「コロナ禍の同人イベント」~我々がリモート即売会に魅力を感じる4つの理由
(※TLでよく見る、バズ狙ってそうなあざといタイトルに変えてみました)
まえおき
私、CarasOhmiは、新しいこと始めるのに怠惰な人間である。人に勧められた作品は見るのを後回しにしがちだし、新技術の勉強はおっくうになるし、便利なツールを教えてもらっても、1年後になって「マジ便利!なんでもっと早く教えてくれなかったのさ!」となることが往々にしてある。教えてくれた人に謝るべきだ。
そんなクリエイターにあるまじき怠惰さを誇る私と言えども、ケツに火が着くと流石に動き出す。そして、今年に入ってから世間を覆いつくしたコロナ禍は、能動的な変化を拒む私ですらも、ケツ着火ファイヤーするのに十分な衝撃を与えた。
同人誌即売会が無くなる!?
ヤバいと思った。
密接・密集・密閉…この全てを満たし、そしてこれら全てが、イベントの楽しさ、「魅力」に直結しているイベントが同人誌即売会である。数時間にわたり、不特定多数と対面コミュニケーション&本と貨幣の受け渡しをする。三密の体現といった趣だ。
今なお、感染対策を行い即売会を開く、各種の同人誌即売会運営のバイタリティには頭が下がる思いである。だがその反面、同人誌即売会という場の感染リスクの高さを踏まえて、楽しさと自分自身の安全を天秤にかけると、同人誌即売会は参加にすごく勇気が必要な存在になってしまった。あの逆ピラミッドも、今となっては遠くに感じてしまう。
追記:この記事を書いてる最中に冬コミの中止が発表された。妙な因果である…。
同人誌即売会の役割
私も、今春~今夏をリアイベ復帰の目途にしていたため、このコロナ禍で出鼻をくじかれた形になってしまった。…だが、いつまでもへこたれるわけにはいかない。とりあえず、Boothで何か作って頒布してみようと思い立つ。
…結果は、びっくりするほど売れなかった。まあ、作ったものがニッチなグッズというのもあるが、即売会なら少なくともこの2・3倍は頒布できるのではないか、という見積もりだった。
(※後日追記:時系列の記憶が混乱していたが、Booth出品はコロナ拡散前の出来事だった。…だが、エアコミケのタイミングで宣伝しても、あまり効果が無かった、という別のほろ苦いエピソードに繋がることになる)
だが、イベントも何もない状況では、なかなか同人は見向きして貰えないのであった。ここで、少しばかり即売会の役割というものを考え直してみることにしよう。
自分の見解として、サークル参加者にとっての同人誌即売会の恩恵は、大きく以下の3つだ。
・交流の場
・締め切りの規定
・物欲のブースト
まず「交流の場」。普段会えない尊敬する作家さんに会ったりする、地理的に遠いジャンル友人と一堂に会する、みんなでアフター行って飲めや歌えや大騒ぎ!みたいな。…正直、これが無いのは相当つらい。同人誌という物は「同好の士」の集いなので、ある意味本を出す以上に、これを楽しみに活動する面もある。…これに関しては、いくらリモートが発達しても、対面の楽しさまではフォローしきれないだろう。
次に「締め切りの規定」。冒頭に「私は怠惰な人間である」と書いたが、ぶっちゃけ、人類なんてみんな怠惰である(クソデカ主語)
世の同人作家が、締め切り直前に切羽詰まって後悔して、エナドリでブーストかけて不健康になりながら、ギリギリで脱稿する、みたいなエピソードは枚挙に暇がない。水木しげる先生の「早死にするからちゃんと寝ろ」という話を、世の同人作家は真摯に受け止めるべきだろう。
…だが、逆説的に言えば「締め切りに間に合わせようと必死になる」ことで、本を刷るために必要な進捗はどうにか仕上げてしまうのが、同人作家という生き物である(この成功体験が地獄の循環を生むのだが…)
