サッカー以外の魅力語れる人に
と掲げておきながら、逆説的なテーマで書いてみる
ある日、彼はあきれていた。「先輩たちがうそだらけのエントリーシートや自己PRで選考に通っているのを見てきました。上場しているような有名企業です。人事や社会人は見抜けないんでしょうか」
体育会学生は就職市場で取り合いに
例えが昭和だが水戸黄門の定番シーン「この印籠が目に入らぬか!」に「ははーー」と皆が従う。体育会専門の就職エージェントがいくつも存在し、体育会学生に破格の月収を提示する会社もあるという
脳科学者 中野信子さんは著書『空気を読む脳』(2020年講談社)の中で体育会系男子が高評価なわけをこう記している
(前略)上意下達の組織では上の命令は絶対であり、言葉として明示されない意思を忖度する能力の高さが求められ、そこには「空気を読んで」行動することが良しとされる価値基準が存在します。(中略)彼らは非常に”使い勝手”が良い。こうした組織の中では、和を乱さぬよう自分を適度にアピールし、評価を高めていくスキルはきわめて重要なものであり、学歴や本来の職能以上に重視されます。
部活動(特に体育会)は無条件に一定の高評価を受ける。実際どんなモチベーションで取り組んでいたかは不問なのだ。全員がプロを目指している訳ではなく、取り組み方にはばらつきがある。活動に打ち込むエピソードは忍耐力、業務遂行力の表れなのは分かるが、わたしなら「どんな場面で成長できたの?具体的に教えて」と必ずつっこみを入れる
体育会を採用したがる会社の特徴
彼の先輩たちはありったけのスパイスを盛って、見た目がすごく美味しそうなカレー(ストーリー)を作り上げたのだろう。さて、人事や社会人はこの見た目すごそうなカレーの真偽をどう思っているのだろう。2パターンに分かれるとわたしは考える
パターン1 出身大学・体育会信仰の強い会社
成果主義、個人で契約を取ってきただけ評価され昇給・昇格するような業界に多い。実際、過去の採用実績から結果を出している社員が多いため体育会を優先的に採用する。(そもそも体育会出身者の割合が多ければ活躍している社員の確率が上がるのは当然だが)よほどまずくない限り最初から採用する気だから、エントリーシートや面接の出来は二の次、形式的なものになる
パターン2 真偽より欲しい人物像を優先する会社
パターン1よりは「スパイス盛りすぎて本来のカレーの味がしなさそう」と分かってはいる。他者と差別化してまで受かりたい一心で作り上げたカレー。会社の商品を顧客に提案する時、他社との違いや自社のストロングポイントを堂々と伝えられる社員がほしい。面接で当たり障りのないことを控えめに話す学生に比べ、求める人物像にマッチしているから重宝される
体育会への思い込みや期待から外れてみる
「(よく知らないのに)サッカー部すごいよね」と言われたくない。自分のイメージをサッカー中心に語られることに違和感がある。そう考える部員はどうすればいいのか。サッカー部の価値が通じない別の世界に少し足を踏み入れてみるのはどうだろう。サッカーと無関係のアルバイト、短期の海外留学や地方留学、資格の勉強、ボランティアサークルなど幸いなことに大学生には望めば数多くの選択肢が用意されている
ただそれらを漫然とやっても意味がない。なぜやってみるのか、目的をもって一定期間やるとそれはカタチになる。不思議なことにサッカーと無縁の活動をしているにも関わらず、サッカーで培ったものが役に立つ場面がきっとある。逆に他での活動がサッカーや部内活動に活かされる。
わたしの敬愛するサッカー選手中田英寿はJリーグ時代、会計士の資格勉強をしていた。後に日本を背負う選手でも合間を縫ってサッカー以外の道、自分の可能性のために淡々と自己投資、自己研鑽している
「体育会サッカー部所属」はあくまで切り札だ。謎のスパイスを盛りすぎなくていい。最初からカレー本来の味で勝負する。サッカー以外の自分とは?その魅力を語れる人になろう
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