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【休職体験談No.3】 「もう二度と教室に入れない」――3年目、小学校教師が休職した理由

今回は小学校教員の工藤さん(仮名)の休職体験談です。


1. プロフィール

仮名:工藤 絵里(くどう えり)
年齢:28歳
性別:女性
仕事:公立小学校 3年生の担任
勤務歴:今年で3年目
休職した経緯:
睡眠障害や適応障害の疑いが出るほどの精神的負荷が積み重なり、最終的に校長へ休職を直訴。保護者トラブルが続いたことに加え、同僚や管理職との不和が決定打に。
背景
大学時代は教育学部で、教員採用試験に一発合格。子どもの可能性を伸ばす教師像に熱意を持っていた。
部活指導や保護者対応で忙しくとも、「やりがいがある」「子どもの笑顔が大好き」という思いで頑張ってきた

2. “理想の教師像”と現実のギャップ

私は昔から「先生になりたい」という夢を持っていました。小さい頃、自分の担任の先生がとても優しく、学習だけでなく人生の先輩として励ましてくれたことが大きな理由です。「子どもを信じて背中を押してあげる教師になりたい」と意気込んでいました。

しかし実際に3年生の担任を受け持ってみると、理想と現実のギャップに驚かされました。授業や学級運営だけでなく、保護者対応・校務分掌・事務作業など、“本来の教育”とは関係なさそうな業務が山のようにある。毎日午前7時前に出勤して夜9時に帰る生活が当たり前になり、「これってブラック企業と変わらないのでは?」と思うほどの労働環境に、自分の情熱がどんどん消耗していきました。

3. 教育現場のブラックボックス化?親からのクレームと校内トラブル

いちばんストレスだったのは、常に後手に回ってしまう保護者対応でした。どのクラスにも、過剰に不安が強い親御さんや、学校への不信感を募らせている親御さんがいるものです。連絡帳や電話だけで収まらず、私個人のSNSアカウントまで探し当て、深夜に「うちの子がクラスで仲間外れにされているのでは?」と長文メッセージを送ってくる方もいました。

校内では管理職が「保護者に余計な波風を立てないように」と言い、根本解決ではなく場当たり的な謝罪やなだめ役に教師を回すことが少なくありませんでした。結果、「本当は改善したいことがあるのに、ウヤムヤにされる」状態が続きました。何かトラブルが起きても曖昧に処理され、教師同士ですら十分に意見交換できない。私は、「教育現場がブラックボックス化しているのでは」とまで感じ始めていました。

4. 休職直前、引き金になった「ある保護者対応」

私が休職を決意した直接の引き金は、ある保護者からのクレームでした。

きっかけ:
児童同士の小さなケンカで、片方の親御さんが「教師の管理が行き届いていない」と激怒。

保護者の要求:
1. 校長・副校長・担任(私)での面談を即日実施
2. 事実確認のため、防犯カメラ映像を見せろ(※本来は簡単に開示できない)
3. 子どものストレスを軽減させるため、加害児童を別クラスへ移動させろ

校長も副校長もあたふたしている様子で、最終的に“私が一方的に謝罪をする”形でその日は収束しました。納得がいかないまま、当該児童と他の子どもたちのフォローも手探り状態。自分の判断で動こうとすると「教師が勝手に動くな」「トラブルを大きくするな」と止められ、逆に身動きが取れなくなってしまいました。

帰宅すると胃痛や頭痛がひどく、夜も眠れない。平静を装いながらも、心は押しつぶされそうでした。「もう二度と教室に入れないかも」という不安に襲われ、翌朝、ついに校長に「休職させてください」と涙ながらに訴えました。

5. 休職中に感じた“取り戻した時間”と前向きな変化

最初は「休職なんてして大丈夫かな」「子どもたちに申し訳ない」と思っていましたが、実際に仕事から離れてみると、自分の心がどれだけ疲弊していたかを改めて実感しました。休職して1週間ほどは、ぐっすり眠れるようになったし、頭痛や胃痛などの体の不調も次第に落ち着いてきたんです。

ふと気が緩んだときに「あれもこれも私が背負い過ぎていたんだ」と気づきました。常に「保護者や上司にどう思われるか」というプレッシャーを感じながら、子どもたちのケアだけでなく、部活動や校内行事、書類業務などを一手に引き受けていたので、自分自身をまったく顧みる余裕がなかったんですよね。

休職中は、これまで想像すらしなかったくらい“時間”と“気力”に余裕が生まれました。朝は少しゆっくり起きて、健康的な食事をして、散歩をする。夜は寝る前にスマホを見すぎないよう意識して、本を読んでリラックスする……。そんな小さな習慣の積み重ねで、心と体をリセットできたのは本当によかったと思います。

また、SNSなどで他の教員の体験談を読んだり、同じように休職中の人の話を聞いたりして、「自分だけじゃないんだ」と思えたことも大きな救いでした。むしろ、やりがいを持って働けるようになるためには、一度しっかり休んで自分をいたわる時間が必要だったんだなと、今では思います。そういう意味では、決断したこと自体は間違っていなかったのかもしれません。

もちろん復職後や、今後教職を続けるかどうかなど、まだ決めきれていない課題は残っています。それでも、あのまま無理を重ねていたら、今頃どこかでもっと大きく体調を崩していたかもしれません。自分自身の心身を守れたという点で、休職してよかったと素直に思っています。

6.今後について

教育行政やNPOなど、別のかたちで子どもを支援する道を探すという選択肢もあります。

「教師」という肩書きに固執して、また同じ環境で精神的に追い詰められるよりも、思い切って新しい世界に飛び込んだほうが自分らしく生きられるのでは……と考え始めています。

正直、今はどちらが正解なのかはわかりません。でも、今の気持ちとしては、再び同じ学校へ戻る未来を想像すると気持ちが重くなり、どうしても前向きになれないのが本音です。何も決めずに“このまま放置してしまう”ことは、最終的に自分をさらに追い詰めるだけだという予感もあります。

「戻るのか、離れるのか」――どちらにしても答えを出さなければいけない日が来ると思います。しかし、今は少し時間をかけて自分の心身を立て直し、後悔の少ない決断ができるよう冷静に向き合いたい。そのうえで、もし復職という道を諦める選択をしても、自分が“どう生きたいか”という軸は見失わずに進んでいきたいと思っています。

7. 終わりに

学校現場では、子どものことで悩むのは当然として、保護者や管理職、同僚との人間関係がストレスになることも多いです。特に若手教師ほど、声を上げにくく、周囲の先入観で「甘えている」「気合いが足りない」と言われがち。しかし、その結果として無理を重ねると、私のように休職せざるを得なくなる場合もあります。

もし同じように悩んでいる方がいたら、どうか一人で抱え込まないでください。教育委員会や産業医など、頼れる窓口は思っている以上にあるはずです。もちろん、家族や友人など、身近な人に話すだけでも心は軽くなるかもしれません。

休職は決して“終わり”ではなく、“これからどうするかを考えるスタート”だと私は思っています。私自身も「どう生きたいか」を改めて見つめ直し、再出発の道を探っているところです。


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