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目標による管理TIPS キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座(33)

 以前メールニュースとして発信していたこの「キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事制度講座」。第33号はちょうどその頃「キャリア開発/キャリア・カウンセリング」という書籍を生産性出版から発行したばかりでしたので、その記念の「特別号」でした。その本の見どころ(読みどころ?)をご紹介し、「その補則号」としても目標による管理のTIPSをご紹介しました。
 その書籍、今は出版を終え、ユーズドのみとなっています。書き手の一人ながら「やはり良い本だなぁ」と思っていることもあって、改めてご紹介したいと考え、メールニュースも「特別号」「その補足号」をまとめて取り上げたいと思います。よろしければ、書籍の方もぜひ!(どうしても新刊が良いという方は、在庫がありますのでお問い合わせください…)

★この本の構成と、まず読んでおきたいところ

 この本は、6人の著者がそれぞれのスタンスでキャリア開発とキャリア・カウンセリングについて述べています。
 第1章では編著者である横山哲夫さん(NPO日本キャリア・カウンセリング研究会=JCC=顧問~肩書きはいずれも2004年当時、組織・心理開発研究所代表)がキャリア開発、キャリア・カウンセリングの現状と必要性、現状の問題点を広く取り上げ、総括しています。
 第2章の今野能志さん(JCC会長、行動科学研究所代表)はキャリア開発を進めていく上で、個人と組織の橋渡しとなるものであり、推進力ともなるMBO(目標による管理)を、キャリア・カウンセラーとして、またコンサルタントとして取り上げています。
 第3章の私はキャリア開発を進めていく上で必要な環境づくりを組織内、組織外についてまとめてみました。どちらかというと人事・組織コンサルティングの立場に軸足をおいています。
 第4章の上田敬さん(株式会社日立製作所労政人事部主管)は実際に組織内で展開していった内容を、その現場感覚をもって具体的に伝えてくれています。
 第5章は小川信男さん(フリーランサー、元株式会社日本・精神技術研究所)と八巻甲一さん(株式会社日本・精神技術研究所取締役)が、キャリア・カウンセリングについて、カウンセラーの立場から詳細に解説しています。
 それぞれの立場の微妙な違いが、キャリア開発とキャリア・カウンセリングを立体的に捉えることに成功しているのではないかと思います。

 とはいえ、いろいろな視点から述べることが、逆に分かりづらくしているという声もあるかもしれません。
 なので、読むときにはまず「まえがき」をお読み下さい。特に前書きの最後についているコラム「日本のキャリア開発とキャリア・カウンセリング」はなぜキャリア開発、キャリア・カウンセリングが必要なのかがコンパクトにまとめられています。
 この部分は全ての著者の立脚点でもあります。

★目次をどうぞ

 前書きを読んだ後はどうするか。横山さんの言葉を借りれば、後は「ご自由に」どうぞ。どの章も独立した構成になっていますから、どの章から読んでも大丈夫です。
 どこから手をつけていいのか? という方は、まず目次をご覧になってはどうでしょうか?
 自分にとって気になるキーワードがある章から読み始めるということもできます。キーワードは巻末にも準備されています(索引ではありません。それほど精緻になっていません)。これを見てみるという方法も良いでしょう。
 テーマがある程度絞られているという方は、いきなりその章から読んでも構いません。

★キャリア・カウンセリングは第5章

 たとえば、キャリア・カウンセリングについて知りたいという方は第5章「キャリア・カウンセリング」からどうぞ。
 この章はキャリア・カウンセリングとは何かを概念的に示しているだけでなく、キャリア・カウンセリングでは何を「聴く」のか、どう「聴く」のか、また聴いたことに連動した当然の反応として、どう「応える」のか-についても詳しく触れられています。
 さらにそれらを踏まえて、逐語記録を元に何を「聴き」、何を「応えた」のかが検討されています。
 キャリア・カウンセリングと銘打った書籍は数多くでていますが、活字では表現しづらいこの領域について、あえてここまで踏み込んで書いてあるのは、私は寡聞にして知りません。
 よくぞここまで書いてくださったと思うと同時に、校正の段階で目から鱗が何枚も落ちていきました(今は読むたびに、う~んできていないかも~と思って脂汗がでています)。

