人材ビジネスの今そこにある危機
業界にドップリ20年だからわかったこと
人材ビジネスの魅力にとりつかれて、20年を経過していた。
そして今思うのが、人材ビジネスはつくづくよくできたビジネスモデルだということと、従事する人たちの意識の違いがとても顕著に現れる面白いビジネスだということです。
この転職をあまり良しとしない、新卒一括採用からの終身雇用制がまだまだスタンダードな日本の中では特に市場を拡大している。
業界を経験しているのと、人事としてエージェントとのやり取りなどを通して日頃からいろいろなことに気付かされるのと、いろいろな問題があったりする。
今回は率直に本音でお話をしていきましょう。
賛否両論があるのはわかりますが、あえてタブーの領域へ踏み込んでいきたい。
人材紹介事業、人材派遣事業はビジネス=クライアントファーストだから
とある人材紹介事業の経営者から、「あなたは人材ビジネスについて、ビジネスと考えますか?ボランティアと考えますか?」という質問をとあるセミナーのあと、懇親会がはじまった途端に無茶振りをされた。
ひるむことなく、私は「100%ビジネスです」と言い切った。
理由は、「クライアントさんへ候補者を紹介をして採用が決まること。そして、候補者からは転職先が決まることで新しい門出ができること。お互いに感謝をされることが仕事のモチベーションになっているので、ビジネスです。」と答えた。
しかし、その経営者は「う〜ん…ちょっと違うよね。今は実際の人材ビジネスから遠ざかっていますが、仲介業という性質ですと、法人ファーストなのか個人ファーストなのかという二択の意思決定を迫られた時にどちらを優先するか?という議論の中では、私はは100%法人ファーストです。」
眉間にしわを寄せながら、「なぜなら企業の本質は売上を出し続けることであり、日本の人材ビジネスの構造上、ほとんどが法人からの報酬でビジネスが成り立っているからです。有料会員制の求人サイトもありますけどさ。」とちょっと語気を荒げながら、力が入って自信満々にいいはなった。
そして、「個人ファースト」という人にとって人材ビジネスは「ボランティア事業」に近いのではないかと考えます。
個人が望むキャリアに就かせてあげたい。
ブラック企業の劣悪な環境から抜け出させてあげたい。
ありがとうと言われたいと。
いわゆる感謝をされることがモチベーションになっていて、その人に寄り添ってしまうのですから。
数字はあとからついてくるという考え方もありますが、あまりにも個人に感情移入をしてしまったりすると、失敗をするケースが多くあります。
個人から人材企業を見た時に、インターネットの掲示板や口コミサイトを見ていると、実にボランティア事業のイメージが先行をしている傾向が多く見られます。
それが経営者にとっての人材ビジネスだと。「ボランティア事業」という表現が適切かどうかはわかりません。
賛否両論あるかもしれませんが、ビジネスと対比する表現としては、経営者は正しいと考えています。
特に個人ファーストの考え方を否定するわけではありませんのでご理解ください。
生じる矛盾点
よく耳にする「転職支援サービス」と「採用代行サービス」、「採用支援サービス」の違いはなんでしょうか。
この言葉があるから矛盾が生じているという点があります。
「転職サービス」については、転職者、登録者、応募者の個人に対して使う言葉。
「採用代行サービス」、「採用支援サービス」はクライアントファーストの考え方に基づいて出て来る言葉です。
よく考えてみると、この2つの言葉は切っても切り離せないことです。
なぜなら、人材ビジネスの根幹になっているからです。
法人にとって喜ばれる人材ビジネス会社とは次のような特徴があります。
・その会社が求めている人材をよく把握し、的確に推薦してくれる。
・その会社が支払える給与の中で出来る限り安く年収交渉をしてくれる。
・入社までしっかりサポートしてくれる。
反対に、個人にとって喜ばれる人材ビジネス会社とは次のような特徴があります。
・その人が行きたい会社や就きたい仕事をよく把握し、的確に紹介してくれる。
・その会社が支払える給与の中で出来る限り高く年収交渉をしてくれる。
