夏の夜
こんにちは、炭素です。
深夜一時に目が覚めた。
腹痛で目が覚めた。
一度起きるとなかなか眠れないもので
ただ天井を見つめていた。
久しぶりに静寂の暗闇を感じた。
病んだことのある人ならわかると思うが、
この状況で病まない人はいないだろう。
案の定いつものように私は焦燥感にかられ、
過去のことを思い出した。
楽しかった日々
幸せだった日々
満たされた日々
生きていたいって思えた日々
過去の幸せだった日々のことを思い出す。
私は耐えられずにベランダに出た。
ベランダに出ると雲一つ無い星空が広がっていた。
八月にしては涼しい風が頬を撫でる。
鈴虫の音や遠くの家の室外機の回る音。
夏の夜の湿気を含んだ暖かな匂い。
きっと1000年前の人たちなら「いとおかし」とでも言うのだろう。
とても趣深い空気が漂っていた。
私は昔、ベランダで星を見ながらぼーっと考え事をするのが好きだった。
なぜかは分からないけど部屋にいるときよりも心が軽くなって
とても楽しかった。
星空を見ると心が穏やかになる。
最近はベランダに出る気力すらなくて
ずっと部屋で天井を見つめていた。
そこで思う。
先ほど過去が幸せだと言っていたがよくよく考えるとそんなことはなくて
過去だから記憶を美しく美化してしまっているだけなんだろう。と。
過去の幸せなところだけを切り取っている。
そしてそれを勝手に補完している。
だから美しく見えてしまう。
実際は今とさほど変わらないのに。
遠くにあるものほど美しく見えるって
昔誰かが歌ってた気がする。
そんな歌詞を思い出した。
それでも
過去が実際にはどうだろうと
今の私には過去は美しく見える。
その事実だけで十分だ。
そんな事を考えて夜空を眺める。
火星と木星がよく見える夜だ。
そういえば今日は8月12日。
ペルセウス座流星群が来るくらいの時期だと思い出した。
昔は星や宇宙が好きだったな。
もしこれが映画や小説なら
今流れ星が次々に流れていくところだろうけれど
ここは現実。
一つも流れない笑。
まあ極大日は明日だし。
もしよかったらみんなも今夜空見てみて。
それでも私はなぜだか楽しい。
なぜだか心が穏やかだ。
きっと流れ星よりこの夜の空気感が好きなのかもしれない。
ずっとこの夜が続けばいいと思った。
そんな時間を過ごすうちに午前三時を過ぎた。
東の空にオリオン座がのぼり始めていた。
あっという間に時間は過ぎる。
そしてまた朝がやってくるのだろう。
朝なんて嫌いだ。
明日なんて来ないでほしい。
それでも時間は進んでしまうのだろう。
いつもの苦痛な日常が始まるのだろう。
私は少しでも明日を先延ばしにするために夜更かしをする。
ベランダで穏やかな時間を過ごし現実逃避する。
朝日から逃げたい。
『明けない夜はない』とかいう言葉もあるが
いっそこの夜が明けないで欲しかった。
良くも悪くも『明けない夜はない』らしい。
空を見れば随分と星が移動している。
あと2時間もすれば朝が来るだろう。
朝とか夜とか
右とか左とか
死ぬとか生きるとか
全部どうでも良くなってきて。
とにかく今は夏の夜にいたい。