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大学生の職業観と職業不決断のつながりを紐解こう

2023年から始まりました「キャリアの自由研究」withレイド株式会社
今回もお読み頂きありがとうございます。第2回もどうぞよろしくお願い致します。

第1回の記事は大学生の就職活動をテーマにしたもので、「志望業界の変化と就職活動への影響について」でした。

この記事では、ちょうど年が明けて大学生の就職活動がピークを迎えるなか、志望業界を柔軟に変えた方がいいのか、当初に立てたプランを貫いた方がいいのか、という視点の研究論文を紹介しました。

さて今回ご紹介する論文のタイトルは「大学生の職業観と職業不決断 ―尾高(1941)による職業の定義に基づいた職業観の把握―」というもので、南山大学の浦上昌則先生が2015年に発表したものです。

「職業不決断」とは要するに、進路を決定できなくて就職活動に動き出せない、応募に躊躇してしまう、内定辞退してしまう、といった状態につながることを指します。応募できない学生・応募者が増えない人事担当者、双方の悩みを解決する可能性があり興味深いと考えます。

具体的な研究の内容に入る前に、2つのステップを踏んで紹介をしたいと思います。


◆最初のステップは“職業観と不決断” について

この論文タイトルをご覧いただくとこんな疑問がわきませんでしたか?
「職業観と不決断がどうしてつながるの?」と。
職業を選ぶこと(職業観)と、選ばないこと(不決断)、その2つにはどうつながりがあるのか。
研究の具体的な内容の前に、まずはそこに触れたいと思います。

就職活動、または、職業を選択することは、将来をつくりあげるという点では非常に発展的でワクワクするものです。しかしそれと同時に、不安や葛藤も必ずそこに存在するはずで、前に向かおうとする力と同じくらい心にブレーキがかかるものでもあります。
他にも類似する研究としては、就職活動とレジリエンス(逆境に負けない心・適応する能力)をかけあわせた研究などもあったりします。(就職活動は必ず不安や困難があるから、レジリエンスが強い人ほど就職活動がうまくいくんじゃないか?という趣旨)

本文の中では過去の先行研究から不決断を「進路を決めるという活動にコミットメントすることができないという心理的状態、あるいは傾向性」と紹介しています。そこでこの研究では、どんな職業観を持っていると不決断(コミットメントできない状態)が起こりやすいのか、ということを明らかにしようとしたわけなのです。

この記事が配信される3月4月ごろは、(コミットメントできずに)内定辞退する人に悩まされる人事担当者が増える時期かと思います。あるいは、就職活動に出遅れて(コミットメントできずに)積極的に活動できない学生も増える時期かと思います。そういった状況に対して参考になる研究ではないかと思い、ご紹介しようと思った次第です。

◆次のステップは“尾高邦雄の『職業社会学』(岩波書店 1941年)”

タイトルからも読み取れる、もう一つの大事なポイント「尾高(1941)による職業の定義」についても触れておきたいと思います。

この論文の著者は上記で説明をした不決断につながる「職業観」をどう当てはめようか、おそらく悩まれたことと思います。「職業観」という言葉は昔からある言葉ではありますが、捉え方が人によってさまざまあり、抽象的でもあります。

そこで著者は尾高邦雄が1941年に書いた『職業社会学』という本からその定義を引用します。この尾高邦雄という方は今日の職業社会学というジャンルを築きあげた超重鎮で、戦前に書かれたこの本が、今でも多くの研究者に引用されています。

尾高は『職業社会学』の「第一章 職業とは何か」という問いに対してこう定義しています。

・生計の維持
・個性の発揮
・役割の実現

そこでこの論文の著者も、尾高の定義を参考に本文中では以下の定義をもとに調査研究を行いました。

(1)経済的側面:勤労の代償として生活のための収入を得る。
(2)個人的側面:(適材適所の考え方により)個性をいかにして社会に寄与する。
(3)社会的側面:社会の構成員として、分担する役割を果たす。
そして尾高は、これらの要素の間の関係が調和的である場合に、職業の理想形態となると指摘する。

(本文から引用)

◆さあ本題“具体的な研究内容と結果”

ここまで、この研究において重要な概念である“職業観と不決断”について、“尾高邦雄の職業観の定義”について触れてきました。それでは本題の内容に触れていきます。

著者は7つの大学で1138名の学生にアンケート調査を行います。
まずは尾高の職業観をもとに定義した(1)経済的側面、(2)個人的側面、(3)社会的側面のどれを重視するのかを問いました。結果、8つのパターンに傾向を分けることができました。

