夢かと思ったら水の都だった(ベネチア)
カポテのツイッターアカウントのほうでも何度かお話してる、
イタリアの島、ベネチアの話。
2013年2月。
島全域を襲う水害は今よりずっとマシで、それ以外は何もかも、今と変わっていないであろう冬のベネチア。運よく訪れて確信したのだけれど、ベネチアには『夢を見続けるパワー』がある。ディズニーランドよりも年季の入ったやつがある。そしてベネチアの住民はみんな、そのことを誇りに思っている。
ベネチアは『人々が作りあげた夢の中で時間が止まった島』なのだ。
商人の国として栄え、軍事国としても栄華を誇った「ベネチア共和国」の雰囲気は今も色あせず島中に漂う。イタリアに占領されて以降もバカンスの名所だったベネチアには、ヘミングウェイをはじめ、歴史的な偉人が数多く訪れた。車道はなく交通は船やボートのみ、歩いても一周できてしまうような小さな島にはベネチアにしかない優美さや重厚感があふれている。
ベネチアに行った知人の中には「古くて衛生的じゃない」「イタリアなのにオシャレじゃなくてつまらない」なんて言う人もいる。そういう人は、ミラノやナポリにいけばいい。
確かに町中に湿った水のにおいが漂って、運河の水だってとてもキレイじゃない。家々やホテルはどれも古く、最新設備なんてどこにもない。「エアコンは?」と聞いたら「あるわけないでしょ」と笑われる。数か月前のカーニバルのカラフルな紙吹雪がいつまでも路傍にたまっているし、ブランドの路面店街だってそんなにない。
だけど舟で歌うことを生業に、ボーダーの服を着たゴンドリエールがいたるところにいる。朝は船の汽笛で目を覚ますし、夜は酒場から歌声がやまない。町中の窓はすべてベネチアらしい金縁の淡いガラス窓で、自動車に轢かれる心配のない犬たちはみんなリードなしで散歩してる。船乗りと靴やガラスの職人、芸術家ばかりの島。
日本のニュースでも報道されるほどの、史上最悪の高潮による浸水。
これから先、水面上昇でどんどんひどくなるらしい。
決して終わらなかったベネチア共和国の夢が、そろそろ終わろうとしているのかもしれない。それは自然淘汰のように思え、たぶん、消えていくのが正しい終わり方なのだ。
「毎年5月に、「海との結婚」と呼ばれる祭りが開かれる。この海に町を築いた人々が、海と運命を共にすることを誓い、その証に海へ黄金の指輪を落とし、盛大に祝う。」(『ベネチア』wikipediaより)
海のパートナーであるベネチアの人々は、高潮にも嘆くことなくむしろ諦めて楽しんでいるようにも思う。昔から水没が心配されてきた町だから当然なのかもしれないけど、その姿に私は感動してしまう。
いつか、あの街並みが、サンマルコ大聖堂が、すべてのベネチア建築が、沈む日が来る。
そしたら名物のイカ墨パスタも、世界最古のカフェ・フローリアンの甘くない生クリームがこんもりのったチョコラータも、ゴンドラの唄も、「ベネチア共和国」も、愛する海のなかに消えていく。
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