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ダメ人間は「心機一転」が好きだ——「TRINEAR」ネーミングデザインを経て感じたこと

枕詞を足すと、「ぼくのような」ダメ人間は、「心機一転」という言葉が好きだ。
これは自分がどういった人間であるのか自覚している証拠でもあり、なおかつその事実から目を背けたいという逃避の現れでもある。

先週までで、半年前から関わらせていただいていた新商品PRのための一連の依頼が終わった。
結果から言うと、大成功だったと思う。
展示会でぼくの命名させていただいた商品や、それにあわせてお師匠が制作したロゴなどが散りばめられたブースを見ると感無量だった。
デザイナー駆け出しではあるけれど、冥利に尽きるとはこのことかとしみじみと感じていた。
(PJ特設ページ)

「TRINEAR、それは3つの可能性が生む未来」——。
自分でも気持ちのいいコピーが書けたと思ったし、TRINEARという名前自体にものすごく愛着がある。
最初、この名前は提案になかった。
お師匠が提案したペットネームのみが選考として出され、なおかつT社内でもいくつか候補があったと聞いていたので、駆け出しのぼくが出る余地はないと思ったからだ。

だけど、その一連の名前候補たちを見た時、なんだか違和感があった。
「これでいいのか?」
ぼくの脳裏には、ずっとその問いが浮かんでいた。

お師匠は美大を出ているし、ぼくなんかよりずっと(くらべるのも烏滸がましいほどに)経験豊富なデザイナーだから、まともな案、妥当な案がいくつかでているな、という感想を持っていた。

でも、これは「新商品」だ。

それも、T社が全力で新開発した、技術の粋だ。

その名前が「妥当」でいいのか。

そんな思いがずっとゆらめいていた。

気がつくと、メモ帳を開いて、様々な単語や要素を調べて、いくつもいくつも候補を出していた。

そして意外にも、一番最初に作って——しっくりと来たのが、「TRINEAR」だった。
実際には3つほど提案したが、どこか「これになるに違いない」という確信があった。

「TRINEAR」は、3つのカメラ(実際には波長帯なのでカメラではない)の視点を同時に、1ミリのずれもなく表示できるという光学技術だ。
詳細は書けないけど、ぼくはなんだかこのシステムが好きだった。

「TRI」には、「trinity」という意味がある。
そして、隠された意味は「Try」でもある。
3という数字はバランスがいいので、色々な意味に取れもするが、私に限って言えばこの「3」は「可能性」だ。

過去、現在、そして未来。

全ての事象は、この3つの時間の流れをなくしてはありえない。
それを見るための「TRINEAR」だ。

では「NEAR」は何か?
もちろん、近くだとか、そう言う意味だ。
これは本体の活躍する場所が超近接か、超望遠のどちらかであるということもある。

だけど、それなら「closs」なんかの方がイメージに近いだろう。

ではなぜ「NEAR」なのか。
それはこの技術が「人の近くに寄り添う技術であってほしい」という願いから来ている。

正直言うと、この技術が一番活躍でき、かつお金が潤沢に入る領域は間違いなく「軍事」だ。

今後開発が進み、精度が上がった状態でミサイルなんかに積まれたら、あるいは偵察ドローンに積まれたら、間違いなく、遺憾無くその性能を発揮すると思う。

だけど、それはできればして欲しくない。
これはぼくのわがままかもしれないし、エゴかもしれないし、日本にうまれたから思う日和見目線なのかもしれない。

でも、人を殺すために作った技術ではない。
それを強調するために、「見る」だけではなく、「人に寄り添う」ニュアンスのある名前をつけてあげたいと思った。

今、世界はまた戦争の痛みを忘れかけていると思う。
これは実際の戦争に限らず、SNSなんかにも言えることだ。

今や、どこのSNSでも揚げ足取りと魔女狩り、匿名戦争や私刑が横行している。

いくら入念に調べたとしても、この先この家業を続けていって、似たデザインのロゴを作ってしまったら、きっとぼくもSNSにいる「正義漢」たちに燃やされてしまうだろう。

そんな擬似平和の世の中で、一つくらい悪用されない技術があったっていい。
そんな思いでこの名前に祈りをかけて、提案した。

結果、あれよあれよと言ううちに採用されて、なんだかお師匠には悪いことをしてしまったと思っている。

でもお師匠の作ってくれたこのロゴも、なんだかぼくの意図を汲んでくれたようで嬉しい。
モチーフが丸いのが最高だ。

さて、そんな経験を経て、我が子を見送るような気持ちで展示会に出席し、週を跨いで、今。

ぼくは、心機一転、TRINEARの名付け親として立派な人間に——。

なれてはいない。
相変わらず部屋は汚いし、お金はないし、展示会での無理が祟って2日寝込んでしまう始末だった。

人間、そう簡単に変われるもんじゃない。
森羅万象、積み重ねたことや蒔いた種が芽吹くことで事態が動くのだから。

ダメ人間は、積み重ねが嫌いだ。
目に見えるものしかわからないから。

それを自覚して、反省したことが今の所の大きな収穫な気がする。

過去、現在、そして未来。

全ての時間はつながっている。

とりあえず、ぼくはごみを捨て、机を片付け、ガスを復帰させようと思う。
ダメ人間は、人より半歩遅いくらいがちょうどいい。

心機一転は、手軽にストイックになれる麻薬のようなものだから。

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