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就職活動にも多様性を。大学時代に頑張った学業で、未来への「橋」は架かるのか!?〜ラーニングブリッジについて〜

「大学での勉強は勉強。机の上で学んだことは社会に出たらなんの役にも立たないよ!」なんて話、耳にしたことはありませんか?

振り返ると、就職活動のころ社会人の方に何度かそういわれた記憶があります。学校の勉強は勉強、就活は就活、仕事は仕事、と分けて考えがちですが、その考え方って正しいと思いますか?それらが影響し合っている可能性ってないでしょうか?

今回のテーマはそんな問いに対する1つの答えになる可能性を含んでいます。

取り上げたい論文のタイトルは2017年に小山治さんが発表された大学におけるレポートに関する学習経験は就職活動結果に対して有効なのかというものです。

キャリアの自由研究の連載ではこれまでに、志望動機や転職活動をテーマにコラムを書いてきました。今月は私が大学院の研究テーマとしている「ラーニングブリッジ」というものをテーマに書きたいと考えています。

一般的にあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、読んで字のごとく「何かをラーニングする(学ぶ)ことで、何かにブリッジする(橋渡しをする)」という概念を表しています。今回テーマにあげている論文も大きな枠組みとしては「ラーニングブリッジ」研究に属するものだと私は考えています。

メインテーマの論文からは少し離れますが、まずはこの「ラーニングブリッジ」研究という領域について説明させてください。

教育の世界ではこの分野に関する研究がいろいろな視点で行われています。

例えば、計画的に勉強をする力(専門的な言葉で言うと「自己調整方略」)が伸びた学生ほど、自分の将来のキャリアを計画する力が身についていることを実証した研究、学習に対する動機付けが上手くできる学生ほど、仕事やキャリア形成への動機付けが上手くできることを実証した研究、学業というフィールで得た「考える力」が仕事社会の中で求められる「考える力」に影響していると実証した研究などがあります。

とかく「大学での勉強なんてなんの役にも立たない」と言われがちですが、学業を学業だけで終わらせずに、発展的な価値を探そうという研究の熱意を感じます。

この分野の研究には「大学教育の変化」が影響していると私は考えています。2006年あたりから、大学で生まれたある変化を皆さんご存じでしょうか?

私は2004年に大学を卒業し、非常勤講師で教えるようになったのが2009年なので、その変化を目の当たりにしたときに驚いたことを今でも覚えています。

その変化とは「どの科目でも出席を取るようになった」ことです。そして、全15回(大学によっては14回)の授業のなかで3分の1以上欠席してしまうと「失格」となってしまい、単位が取れなくなってしまうのです。
2000年代の後半以降に入学した方にとっては当たり前のことなのですが、それこそ私が大学に通っていたころは、出席を毎回取るのはせいぜい語学くらいで、他の授業は基本的には出席を取ることは稀でした。だからよくさぼっていましたね(笑)。

それじゃいけないよね、と文科省も方針を転換して、しっかりと大学で勉強してもらおうというスタンスに変わっていったのです。

つまり、昔に比べて圧倒的に大学で過ごす時間、勉強する時間が増えたことで、学ぶことがいろいろなプラスを生み出しているのではないか?という問いが立ち、ラーニングブリッジ研究や職業的レリバンスの研究などが行われるようになったのではないかと考えています。

ちなみに私の研究を少し宣伝させていただきますと、レポートや論文を書いたりする際にテーマを考えたり調べたりする経験を積んだ学生ほど、自分のキャリアに関しての方向性・テーマを考えたり調べたりすることに活かせているのではないか、ということを調査・実証しようとしています。

大学で勉強を一生懸命頑張ると、将来のやりたい仕事を見つける力が増すのではないかと考えたのです。大学の勉強は就活や仕事社会に役に立たないから、授業の課題も卒論もほどほどに、と考える若者が多い現状に一石を投じたいと思いました。

さて、前置きが長くなりましたが、研究の中身の紹介に移りたいと思います。進路が既に決まっている卒業前の大学生239名を対象に、「レポートに関する学習経験」について9つの設問を作ってアンケート調査を行いました。
そして因子分析を行ったところ3つの因子(①学術的作法、②第三者的思考、③情報収集・整理)が特定され、その因子と内定先の志望度や就活の満足度との関連性を調べたのが主な内容になっています。

