仏を、滅せ。
※『鬼滅の刃』にて162話(童磨編)を見ていない方はネタバレを含みますのでご注意ください。
最近話題の漫画、『鬼滅の刃』は色々と日本中世史、美術中世史を踏まえていると思われる部分が多くある。つくづく漫画家さんは背景を理解した上で描いているんだな、と感心する。
今回は『鬼滅の刃』162話に出てくる上弦の弐『童磨(どうま)』と言う鬼について、その背景を日本中世史、日本美術史に求めていく。
絵:弟作(自分で描くのもあれなので弟に描いてもらった。)
童磨はナンバー2の鬼であり、人間社会では「万世極楽教」と言う新興宗教の教祖として生きている。
162話では瀕死に追いやられた童磨が「霧氷・睡蓮菩薩」という技を使って「睡蓮菩薩」を召喚する。なお、睡蓮菩薩は実在はしない。
出典:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第162話
「睡蓮菩薩」は合掌をしている。密教では合掌は、左手を仏の世界、右手を人間の世界を表しており、それを合わせることによって、仏と人間が一緒になることを表している。その「睡蓮菩薩」と鬼殺隊が戦闘している。
本来、救ってくれる存在の「菩薩」と戦うのは不可解であるが、実際に会津地方の怪談奇話をまとめた『老媼茶話(ろうおうさわ)』にも似た話がある。それを図示したのが下の浮世絵である。
月岡芳年の浮世絵『新形三十六怪撰 蒲生貞秀臣土岐元貞甲州猪鼻山魔王投倒図』である。
このシーンは土岐元貞が仁王像を相撲で投げ飛ばし、その後ろで大頭魔王の勧めで”人を食うようになった阿弥陀仏”が覗いている場面。阿弥陀仏が妖怪である証拠として、周りに骸骨がウヨウヨしている。
仁王像を投げ飛ばした後、元貞は
「佛は人を助(たすく)るこそ道成るに、却(かへつ)て人を喰(くら)はんと云(いふ)は何事ぞ。」(仏は人を助けるものであるのに、かえって人を食うとはなんと言うことだ。)
と怒り、拳で阿弥陀仏の胸板を殴り、刀の柄で体を砕いた。
そして、その砕いた破片は数百万の蝶となった。
ここで、『鬼滅の刃』を読んでいる人は気づくと思うが、この童磨を死に追い込んだ鬼殺隊の「胡蝶しのぶ」は”蟲柱”の二つ名をもち、「蝶」をモチーフとした人物である。髪に蝶の髪飾りをつけている。
出典:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第143話
今回は童磨を取り上げたが、『鬼滅の刃』では他にも様々な部分で日本中世史、中世美術史を背景としていると思われる場面が多くある。
美術史を楽しく学ぶにはこのような漫画を切り口とするのはいいかもしれない。
それでは、次の紀行で!