正式には釜ヶ崎という地名は残っていない。西成地区の北東部の一部地域を指す通称

ココルームの初めてのお客さんが教えてくれたこと

喫茶店のふりを始めて、「最初のお客さん」と上田さんが記憶しているのは、毎日何度も喫茶店にやってきては注文もせずに座って、隣の人の腕をつねってしまうおじいさんだ。スタッフからは出入り禁止にしてほしいという声もあった。それでも、上田さんは「何かが腑に落ちなかった」と言い、おじいさんとの関わりを探った。店内で定期開催されるワークショップに何度誘っても断られるという付き合いを一年半くらい続けたある日のことだ。いつものように、おじいさんを手紙を書くワークショップに誘うと「書くわ」と手紙を書き始めた。
「字の書き方を聞いてくるんですね、ショックでした。字が得意じゃないということを想像もできていなかったんです。私たちとの付き合いの中で、信じてくれたんやなと思いました。実は、表現をする前に、一人ひとりが認められ安心して自分の思っていることを言える、表現できる場をつくる。そういう場をつくろうとしていくことが私の仕事ではないかと思いました。それを釜ヶ崎のおじさんが教えてくれたんです。」

変わりゆくまち・釜ヶ崎へのまなざし

釜ヶ崎で20年に渡って活動を続ける上田さんは、釜ヶ崎のまちや釜ヶ崎の人々をどのように見ているのだろうか。

マンチェスターで行われたホームレスの方とアートの取り組みに関するカンファレンスで、ハウジングファーストなマズローの法則の考え方だけでなく、「家も居場所も表現しあう場所も、どれもパズルのピースのように大事」というジグソーモデルの考え方を学んだ
マンチェスターから持ち帰ってきたという3つのキーワード

「問題が溢れかえっている釜ヶ崎では、様々な団体が問題を発見しよう問題を解決しようとやってくるが、釜ヶ崎の問題は餌ちゃうねんという気持ちになる。とはいえ、問題はたくさんあるので、面白いところに注目する。そして一人ではやらない、みんなでやる。
20年やってくるなかで、社会で周縁化された人々の正直な表現に出会ってきた。それは『たくましく、したたかで、ユニーク。』私も何度も励まされてきた。そう思うと、問題や課題だらけの支援される存在に閉じ込めないでほしい、と思う。支援される存在ではなくて、色々な経験を持つ、社会を変えていく力を持つ存在ではないかと思う。そんな人たちが力を発揮していくためには『居場所』『出番』『つながり』を耕すことが大事だと思う。」

釜ヶ崎も投資の対象となり、立派なホテルができたりもうすぐ万博があったり、新しい駅ができたりしている。変わりゆくまちはとめられないけど、生きてきたそれぞれの人が積み重ねてきた経験や記憶を表現しあいながら繋いでいくような場所をつくりたい、と現在は釜ヶ崎アーツセンターをつくろうとしているという。しかし、箸にも棒にも掛からないので、最近は「釜ヶ崎アーツセンターあかんかな構想」と名付け活動を続けているそうだ。

ダイアローグ

ダイアローグ中の様子

ココルームでみたこれが「ケア?」なこと

金田:
ココルームでのインターン中に、これがケアかもと感じたことの一つに「表現することが人として認められていること」がある。インターン中、少し暴言を吐きながら入ってくる人に、私はどう対応していいか戸惑った。そのときかなよさんとその人のやりとりで、その人が「迷惑をかけてごめんな~」と言ったとき、かなよさんが「迷惑かけられたら嫌や」と素直に言っていたのが印象的だった。スタッフだから我慢しようではなく、人として素直に嫌なことは嫌だと伝えたり、「酔っぱらっている人はだめだから明日おいで」と行動はだめだけど、人としては認めていることが分かるような伝え方をしていた。それがそこに来ている人の安心感につながっているのではないかと感じた。

上田さん:
声はたくさんの情報がのると思っているので、しんどいことや厳しいことを伝えないといけないときは、明るく朗らかに伝えるようにしている。その人の名前を呼んで、圧をかける声ではなくてフラットな声、楽しい声で伝えたいと思っている。ケア的な優しくしてあげるよ~みたいなことはしてなくて冷たいくらい。ただ、本人に言ってもらわないと助けることもできないと思っている。なので、推測して先回りするのではなく、困っていることを言ってもらえるように声をかけている。
ココルームにいると、自分自身がホームレスや排除された経験をした人が心を配っている風景に出会うことも多い。状況をよくわかっているからこそできるコミュニケーションの取り方をされていて、そのやりとりから学ぶことは多い。そこには想像を超えたやさしさがある。

ココルーム的な場所はどうやったらつくれるの?

上田さん:
ココルームは喫茶店のふりをしながら色んな人が交差する場所で、色んな活動をしている人たちのハブになると感じている。情報が交差する場所、アイデアや人をつなぐ場所としてまちの中で機能していると思う。行政の人も地域で活動している人も研究者もしんどい人も集まってくる。そのれぞれの人の声が集まってきている。

金田:
人・情報・アイデアの交差点になるために気をつけていること、意識していることはありますか?

上田さん:
その人の話を聞いて、その人のためにできることをただ続けているだけ。困りごとややってみたいことを聞いたときに、この人と繋げたらできるかも、この助成金を使ったらできるかもと、自分の中で顔の見えている人のことだから即動ける。「反応」や「応答」に近い気がする。
釜ヶ崎藝術大学をはじめる前年度に月1度やっていた取り組みに参加したおじさんが、ちょうど酒をやめないといけないタイミングで「酒をやめるのは薬でやめるんじゃなくて人生楽しみがあってやめれるんや」と言ってくれた。それを聞いて釜ヶ崎芸術大学のプログラムをつくっていった。

金田:
困っていることや弱いところを出せる安心感がココルームにはあると思うが、それはどうつくっているのでしょうか?

上田さん:
アイデア持ちの人がいらっしゃって、貧乏やから440円のコーヒーは高いとおっしゃる。でも、無料のお茶は気が引けると言う。その人が「困窮者ドリンクつくってくれへん?」と言い、「いくらやったらいいの?」「200円!」と次の日には200円の困窮者ドリンクが生まれた。そういうやりとりが見えるようにしているから、言える空気になるのかもしれない。

金田:
言ったことが受け入れられ、実現されていくからこそ、言ってもいいと思えるのかもしれないですね。

こうして座談会vol.2は幕を閉じました。

お知らせ

ケアまち実験室では、今後もアート、建築など、様々な方を登壇者としてお招きし、座談会を行っていきます。ケアまち実験室のメンバーになると、ケアまち座談会への参加費が無料になるほか、ケアまち座談会アフタートークへの参加(Slack)、ケアまち座談会アーカイブ視聴も可能となります。ぜひ下記リンクから詳細をご覧ください。

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(執筆:芦田遥陽)


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