リモート即売会と価格破壊
昨日の記事にちょっと追記するだけのつもりが…
思いのほか長くなってしまったので、独立記事として書き起こすことに。これは「イベント主催企業のリモート参入」と「アマチュアの価格破壊」の視点のお話である。
リモート即売会主催の責任
そもそもとして、pictSQUAREは「イベント主催者の負うべき責任」がとても少ないプラットフォームである。イベント運営に関する諸々がサービスの上でシステム化されており、主催としての参加のハードルは非常に低い。簡単な設定で自分のハマっているジャンルのオンリーイベント主催が可能になる、実に面白いサービスだ。
…だが、その側面故に、主催側のマネタイズが困難なサービスであるとも思う。現時点で想定されている課金方針は、サークル参加費が価格崩壊を起こしやすく、アマチュアの遊び場としては非常に有用な反面、営利企業としての「リアルイベント主催企業」が、リアルイベントの代替となる場として参入するには厳しいと思われる。
ノーリスク・ハイリターンの影
主催のマネタイズが難しい理由は、このサービスの最大の魅力「イベント主催がリスクを負わずに済むから」に尽きる。リアルイベントにおいて発生する運営上の経費はシステムがすべていい感じにしてくれる上に、イベント主催に対する課金が少額の固定費であるために、諸経費がシンプルに透明化されてしまい「サークル参加費を値上げする言い訳が立たない」のである(しかも、ベータサービスの手前、サークル参加無料の空気が定着しつつある…)。
pictSQUAREにおいて、イベント主催に経済的なリスクは皆無だ。あくまで趣味と割り切り、自分の人件費やデザイン・アート関連の発注費用を無視するのなら、ほとんど経費をかけずに個人でイベントを主催できる。
…それゆえに「際限なく安いサークル参加費を設定できてしまい、サークル参加の適正価格を決める指標がない」のである。
二次創作同人と「お金」
TwitterでpictSQUAREの感想を眺めていたら「(クリエイティブ以外で)お金を儲けようとする者が主催に入ってきそう」という懸念意見があった。私の見解としては「同人イベントでお金を儲ける(個人の生活費を補填する)のがアウトなら、オンリーイベントを主催する企業なんてなくなるよ…」という所である。
倫理的には「他人の権利物で金を儲けるとか、恥を知れ」っていうのは、ド正論である。…だが、ぶっちゃけ、このド正論をみんな守っているなら、二次創作同人誌はコピー本を手渡し交換するイベントしか存在しないはずだ。印刷所も、同人書店も、オンリー主催企業も、場合によっては同人作家自身も、同人関連事業を行う営利企業は、得てして「生活のために、二次創作同人作家のグレーな欲求に協力してお金を得ている」のである
同人においては、クリエイターもノンクリエイターも、生産者も消費者も、個人も営利企業も、みな等しく「グレーゾーン」の恩恵にあずかり、二次創作同人という場を楽しみ、あるいは生活の糧としている。そこに貴賤を問うことには、あまり意義を感じない。みんな等しくズルいことをしてるのだ。
…やはり同人とは、原理的にアウトローな遊びである。
無敵の趣味人
営利目的でリモートイベントの主催を行うとして、そこに必要な予算は、広報に使うチラシの印刷代や雑誌・Webへの広告出稿料、そのイラストやデザインの発注費用、企画部門やイベント申し込みに関わる人件費、といったところだろうか。
物理的空間や人海戦術が必要ないため、費用も安上がりだが、イベント主催会社の場合、社員への給与や、オフィスの家賃を支払い、企業を存続させなくてはならない。そのためには、そのイベントの経費の回収だけではなく黒字を出さなくてはならない。
…だが、私のような「自分の本を出すスペースが欲しいだけのアマチュア」には、この前提はない。現時点でのpictSQUAREには、アマチュアと企業の受けられるサポートに、質的な差異はない。にもかかわらず、イベント主催で発生する「黒字を出すことへの責任」は天と地の差だ。アマチュアは「仕事ではなく趣味でイベントを主催して遊んでいる」のだから、それも道理だろう。
そのため、アマチュアには「サークル参加費無料」というイベントを開催しまくることも簡単にできてしまう。失うものがない、無敵の趣味人だ。
好んで無敵を振りかざしてるわけじゃない
