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PCSK9阻害薬についてまとめてみた 2020.10.22
冠動脈疾患の二次予防には、LDLコレステロールの厳重な管理が重要であり、LDLコレステロールの管理目標は徐々に厳しくなってきています。European Society of Cardiology (ESC)のガイドラインでは、LDLコレステロールの管理目標を55mg/dl未満とかなり厳しい値に設定しています。
従来の管理目標値であれば、スタチン内服のみで達成できることが多かったのですが、日本動脈硬化学会ガイドラインの70mg/dlや、ESCの55mg/dlといった厳しい目標値を達成するにはスタチンだけでは不十分で、他薬剤の併用が必要なことがしばしばあります。そんな中、強力なLDL低下作用をもつPCSK9阻害薬が注目を集めています。
PCSK9阻害薬は単独ではもちろんのこと、スタチンと併用しても強力なLDLコレステロール低下作用があり、日本人において約60%のLDLコレステロールを低下させると報告されています。まさに最強の脂質低下薬と言っても過言ではないでしょう。
一方で、PCSK9阻害薬は注射製剤であり、薬価が高いことから、いまだ医師の間でも馴染みがある薬ではありません。そこで、今回は最強の効果があるにも関わらず、まだ馴染みのないPCSK9阻害薬についてまとめます。
PCSK9とは??
PCSK9は "proprotein convertase subtilisin/kexin type 9" の略で、「前駆蛋白転換酵素サブチリシン / ケキシン9型」と訳されます。名前だけではどんな薬かよくわかりませんね・・・。PCSK9の作用をざっくりまとめると、以下のとおりです。
・PCSK9遺伝子は家族性高コレステロール血症の第3の原因遺伝子
・PCSK9は、LDL受容体(血中のLDLを取り込む)の変性分解を促進し、LDL受容体をリサイクルできなくする
・PCSK9阻害薬は血中PCSK9に結合して無効化することで、LDL受容体の機能を最大化し、血中LDL-Cの肝細胞への取り込みを促進する
強力なLDL低下作用
PCSK9阻害薬の効果の強さは、FOURIER試験(N Engl J Med 2017;376:1713-22)の結果を見ればよくわかります。
FOURIER試験は動脈硬化疾患を持ち、適切な内服治療を行っているにも関わらずLDLコレステロールが70mg/dl以上の40〜85歳の成人を対象に、PCSK9阻害薬であるエボクロマブ(レパーサ®)を投与した群とプラセボ群とを比較した研究です。
研究開始時点でのLDLの中央値は92mg/dlとそれなりに管理されている値にも関わらず、エボクロマブ投与群では中央値が30mg/dlまで低下したと報告しています。すでにスタチンで治療を受けている患者さんで、LDLコレステロール値を半分以下まで低下させる効果があるとは衝撃的な結果です。
またエボクロマブは、LDLを低下させるだけではなく、primary outcome(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症 or 冠動脈再血行再建による入院)も有意に減少させました(エボクロマブ群で9.8%、プラセボ群で11.3%)。
日本で使用できるPCSK9阻害薬はレパーサ®のみ
当初、日本ではPCSK9阻害薬として、エボロクマブ(レパーサ®)とアリロクマブ(プラルエント®)が使用できましたが、特許の問題でプラルエント®が販売停止となったため、2020年時点ではレパーサ®のみ使用できます。
ただ、PCSK9阻害薬は高額な薬なので、しっかりと適応を判断する必要があります。レパーサ®の添付文書に記載されている適応をみていきましょう。
家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。
・心血管イベントの発現リスクが高い
・HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない
家族性高コレステロール血症だけではなく、通常の高コレステロール血症も適応になっていますが、細かい条件が記載されています。
HMG-CoA還元酵素阻害薬はスタチンのことですので、心血管リスクが高く、スタチンでは十分なLDL管理ができない患者さんやスタチンが副作用で使えない患者さんが適応ということです。
さらに「効能・効果に関連する使用上の注意」にも以下の記載があります。
家族性高コレステロール血症以外の患者では、冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、 糖尿病、慢性腎臓病等の罹患又は既往歴等から、心血管イベントの発現リスクが高いことを確認し、本剤投与の要否を判断すること。
なんとなく「コレステロールが高いからといって、誰でも使っていいわけではない」というメッセージが読み取れますね。
ちなみに禁忌は「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」のみで、慎重投与項目も「重度の肝機能障害患者」のみです。高齢者への投与については「一般に高齢者では生理機能が低下しているため、副作用の発現に注意すること。」とだけ記載されています。
用法用量
用法用量は「家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体 及び 高コレステロール血症」と「家族性高コレステロール血症ホモ接合体」で異なります。
前者の「家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体 及び 高コレステロール血症」に対する用法用量を引用します。
成人にはエボロクマブ(遺伝子組換え)として140mgを2週間に1回又は420mgを4週間に1回皮下投与する。
420mgはオートミニドーザーという患者さんが自己注射できるデバイスがセットになっています。「2週間に1回」よりも「4週間に1回」のほうが患者さんの利便性は良いでしょうから、420mgを使うことが多いでしょう。
それでは、肝心の薬価(2020年10月時点)をみていきましょう。
レパーサ皮下注420mgオートミニドーザー:47,274 円
レパーサ皮下注140mgペン:24,344 円
なんと1ヶ月で約5万円!!3割負担だと15,000円弱、1割負担で5,000円弱になります・・・。なかなかのお値段ですね・・・。
これだけ高額だと経済的理由でこの治療を受けられない患者さんも多いでしょうし、値段を伝えずに処方するとトラブルになってしまうかもしれません。
薬の効果だけでなく、薬価についてもしっかり説明する必要がありますね。
まとめ
以上、PCSK9阻害薬についてまとめました。
PCSK9阻害薬は腎機能障害や年齢が禁忌項目にないので幅広い患者さんに使いやすく、すさまじいLDL低下作用がありますが、お値段もすさまじいので、適応があるか、患者さんが薬価を納得してくれるか、しっかりと見極めてから処方する必要があります。
しょっちゅう処方する薬ではなさそうですが、選択肢として提示する知識は身につけておいたほうがよいですね。
このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。
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