★企業内での展開事例は第4章

 企業内でキャリア開発の重要性は分かっているけれど、どうすればよいのか分からないし、本当に必要なのかといわれると自信を持って応えられない-という実務担当者の方、是非第4章を読んでみてください。
 この章には、日立製作所ではどのようにキャリア開発を導入して成功を収めたのかというノウハウは、残念ながら書いてありません。
 それよりも現場にいる著者が何を考え、どう進めたかという「ライブな感覚」が参考になるのではないかと思います。
 ノウハウが必要ではないとはいいませんが、それよりも大切なのは「目的」であり現場担当者の「信念」だと思います。
 現実問題と信念、組織からの要請と個人の成長-いずれも全く対立する概念ではないのだけれども、すんなり重なり合うものかというとそうでもないものを、どう折り合いをつけていったのかが書かれています。
 経営コンサルタントが書いた「理屈先行、いうのは簡単だけど実現するのは難しいことが書いてある人事本」には無い、そのライブな感覚に共感する点が多いのではないかと思います。

★目標による管理とキャリア開発の関係は第2章

 目標による管理、MBOという単語に反応する方は、きっと第2章からお読みになることでしょう。
 このとき注意していただきたいのは、この章も「ノウハウ」の提供を企図したものではないということです。
 目標による管理とはなんなのか、なぜキャリア開発と結びついているのか-ということを捉えていただければと思います。
 この章を読んで、「な~んだ、我が社の目標による管理の精度が向上して、社員からの不満がなくなるような方法が書いてあるのかと思ったのに」と思った方は、是非読み直してみてください。
 目標による管理=評価制度というところに間違いの原点があることをご理解いただけると思います。

 とはいえ、キャリア開発とキャリア・カウンセリングについて全体像をきちんと把握し、ポイントはどこなのかを理解しようと思うなら、まず第1章をお読み下さい。
 「個人主導」「組織人事の革新」「個人と組織の共生」「人間理解力」の4つのテーマが掲げられています。
 わたし自身がこの領域に関心を持った15年前(註:今となっては30年前)には目新しかったこれらの言葉も、いまではそこここで目にするようになりました(「個人主導」なんか、数年前には全く反対のことをいっていたはずの人まで最近、臆面もなく使っていますけど)。
 目に触れる機会が多いが故に、勘違いしたまま、あるいは一人ひとり考えている内容が違ったまま議論が進んでしまうことがあります。
 是非その意味を再確認して欲しいと思います。

★目標による管理のTIPS①~緊急度より影響度

 第2章で目標による管理のことが詳しく解説されています。組織経験のないキャリア・カウンセラー、キャリア・コンサルタントの方は必読です。
 組織経験があっても、目標による管理という考え方が組織に展開されていない組織だった方、つまりそういった考えが導入されていない、あるいは「目標による『人事考課』」は実施しているという組織の場合も是非お読みください。

 さて、目標がいくつか挙がったときどうやって選択しますか?
 そのポイントはいくつかあるのですけれど、どうしても忘れられがちなのが緊急度と影響度のどちらを優先するかという問題です。
 緊急度とは文字通り差し迫り具合です。
 これをどうにかしなければ困ったことになるその緊迫度とでもいえましょう。
 影響度とは、その目標の達成がどれほど影響するかを指します。
 影響の程度は、ほかの組織や顧客という面としての広がりもありますが、今後の経営にといった時間軸としての広がりもあります。

 緊急度が高く(緊急度+)、影響度が高い(影響度+)というものを優先するのは当然です。
 ではその次は?
 緊急度は高い(緊急度+)が影響度はそれほどでもない(影響度-)と、緊急度はそれほどでもない(緊急度-)が影響度は高い(影響度+)とどちらを優先しますか?

 このとき、緊急度+影響度-を優先しがちです。
 目先に問題があればそれをどうにかしなければと思ってしまうわけです。
 しかし、実はこれ、大変危険です。
 目先の危険を回避することに執着してしまったあまり、虚偽のデータを作ったり、隠したりということをして、結果的に大きな影響を受けてしまったという例が、このところ新聞を賑わせているではありませんか!
 そこまではいかないとしても、目先の対応に追われ始めると、将来を見越しての判断ができなくなるので、次々に新たな緊急課題が発生して、管理者も部下もさらに忙しくなり、一層将来のことを考えられなくなります。
 「なんでこんなに忙しいのだ、なんでこんなに問題ばかり起こるのだ、抜本的な解決が必要だ! だれか何とかしてくれ~」という、いわゆる火の車、負のスパイラル状態となってしまいます。