…というか、別にアマチュアだって「リアイベ主催企業を追い詰めてやろう」と考えて価格破壊しているわけじゃない。pictSQUAREのイベント主催者の大半は自サークルを持つ同人作家であり、普段はリアイベ主催企業にお世話になっていた身だ。
しかしながら、先ほど書いたTwitterの意見のような、アマチュアイベントへの嫌儲的な視線は無視できない。クリエイティブ活動以外でお金を儲けてしまうことは、むしろユーザーからの嫌悪感を招きかねない。そのため、同人作家としての自分のイメージを考えると、うかつにサークル参加費を高めには設定できないのである。
アマチュアで非営利のイベントの主催者の場合、企業イベントの様に広告や人件費などの諸経費が掛からない(というか、デザインやイベントページの作成を主催の自己負担や無償奉仕で行っている)ため、金を取り始めるとそれが直接主催者の財布に入るため、拝金主義っぽい印象を与えてしまうのだ(個人でも、企業主催と同等の経費が、自分への人件費として入るのは当然だと思うが…)
イベント主催企業と違って、これまで「イベントで金を取る」立場としてのコンセンサスをユーザーと築いてきていないため、「妥当な値段設定」を納得させにくいのだ。
モチベの自転車操業
以上のような理由から想像するのは、こんな流れだ。
イベント主催に諸経費が掛からない
↓
アマチュアが極端に安い参加費でイベントを主催する
↓
リモート即売会のサークル参加費に価格破壊が起こる
↓
リアイベ主催企業のリモート参入にうま味がない
↓
アマチュア主催者以外の主催が淘汰される
↓
モチベーションが尽き次第、定例イベント継続開催が終了する
pictSQUAREのコンセプトとして「アマチュア主催向けのリモート即売会プラットフォーム」として売り出していくのなら、この路線はアリだと思う。主催のモチベが低下して辞めてしまっても、意欲ある他の主催がそれを引き継ぐ形で代謝して行けば良い。
けれど、運営はリアイベの主催企業にも参入を期待しているようだ。私も「フレンズチホー in pictSQUARE」が開催されるなら、普通にサークル参加者として楽しみたい気持ちが強い。そっちの方が人も集まるだろうし。
しかしながら、「サークル参加が無料のイベント多数で、始まる前から価格競争が限界まで極まってしまっている」現状は、企業の参加はとても厳しいと思う。下手をすると、先ほどの話のように「アマチュアのイベントが軒並み安いのに、企業主催の即売会はサービス内容はほぼ同じでぼったくってる」と言われかねない。「趣味」と「仕事」が同じ舞台で競争する環境の悲劇である。遊びでやっとるんと違うんや……。
「言い訳」が欲しい
リアイベ主催では「高額なハコや机をレンタル・設営し、イベントスタッフをアルバイトとして雇用・教育し、当日の運営を滞りなく行う」という、かかるコストの規模感ゆえの個人での再現不能性があるため、主催企業が「拝金的な存在である」と蔑視されることは少ない。
加えて、即売会がないと同人作家の発表の場がなくなってしまうので、一般・サークル参加者双方、そのあたりの清濁を合わせ飲まねばやって行けず、「リスクを負ってるんだから不問としよう」と、イベントへの嫌儲的な視線を和らげてきていた。
だが、リモート即売会は「便利すぎるあまり、人や費用のコストが極端にかからない」のである。それが、先ほど書いたような「何もしてないクセにお金を儲けるなんて…」という価値観の人を刺激してしまうのだろう。
そういった観点から、リモート即売会にも「参加者数に比例してかかる経費的なリスク」が、軽めであっても存在していた方が、「広告を沢山打って人を呼び込める主催ほど、多くの金を払う必要がある」ということになり、その分金も必要になるという建前が成立し、サークル参加の値段設定を行いやすのである。
ともあれ「同人で金儲け」が気に入らない、プチ嫌儲的な価値観のユーザーへの言い訳は、今後の企業参入を想定する場合、アマチュアによる無料同然の価格破壊へのブレーキとして必要になってくるのではないか、というのが個人的な見解である。
だが、「二次創作同人」を楽しみたい人間にとって「グレー」は避けて通れないんだから、「著作権」と同じぐらいには「お金」に対しても、もう少しゆるい考えを持てばいいのに、とも思うのも本心だ。
…もちろん、調子に乗って荒稼ぎしようものなら、権利者にぶん殴られてジ・エンドだろうが。
塩梅は自己責任。怒られてもだれも助けてはくれない。それがグレーゾーンである。
それはそれとして
おかねだいすき