同人創作においては「進捗が本を作り上げる」のと同様に「締め切りが進捗を作り上げる」という因果がある。即売会の消滅…それは、数多くの締め切りの消滅であり、ひいては「出るはずであった新刊」の消滅の原因でもあることだろう…。
最後に「物欲のブースト」。読者諸兄におかれては「即売会行ったら、ついついお金使い過ぎちゃってさ~」という経験はないだろうか。私はある。イベント会場には、書店とは比較にならない数のサークルが、「自分の好きなジャンルの本」を、ホールの端から端まで机を並べて頒布している。ショップに並ばないようなイベント専門のサークルのコピー誌やハンドメイドのグッズなどもある。欲しいものが見つかる可能性は書店以上、そんなのテンションはアゲアゲ、財布のヒモはユルユルである。
当日イベントで買えなかった壁サークルの本も、コミケやオンリーなどのイベント合わせの入荷で書店に並ぶことは多い。ひとえに「一日で大量のジャンル本が刊行される」という状況が、オタクたちの「今こそが金の使い時」という情念を掻き立てるのである。
「いついかなる時でも本が売れる」わけではない、私のようなピコ手~中堅サークルにとって、同人イベントは「自サークルの新刊を最優先してくれる熱心なファン」以外の来場者にも本を買ってもらい、自分の創作に興味を持ってもらうチャンスなのである。
「リアル即売会の代わり」を探せ!!
…ってなわけで、同人誌即売会の「ジャンル内の知り合いとワイワイ会話できて」「締め切りを定める指標となって」「本が普段より売れる」という利益を享受してエンジョイしていた者としては「イベントが無くなっちゃったら困るよ~っ!!」って話なのである。
…とはいえ、いくら喚いた所でCovid-19は消滅してはくれない。人間社会特効の、傍迷惑でいやらしいウイルスである。
そんなこんなで、同人作家や運営はいろいろ工夫を凝らした。「エア即売会」「VR即売会」は、そのアプローチのひとつだろう。 …だが、自分の体感として、これらはなんか違うなと思った。もちろん、それは自分の「新しいことへの怠惰」であり、その中に当事者として飛び込む事を躊躇したのも一因ではある。
こうして、満たされない欲求を抱えたまま、「コロナ 即売会」で検索をかけながら、不安や不満の共感を得ることで、孤独感を紛らわす日々を送っていた。そんなある日、検索タブの中から、自分の心の穴にバチッとハマるサービスを見つけることになった。それがリモート即売会プラットフォーム「pictSQUARE」である。
Welcome to ようこそ pictSQUARE
…割と褒めまくり記事書いちゃいそうだが、運営会社の回し者ってことはない(というか本職がソーシャル的なサービスも取り扱っているIT系企業なので、回し者なんてやったらクビだ)
ただ、前述の通り私は「自ジャンルで即売会(の代替イベント)がめっちゃ欲しいおじさん」である。それゆえに、その実現性が高いこのサービスに入れ込み、要望出したり、アバター作ったり、イベント主催に参戦したり、解説動画作ったり、精力的に活動しているってだけである。
…どうにも自分は、一度入れ込むと周囲が引くぐらい熱心な応援団になってしまうようだ。
さて、pictSQUAREとは何か。
「見下ろし視点の一昔前のRPGっぽい操作画面で、ドット絵のアバターを操作してチャットしたり、同人誌買ったりできるサービス」である。
↑超わかりやすい解説があるので、概要はこれを見て欲しい(自画自賛)
…印象的にチープな感じがある?VRChat等の3Dプラットフォームの方が、没入感、美麗なグラフィック、趣向を凝らしたビジュアルエフェクトや、多様なギミックを作れて、楽しめる?