 本来は緊急度-影響度+を優先すべきです。
 そんなことをしたら目の前の火事をどうやって消すのか?
 この話をすると必ずといっていいほど出るのがこの質問なのですが、おわかりの通り目の前の火事は緊急度+影響度+です。
 優先順位は一番です。
 ここで取り上げているのはそれではありません。

 たとえば文具箱が雑然としていてステープラーをつかおうとするといつも探したり、みんなに聞いてみたりしないと見つからないので、うまく整理整頓して常にその状態になるようなルールづくりや工夫をしようというのは緊急度-影響度+といっていいでしょう(当面はこのままでもやっていけますから緊急度は低いのです)。
 一方、視察にくるから片づけておかなければというのは緊急度+影響度-です(みんなの評価には響くかもしれないけれど)。
 後者ばかり対応していると、いっこうに良くなっていかないというのがお分かりいただけるのではないでしょうか?

★目標による管理のTIPS②~「~する」は書かない

 これはとても細かい話なのですが、目標を記述するときは「~する」という動詞で表現するのは止めた方がよいようです。
 なぜなら、具体的な結果ではなくて「行為」になっている可能性が高いからです。
 本来欲しいのは「~する」ではなくて、「~した」結果としての状態です。

 「担当地域で新規顧客を開発する」というのは行為です。
 目標としては不明確です。
 たとえば「開発する」の2文字をとると「担当地域で新規顧客を」となり、文章表現上据わりが悪くなります。
 ところが、「担当地域で新規顧客を4件開発する」だと、同様にしても「担当地域で新規顧客を4件」となって、違和感は少なくなります。
 コンサルティングをしているときに、目標の記述をチェックして欲しいという依頼を受けることがあります。
 「仕事の中身を知っているわけではない外部の人間が判断するのは難しいし、さらにその人のキャリア開発がどのように考えられているのかが分からないのですから、判断のしようがないですよ」-とお伝えするのですが、「分かる範囲でよいから見てくれ」と依頼されます。
 その時、いつも使えるわけではありませんけれど、膨大な量をチェックしようとするときの初歩的なポイントの一つです。

 似たようなものに「程度を示す言葉はあるか」というのがあります。
 たとえば「引き上げる」「向上させる」といった「状態を変える」意味の動詞があるときは、その程度が記述されているかどうかをチェックします。
 向上させるのなら「どの状態から」「どの程度まで」というのが不可欠です。
 よろしければお試し下さい(なお、あくまでも目安です。~するとあれば絶対におかしいというわけではありませんのであしからずご承知おきください)。

★目標による管理のTIPS③~スケジュールは必要か

 それから、これは好みの問題でもありますが、目標を記述するシートにはよくスケジュールを記述する欄がついています。
 これを入れようとするためにシートがやたら大きく、しかし欄は細かくなっていませんか?
 「キャリア開発/キャリア・カウンセリング」にも書かれていますが、スケジュールは必須ではありませんし、シートに盛り込まれている必要もありません。
 強いていえばスケジュールそのものを、つまりスケジュール通り進めることについて同意している場合くらいではないでしょうか?
 実際にマネジメントサイドで運用した感覚でいうと、別紙で持っているのが使いやすいです。
 打合せの時に、「あれどうだったっけ」と思い出すのが簡単になりますから。

 しかし、コンサルタントとしてはあの欄が欲しいのです。
 なぜか?
 それは先にも述べたように目標のチェックを依頼されることがあるからです。
 その際、行動計画やスケジュールが書いてあると、それを手がかりに判断できるというわけです。
 どんな仕事なのか、どうやってその目標を達成しようとしているのか、それはどれほど困難なものなのか、従来とは違うのか同じなのか、その方法で上手くいきそうなのか、そもそも行動計画というのが分かっているのかどうか-という情報が得られるのです。
 スケジュールや行動計画のところを別紙にすると膨大な量になるのでオール・イン・ワンにしてもらおうとするので、目標による管理に用いるシートはどこの会社も概ねあの形式になります(すくなくとも私の場合は)。
 その意味では、部下がたくさんいる管理者の方であれば、進捗を確認しやすいように目標を書くシートにスケジュールも書いてもらった方がよいのかもしれませんが、メンバーが少ないのであれば不要かもしれません。

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