【現代詩】『熱湯✿3分』
『熱湯✿3分』
あかきみどりむらさき
カップラーメンが出来上がる迄の
心地良いこの誰のものでもない3分間を
どうぞ私にお捧げ、くださいませ
✿
今、世の中は、残酷にも、春なのです、よ。
自分を駄目だと思う事で
精神の安定を保っていた
我が愛しき婆ちゃん
ここへ、どうぞヒラリ
舞戻ってくださひな
✿
思い出す、華を凍結させた
私達の夢。
願いを込めて、押し花したのは
明日、明後日、それよりずっと
遠くのほうへ
生き永らえたいから
✿
爺ちゃんに謝って、いた
独りきりの婆ちゃん、を
なんにも悪いことなんかしてない、のに
ただ其処に居るだけ、存在してるだけなのに、謝って、謙(へりくだ)って、懺悔して
自分を殺する時のように、自分を貶める、戒める、虐めた、可哀想な貴女
誰よりも美しく
仕舞には誰にも心を
開くことなく、逝ってしまう√
お湯を注いでからの僅か3分間。
謎解きの、シンデレラやろうか
何でも良いけど
その優しい時間を
どうぞ私にくださひ、な
✿
心が死んで
立てなくなった
其処へ降り積もった幸薄気な櫻
あれは、とうだい、涙のフリを
しているんだろう
世界の端で人知れず湿気て挫(くじ)けた
仕方のない小麦粉を
まとめてドサッと引っくり返して
義理堅く使い切る
シチューか唐揚げか何かを厭でも造り揚げる
あの、世知辛い感触
あれが貴方の手にもまだ
残っているのでしょう?
✿
櫻が降ると櫻が落ちると
その根底に
婆ちゃんが埋(うず)もれながら
助けを呼んでいる
薄情な私に向かって助ケテクレヨと、
手を伸ばしている
✿
私も、私も、助けてほしい、よ。
朝の市場で清々しげに競りに掛けられ
売り切れる
脂の載った鰤ー爺ちゃんーみたいに
いっそ何処か遠くへ飛ばされて
仕舞いたい、んだ
この世から 足を洗って わたし達は
独りきり✿になりたいんだよね
この夢を、いつか叶えようよ
春を櫻を蹴りっ飛ばして
自由をこの手で証明したい
勿体ぶっても
しょうが✿ないから
2024・赤黄緑紫