・入社までしっかりサポートしてくれる。
ここに矛盾が生じるのがおわかりでしょうか。
もちろん双方にとって良い人材ビジネス会社は、双方の要望に対して適切な折衷案を提案して、三方良しにすることですが、法人側からしか収益は得られませんので、法人ファーストになるのが自然なのではと思います。
今の人材ビジネスでは雇用の創出ではなく、欠員補充、増員補充の領域を脱することはない。
多くの会社で雇用創出を大義名分に掲げていますが、殆どの人材ビジネスは雇用の創出はしていません。
「働き方改革」が騒がれておりますが、例えば、リモートワークを普及させることで今までなかなか職につくことが難しかったり、十分な報酬を得るのが難しかった地方在住者や、ママさんなどに雇用機会を創出している企業が増えています。
フリーランス活用やシニア活用を推奨する会社も同じように雇用創出をしております。
ですが、中途の人材紹介業や派遣業になりますと、無職の人の転職サポートをしない限り、転職した方が在籍していた会社には雇用の「穴」が開きます。
それなら、そこに新たに雇用の機会が生まれるじゃないか!となりそうですが、これは堂々巡りです。
雇用の創出と同時に雇用の損失も産んでいますから。
言葉は悪いですがいわば「求職者ロンダリング」とでも言いましょうか。
転職させるたびに手数料が発生し、また空きポジションができて手数料の芽が出るという極めて良くできたビジネスモデルです。
実際にヘッドハンティングの企業のほとんどが個人と個人のつながりで転職するチャンスがあれば、そのチャンスを手に入れるために在職中であったとしてもいろいろな企業を紹介して、2〜3年周期で年収1000万円以上の人々を動かしているケースもよくあります。
ですので、やるのであればもっと徹底的に社会全体の転職者や転職回数を増やして、業務を効率化させて生産性を上げてサービス単価を下げる方向に持っていくというのはいかがでしょうか?
ビジネスマン人生の中で5回も転職すれば転職回数多いと言われてしまう日本ですが、海外ではよりよい仕事を探すために転職を短いスパンで繰り返すのは当たり前です。
結局のところ、現状に満足して安心してしまうのが日本人の性質で、人材の流動性が低いために元気なスタートアップや可能性がある小さい企業に良い人材が回ってくる確率が低いんじゃないかと推測される。
転職市場はもっと活性化していく市場になるだろう
私が師匠と慕っているヘッドハンターをしていた社長がいました。
その人に言われた言葉が今でもすごく胸に刺さっています。
「転職って結局は縁と運とタイミングだから、チャンスがあればチャレンジしなきゃ。」
上場企業のCFO案件や、とんでもない給与の外資系社長をズバズバ決めていた彼が言っていたのですごく重みがあります。
マッチング精度が本当にすごかったです。
いまさら遅いかもしれませんが、人材ビジネスの会社で働く方々を馬鹿にする気持ちは全くありませんし、日々マッチングの精度を高めるために努力をされていたり、新規求人を開拓するために一日何本もテレアポをしていたり、求職者獲得のマーケティングのために莫大な予算を頭を捻って使っていたりされているのは重々理解しております。
ただ、仲介業という性質上、案件が制約した時点での満足度は最高に近いものと思うのですが、法人・個人双方にとって大事なのはその入社後であって、それはいくらエージェントが注意を払ってマッチングしてもどうにもならない不幸なことが一定の確率で起きてしまうのです。
人の手が関わるプロセスを少なくすることで手数料を下げるという企業努力の賜物だと思いますの。
はるか昔にリクルートが決めた「紹介手数料は年収の35%」という常識を、いつの日か人材ビジネス各社の努力で打破し、転職がもっとカジュアルになっていくと、総じて一人あたりの転職回数は増えるのかも知れませんが、幸せな転職の数の総数が増えて、もっと働きやすい世の中になるのではないかと考えられます。
まあ不幸せな転職も増えるのですが、幸せ:不幸せが50%:50%で発生するとして、幸せな人が転職しないとなると、最終的に限られたビジネスマン人生の中で幸せな仕事に巡り会える人の数が多くなりますよね。