次に別の研究にある不安・葛藤・逃避・モラトリアムなどの7つの項目から作られた質問群を用いて職業不決断の傾向を計り、上記の3側面の職業観との関連性を計ろうとしました。

結論からくる著者の考察を以下に抜粋します。

職業観は価値観の一側面でもあり、その良否を判断することは難しい。しかし、職業不決断との関連から考えれば、個人的側面や社会的側面の重視度が高い方が不決断になりにくいことを指摘できる。換言すれば、経済的側面の重視度が他よりも明らかに高いような場合は、不決断に陥りやすいということである。職業という概念を国語辞典的にとらえることは間違いではないが、たとえばキャリア教育の文脈で扱う場合には、個人的側面や社会的側面の理解、重要性の認識に配慮することが重要になることを本研究は示していると考えられる。
また 3 側面の重視度が同程度であれば、たとえそれが低くても不決断の程度はあまり高くなかった。

(本文より引用)

3側面の職業観から8つのパターンに分けられた学生のなかで、個人的側面や社会的側面の重視度が高い方が不決断になりにくく、経済的側面の重視度が他よりも明らかに高いような場合は、不決断に陥りやすいという結論を導きだしました。そして、3 側面の重視度が同程度であれば、その値が低かったとしても不決断の程度は高くなかった、つまりバランスが重要であることを示したのでした。

◆ここからは占部の意見を

・経済的側面を重視しすぎると不決断に陥りやすい
・3側面のバランスが重要である

この研究から導きだされた研究はとても興味深いものではないかと感じます。

では、ここからはこの知見を私の言葉で意見と解釈を紹介します。

論文の著者は、尾高の定義を、
・生計の維持→経済的側面
・個性の発揮→個人的側面
・役割の実現→社会的側面
としましたが、

これを私流の概念を付け足すと、
・生計の維持→経済的側面→企業選びの選択基準
・個性の発揮→個人的側面→職種選びの選択基準
・役割の実現→社会的側面→業界選びの選択基準

と考えられるのではないかと思います。

企業を選ぶ際には給与・賞与・有給取得率などが選択基準になるかと思います。
福利厚生や昇進やその昇進につながる昇格・教育など学生にとっては選択基準になるでしょう。よって、生計の維持が企業選びにつながるのではないかと考えます。

職種には仕事内容が一般的にある程度定まっていて、その仕事内容をこなすために求められる能力があるはずです。よって個性の発揮を個人(自分)の能力の発揮と捉えて、職種選びにつながるのではないかと考えます。

最後に業界です。業界は商品やサービスで分けられていて、それぞれの商品やサービスが持っている機能・役割があり、その機能・役割が社会にプラスの影響を及ぼしています。社会的な役割を実現するという考えは、業界(商品・サービス)を選ぶこととつながるのではないかと考えます。
(この辺りは字数の関係で少し簡略化しております。もし、ご興味ある方は拙著「絶対に書ける志望動機」に詳しく書いておりますので、良かったらご覧ください)

つまり、何が言いたいかというと、例えば大学生が就職ナビサイトなどで情報収集をしますが、バランスよく企業・職種・業界を選べるようになるために、生計の維持につながる経済的側面の情報、個性の発揮につながる個人的側面の情報、役割の実現につながる社会的側面の情報を、企業側もバランスよく発信することが重要といえるのではないでしょうか。

そうすることで「職業不決断」を避けることができ、応募を躊躇してしまう学生や、内定辞退をしようとする学生を減らす採用活動につながるのではないでしょうか。

Twitterなどでも求人票や採用HPに載せる情報として「企業視点の情報に寄り過ぎずに、求職者にどんなメリットがあるかを訴求する求職者視点の情報を載せないと応募者が増えない」という議論がありますが、企業視点・求職者視点とは別のこういった概念もあって良いのではないかと考えます。

そして、学生も業界・職種・企業をバランスよく選べるために、バランスよく情報を得ていく活動を心がけて欲しいです。


レイド株式会社の公式Podcast「Rayd I/O(レイディオ)」でも、音声にて記事の内容を深掘りしていきますので、ぜひこちらも併せてお楽しみください。(今回の職業不決断については5月に配信予定です。)


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