その通りだと思う。ぶっちゃけ、pictSQUAREのマップチップやキャラチップは、ウディタでもお馴染みのフリー素材で構成されているため、見た目的には完全に一昔前のフリーゲームだ。上に書いたようなリッチな体験を求める人は、絶対に満足できない確信がある。
…だが、一見してデメリットとなるこれらの要素は「リモート同人誌即売会」という軸を据えることにより、一転して「同人サークルフレンドリーな設計」に姿を変える。
私がpictSQUAREに注目する4つの理由(したり顔)
pictSQUAREの持つアドバンテージ、それは以下の4点だと思う。
・物販機能がシンプルかつ充実している
・端末を選ばない
・迷子にならない
・手段が目的化しない
まず、「物販機能がシンプルかつ充実している」についてだが、そもそもpictSQUAREがリリースされる以前から、株式会社GMWは匿名配送の仕組みを持つ同人誌通販システムである「pictSPACE」を運営していた。そして、pictSQUAREはpictSPACEの通販との連携を前提として組まれているため、購入から決済まで、意識することなく利用しやすいように洗練されているのである。ここら辺は自社サービスの強みだと思う。
とはいえ、自家通販の支援システムである以上、サークル側は配送等に手間をかける必要は出てくる。こればかりは仕方ないが、どうしても回避したい場合は「同人書店やBoothなど、委託通販全てを代行するサービスへのリンクを張る」という回避手段もある。とりあえず自分は、初サークル参加は委託先のメロンブックスさんの商品ページを利用した。リンクを張れる通販サイトなら、何でもOKなのである(とはいえ、来場者が同人書店の通販用アカウントを持ってる保証はないし、現に一部も売れなかったのだが…)
次に、「端末を選ばない」こと。pictSQUAREはブラウザで動作するアプリであり、アカウントを作成すればPCでもスマホでも会場をうろちょろできる。ゴーグルの購入・装着はVR普及の障害としてよく話されるが、端末準備のお手軽さという意味ではかなりいい感じだ。色んな端末で操作してみたが、多少操作系の不統一は気になるものの、いい感じに動いてくれている。
クリエイターはPCやガジェットに詳しい印象を持つ人も多いかもだが、小難しいハイスペック機材より、シンプルかつ身近ですぐに理解できる端末の方が馴染みも深いという絵師の方もいるだろう(最近はスマホでお絵かきする若い神絵師も沢山いるし…)(こわ…)
そして、一般参加者を考えれば、なおのこと「誰でも持ってる端末」でのアクセスは重要視される。その点で、必要な要素がブラウザだけであるpictSQUAREは非常に優秀である。スタンダロンVRゴーグルのブラウザでも操作できるかも。
…なお、アカウント登録には電話番号認証が必要になるのがひとつの敷居になってしまっている。これは、荒らしを電話番号に紐づけてコミュニティから追放し、複垢所持を防止するための方策のようだ。用途を知ると、割とありがたい指針だなと思う。
そもそも論として、配送などで個人情報を預けることも多いサービスなので、電話番号に関しても今さらという感じなので、自分はササッと登録してしまうことにした。みんなも登録しよう(ダイマ)
「迷子にならない」。これも地味に大きい。VR…というか現実世界を含む三次元空間全般に言えることだが、カメラが動く仕組みだと「前方」の向きが回転するので、高いランドマークがなければ、自分が今どこを向いているかすらも解からなくなりがちだ。自分のような3Dゲームヘタクソマンであったり、地図を持っていても迷子になりがちな人は「自分の位置を鳥瞰的に把握したい」と感じることも多いだろう。
この点で、上視点のRPG形式は方角が回転しない。地図をそのまま読めば、自分の現在地が正確に把握できる。サークル配置図はイベントページにそのまま記載されているので、別のタブで開いておけば、まず迷子にならない。
ちなみに、これまでは共通デザインの無特徴なサークルスペースで、現在地を見失いがちだったが(森の中で迷子になる的な)、サークルスペースに自分の好きなデザインの画像を指定できるようになったので、サークルの自己主張も激しくなり、各スペースがランドマークになるようになった。この辺は現実の即売会の個性豊かなスペースを見ているようで、なかなか楽しい。サークルの外観をランドマークとして記憶して、地図を開かずぶらぶら歩くような、即売会散策ムーブも楽しめる。
