もっと優しくしておけば良かった
以前の記事で、何かと私に頼ってくる同僚の話を書きました。
自らの内側に巣食う彼への不平不満を”獣”と名付け、そう思ってしまうことは避けられないし仕方ないのだ、せめて綺麗ごとを言って生きて行こうじゃないか、という、ある種の開き直りの記事です。
最近も、彼が担当していたはずの案件を、いつの間にか私が全方位の対応をしていました。(これは典型的な業務属人化の兆候なのですが、それはひとまず置いておきます)
もともと彼の仕事だし、少しくらいは彼にも職務を全うしてもらおうと、問題が生じた経緯の確認だけは彼にお願いしていました。
ちなみに、最近彼はずっと在宅勤務で、会社では顔を合わせていません。
しばらくして、「以下のメールを見て下さい」という返信がありました。
どれどれ、と確認すると、そこにあったのは別の担当者に問い合わせた結果、「知らない」と返された文面だけでした。彼自身で確認しようという意志はまったく見られません。
あー。ダメだもう。話にならねえ。
せめて。
自分では確認できないというのなら、せめて「私では分からないので、師之井さん、すみませんが確認をお願いします」くらいの一言は欲しかった。何故私が、「以下のメールを見てください」の一言からその意図を汲んで、代わってあげなければならないのか。
しかしそんなことを言っていても始まらない。
「なるほど、あなたに頼んだのが間違っていましたね」という旨のメールを彼に送って、私は仕事を続けました。
そんな彼について、今朝、上司から以下の報告がありました。
持病の悪化につき、向こう半年は休養措置としてほしい旨、本人からの申し出があった。半年経っても回復しないようであれば、そのまま退職となる。
なるほど、つまり私が彼に意地の悪い返信を送っている間も、彼は体調の悪化に苦しんでいたというわけか。そして少なくとも、私が日本に帰国する前に彼が復帰することはもう無いし、そのまま退職となってしまうかもしれないわけか。
なるほど。
今、私の中に二つの矛盾する思いが同時に生まれています。
A. 彼が病気であることは前から知っていた。もう少し彼を労るような、優しい対応ができたのではないか。彼に私と同等の働きを求めること自体が酷だったのではないか。
B. 病気の状態がどうだったかなど知らされていなかったし、これはビジネスだ。お互い金を貰って仕事をしているのであって、ここはケアハウスじゃない。病気を理由に俺に仕事を押し付けるなら、さっさと退職してくれよ。
A的思考で落ち込みそうになるたびに、B的思考が顔を出し、私は悪くないと自己弁護をする。
しかしBの考え方というのは、あまりにも人間的でない気がします。我々がやっているのはビジネスなのだと、そんな風にはっきり割り切れる世界なら、仕事が辛いとかつまらないとかで悩む人間なんてそもそもいないんじゃないのか。
誰でも年老いるし病む世界なのに、私は自分がまだその段階にいないのを良いことに、そのことを理解しようとしてないだけなんじゃないのか。
あらゆる職業は人間が生きて行くために存在しているのであって、人間が職業のために生きているのではない。なのに私は、同僚が病気で苦しんでいることを知ってなお、Bのような考え方をしてしまう。それはあまりにも、何かが欠けているのではないか。ここはケアハウスじゃないって、そんな冷たい言い方があるだろうか。
だからと言って、彼の分まで仕事をして、しかし貰う給料は変わらない私が、何故さらなる罪悪感を抱く必要があるのか?
というか私は、この期に及んで自分の心の持ちようみたいなことを気にしているわけですが、それより何より、まずは彼の体調回復を願うのが人として正しいのでは? という気持ちも生まれてきます。
どうすればいいのか、いくつになっても分からないものですね。何にせよ、Bのような考え方は偏狭で、唾棄すべきものであることは間違いありません。
そもそもこのように考え方の正誤を判定できると思っている時点で、既に私は強者の立ち位置であり、傲慢な気がします。どうしようもない。
せめて私がこちらに居られる残り数ヶ月の間、何か彼の手助けをしたい。
仮に、やい、てめェ俺に仕事押し付けやがって、という怒りが生じるのだとしても、それすらもエネルギーに変えて、ちゃんと優しく振る舞える人間でいたい。
って、そんなことをいくら考えたって、ひょっとしたらもう二度と彼に会う機会はないかもしれないわけです。
もしこのことを知っていたら、私はもう少し優しい態度を取れたのだろうか。きっと取れたと思うし、知らなくてもそうすべきだった、という後悔に結局戻ってきてしまう。思考が無意味なループに囚われている。
そんなどうしようもない葛藤を抱えて生きているという結論のない独白です。四十にして惑わず、って孔子は言ったらしいですが、本当ですかね。こちとらアラフォーだぜ。勘弁してくれよまったく。
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