TENGAとお風呂に入った

 タイトルから分かる通り、今回は全編下ネタになってしまうだろう。
 とはいえなるべく下ネタは避けたいと思っている。このタイトルから出来るだけ挽回するのが今回の裏テーマだ。

 これは信じてもらうしかないのだが、俺はどっちかっていうと下ネタは嫌いだ。みんなもそうかも知れないが、下ネタというものはエロサイトのポップアップ広告ぐらいボコボコ自然に湧き出てきて、しかも脳内の一番前に表示されてしまう。だから精神を強く持って常に「避けよう」と思っていないと、口を開けば100%下ネタ人間になる。皆さんの周りでもそうなってるやつ何人かいるだろう?

 だから下ネタは避けられる場合は絶対に避けるのだが、行きがかり上、避けられないときもある。今回はTENGAを使った話だから下ネタを避けるのは至難の技だ。せめて単語は暗号化しておこう。

 まず例の「独り相撲」のことだが、これは本稿では「反政府デモ」と呼ぼう。
 俺の俺自身は「岸田文雄」
 成人向け動画は「マルクス」
 マルクス女優は「マルクス主義者」と呼ぼう。

 普通に政治の話がしたくなったらどうしよう。やっぱり30代の大人として、政治についてもある程度は語れないとまずいよな。
 岸田首相のことは「ちんぽこ」と呼ぶか。

 大学1回生の夏休みだった。俺は実家に帰ってきていて、信じられないほど暇だった。回転するイスでグルグル回って遊ぶぐらいしかすることがない。

 地元の友達ともひとしきり遊んで、親も俺の顔を見慣れて「そろそろ帰れよ」という雰囲気を出してくる。実家で親に「そろそろ帰れよ」って雰囲気出されたことあるか? あんなに悲しいことはないぞ。

 漫画読んでゲームして反政府デモして、ただただ惰性で1日が過ぎてゆく。1日に2回も3回も反政府デモするときだってある。だんだんそれも虚しくなってきて、ちょっと今日は逆にデモらないでおくかと思っても、気がつくとついマルクスを検索している。

 これではあまりにもダメだという話で、せめて1回1回のデモの「質」を高めていくべきだろうとなった。

 まずTENGAを買ってきた。これだけでだいぶスペシャル感が出てくる。だが、それだけでは本物のデモにはならない。俺はマルクスの厳選を始めた。

 俺の当時お気に入りのマルクス主義者は「つぼみ」さんだった。俺はつぼみさんの動画を何本も用意し、何時間もかけてじっくり見極めた。
 男同士で「オススメのマルクス主義者」について語り合うことは多々あるが、つぼみさんと紗倉まなさんが今でも俺の中で伝説的指導者だ。

 長い動画の中で「ここだ」という数分間があるからそれもしっかり決めておく。いつでも再生できる準備は整った。

 ここにきて、「TENGAは電子レンジで温めるとより真実味が出る」という話が俺の目に止まった。なるほど。なるほどたしかにそうだ。真実味はきわめて重要な要素だ。だが問題は電子レンジだった。電子レンジはリビングにしかないし、そもそも実家の電子レンジをそういう用途で使うと天国に行けなくなる気がする。

 なんとかして温めたいが、電子レンジは使えない。どうしよう。

 そうだ、お風呂だ。一緒にお風呂に入ればいいんだ。

 TENGAをお風呂に連れて行く。湯船にちょっと熱めのお湯を張って、ぶくぶくと沈める。TENGAは中にスポンジが入っているから、お湯を吸ってずっしりと重くなる。この重量感が逆に真実味を増すような気がする。湯船の中でしっかりと温める。

 ひとしきり温まったところでTENGAをお風呂から出して体を拭いてやる。中に溜まったお湯は全然抜けなかった。それはそれで真実味が増すかもしれない。いずれにしても早いところ始めないとTENGAが湯冷めしてしまう。俺は急いで部屋に向かった。

 マルクスを再生し、俺の岸田文雄を立候補させる。「ここだ」というポイントが来た。ガチガチに立候補した岸田文雄はTENGAの中に勢いよく閣議決定される。その瞬間、「ビュッ」とTENGAの先端からお湯が放出された。

 TENGAの先端には空気を抜くための小さな穴が空いている。これが無いと先がふさがった注射器みたいになってしまうので非常に重要な機構だ。
 結果、お湯が溜まったTENGAに岸田文雄を閣議決定すると空気穴から水鉄砲みたいにお湯が放出されることになった。

 「ビュッ」「ビュッ」と、リズミカルにTENGAの先端からお湯が放出される様を見て、なんだか俺は全てがバカらしくなった。

 なにやってんだ俺は。大学1年生の夏休みって彼女が出来たりするもんらしいじゃないか。それに比べて、なんなんだこのありさまは。くそ。終わってる。終わってるぞ。

 俺の岸田文雄はすっかり落選していた。

 ついでにもう一個、反政府デモの話をしておこう。

 ニュージーランドにホームステイに行ったことがあった。俺の通っていた中学校のイベントで、15人ぐらいで「ワイヌイオマタ」という首都ウェリントンの外れの街に行った。

 俺のステイ先はゲストルームとして余った個室があって、そこで寝泊まりさせてもらった。期間は2週間ほどだった。

 ホームステイも終わりに近づいたある日、日本人の男子生徒だけで集まってこれまでの生活について語り合っていると、そのうちの誰かが反政府デモの話を切り出した。

 「俺ぶっちゃけ1回だけやっちまったんだよ」
 『おいおいおいマジかよ!!』ギャラリーからブーイングが起こる。

 そこにいたのは8人ぐらいだっただろうか。この2週間で何回デモを行ったのか正直に言っていこう、という話で意見がまとまってしまった。

 「俺は2回したわ」
 『お前変態かよ!』

 「俺は1回もしてない」
 『おお〜』

 どんどん俺に近づいてくる。俺は13回していた。

 「俺も1回もしてない」
 『おお〜』

 「ぶちゃけ俺は3回!」
 『3回はありえない』
 『ひくわ』

 3回でこんな反応されてるのか。まじか。どうなんだ。俺の順番が来た。

 「……俺も3回」
 『ここにも変態いたよ』
 『やばすぎ』

 さすがに嘘をついてしまった。だいぶ過少申告したのに変態扱いだ。

 あのとき、正直に13回って言ってたらどうなってたんだろう。過去に戻れたらやり直してみたい。せっかく過去に戻れるのにそれでいいのか?

 今となっては良い思い出である。

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