そして、最後に「手段が目的化しない」だ。これはつまり、このプラットフォームが「同人誌即売会」に最適化されたものであるため、参加者の「こだわり」に仕様的な上限がある、ということである。
pictSQUARE上では、ハイポリで揺れ物や表情が豊かなこだわり3Dアバターは作れないし、自室を設計してリッチな家具を配置したり、物理演算スポーツやボードゲームのできるワールドを作ったり、美しいエフェクトの映える幻想空間も作れない。出来るのは、最低限の吹き出しチャットによるコミュニケーションと、ドット絵アバター&スペース作りぐらいだ。
だが、「それがいい」のである。…別に、ドット絵懐古趣味だからってわけではない(ドット絵派だけど)。
ぶっちゃけ、アバターや内装を際限なくこだわれて、学習コストや制作に時間がかかるなら、大多数の同人作家はいつ本を作るんだって話である。このコミュニティの目的は「本を作って売ること」だ。そのために目を引く設営やポップ、おまけ程度にアバターを着飾ることができる。これが、3Dのアバターでこだわれる仕組みだったら?…同人作家とはアートに寄った人間であり、得てして凝り性だ。作家がアバター制作に本気を出し過ぎて本が出せなくなる、悲しい光景が軽く想像できてしまう。ソースは私だ。
↑UV展開やリギングが大変で、MMDモデル1体作るのに1か月かかった。量産は厳しい…。
だが、32*32のドット絵ならそんなに手間はかからない。自分も2日間で5体のアバターを制作できた(ドット慣れしているからという面はあるが)。ちょっと手間をかけてやれば、来場者向けにオンリーの題材となるキャラをいっぱい作って、アバター配布とかも、余裕で出来る。
やった。
器用貧乏である自分の座右の銘として「何でもできるは何もできない」というものがある。「能力的に」ではない。「工数(時間)的に手が回らなくなる」のだ。
「とんでもない作業スピードで『韋駄天』の異名を持つような同人作家」以外には、「メイン創作以外にクリエイティブな誘惑のある環境」を与えないのが吉である。その点で、pictSQUAREは凝り性の参加者にむけた自己表現要素として、原稿の隙間で出来る範囲で、ちょうどいい制限と自由度のバランスが成立しているのだ。
とまあ、そんなわけでpictSQUAREに対する私の認識は「同人作家が即売会をやることを第一に考えたプラットフォーム」であり、現時点でその利便性や程よいカスタマイズ性が心地よいのである。ぜひ発展して欲しい。
そんなこんなで
この「同人作家向けのリモート即売会プラットフォーム」がもっと注目を集めて流行ったらいいなぁ、という話である。
…しかしながら、私が新たなジャンルに手を出すのが億劫なのと同じように「どうせ、リモート即売会はリアルの面白さを再現できないだろう」と考え、あまり食指が動かない人は多いようである。
それも道理である。そもそも、リモートはリアルに比べて、ノンバーバルコミュニケーションの欠落や出力スピードに難があり、円滑な交流という面では一段劣る面は否定できない。割と飲み会好きな私も、職場のZOOM飲み会で「これ飲み会じゃないやん…」と、どうにも居心地が悪くなった経験がある。
現状のリモート即売会は「コロナで失った同人イベントの代用」としての意味合いが大きい。リアル即売会の「10」の楽しみが、コロナで「0」になり、リモート即売会で「7」を目指して土台を固めている、というのが現状だろう。私は、「0」じゃあまりにもつまらないので、「7」までは取り戻した上で楽しみたいという考えだ。
だが、もしここで、「同人誌即売会とは何か」と向き合ったオタクの探索が、リアルでは味わえないリモートならではの、ベクトルの異なる思わぬ楽しみを見つけ出せれば、それは「リモート即売会文化」の萌芽だ。
もしそうなったら、とても面白いことだなぁと、ほのかな期待をこめ、今後のリモート即売会の動向を見守り、また当事者として積極的に首を突っ込んでいきたいと思う。
そして…
うちの即売会にも、サークル・一般参加者が増えて賑わって欲しいです。