結論としては以下をご覧ください。

第1に、レポートに関する学習経験は最初の内々定獲得時期や内定先企業規模といった客観的な就職活動結果と有意な関連がなかったという点である。

第2に、レポートに関する学習経験の中でも学術的作法という構成要素は内定先志望度や就職活動満足度といった主観的な就職活動結果と有意な関連がなかったという点である。

第3に、レポートに関する学習経験の中でも第三者的思考という構成要素は内定先志望度と有意な正の関連があったという点である。

第4に、レポートに関する学習経験の中でも情報収集・整理という構成要素は就職活動満足度と有意な正の関連があったという点である。

(本文より抜粋)

結論を解説しますと、(第1の結論は分かりやすいと思うので)第2の項目から。第1因子である「学術的作法」、これは主張を書く、根拠を書く、問いと結論を書く、といったアカデミックライティングの一番中核になる概念で、この意識が高い学生ほど就職満足度が上がると考えた…が、そうではなかったようです。

次に、第3の項目。第2因子である「第三者的思考」、これはレポートの内容について友だちと議論したり、構成を考えたりすることで、この意識が高い学生ほど内定先の志望度が高くなるとしました。

最後に第4の項目。第3因子である「情報収集・整理」、これは調べた情報を整理して残したり本や論文を調べたりすることで、この意識が高い学生ほど就職活動満足度が高くなるとしました。

いかがでしょうか。結論の1つ目と2つ目は影響がなかったことを示していますが、3つ目と4つ目は影響があるという結果になっています。この結論だけを見ると「あまり影響ないじゃないか!」と思われる方もいるかもしれませんが、この研究の含意は結果だけではないと私は考えています。

というのも皆さんの感覚ではおそらくですが、アルバイト、部活動、インターンシップなどが学業よりも就活や仕事生活にプラスの影響が生まれているんじゃないか?と思われるでしょう。

例えばアルバイト経験でコミュニケーション力を伸ばしたり、部活動経験で上下関係の厳しさを学んだり、インターンシップで仕事に関する知識を得たり。面接のアピール材料としても学生がこのあたりの内容を主に活用しているのも簡単に想像できます。
その感覚は確かにその通りで、アルバイト、部活動、インターンシップなどがキャリア意識や何かの能力を伸ばしているという研究結果を示しているものもたくさんあります。

でも学業も(この研究ではレポート学習としていますが)、影響している可能性があり、学業という視点から第三者的思考や情報収集・整理といった部分にフォーカスをしてみると影響が明らかになったというわけなのです。
これまで多くの人が感じたように、就活にプラスになるのは、バイトや部活動やインターンシップでしょ?という意見が主流だったため、あまりこういった部分にフォーカスした研究が行われてきませんでしたが、そこに光をあてた研究として私はとても興味深いと感じています。

ただここで注意して分けて考えなければいけないのは、学業に力を入れることで伸ばせる力があり、それらが就職活動においてやるべき作業に対してプラスの影響を生み出しているという話であって、ダイレクトに面接でのアピール材料として有効かどうかはまた別の視点になってきます。

とはいえ、昨今は大学での授業における取組みも多様化しており、PBL型(課題解決型)授業が盛んに行われたり、アクティブラーニングを導入して受け身の授業から参加型の授業に転換している例が多々あります。
大学時代の学業が生み出している要素にはいろいろなものが潜んでいて、学生本人もその可能性に気づいていないケースがたくさんあります。

採用面接の現場でも、学業経験よりもアルバイト経験やスポーツ経験などを重視する傾向が強いイメージがありますが、学業に関してフォーカスをあてることで学生の性格や魅力をまた違った視点で浮き彫りにできる可能性があるのではないでしょうか。

学生がしている勉強なんてたいしたことないでしょ?と思い込まずに、ぜひフラットな視点で学生が費やした時間に目を向けてみてはいかがでしょうか?

また違った魅力が見えてくるかもしれませんよ。

【参考文献】
小山治(2017) 「大学におけるレポートに関する学習経験は就職活動結果に対 して有効なのか」大学評価・学位研究 第18号1-17、独立行政法 人大学改革支援・学位授与機構


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