犬よ9
昨日noteに投稿してから数時間後、母からLINEが入った。けいれん発作が起きたと。イッヌキトクスグカヘレの一報であった。パジャマを脱ぎ捨てメディキュットを脱ぎ捨て終電に飛び乗った。このときばかりは首都圏で終電が遅くまであること、土曜の夜で酔っ払った陽気な人が多いこと、時間が時間だから乗り合わせが非常に悪いこと、情緒はめちゃくちゃである。
本当は友達と遊びに行く約束をしていた。この子は以前も犬の急変でドタキャンをしているのでちらっと頭をかすめた。約束は夜だし母が仕事に帰って来るのに入れ違いで行けるか。でも楽しめるはずもないのに行っても仕方ないし却って無礼であろうと、夜遅くであったが詫びの電話を入れた。どちらを選んでも後悔するなら命を拾いたい。
アンアンと鳴き遠吠えをしていた。うちの犬はピンポン以外に吠えることのない犬だったので、老いて耳が聞こえなくなってからはピンポンにも吠えなくなったので、犬らしい声を聞くのはこういう時ばっかりだ。お前もやっぱり犬だったの。よく言葉を理解していたし中の人がいるのやもと思わないでもなかった、そうかそうか、お前はやっぱり柴犬だったのだね。聞けば母は動揺して随分お薬を使ってみたのだそうな、規定量オーバーしてないかい。母も私も対人間だけどこういうのを生業としているから、専門職だから多少知識がある。仕事だったらこんなことしない。これ人間にやったら結構重大なインシデントだ。犬はだめだ。人間の祖父母も健在で同居していて、喧喧諤諤ケンカばかりしていてまだ元気だけど、老いてはいるのでこうなったらああしよう、延命は一切せず抑制も鎮静も同意して、家庭内では看れない、施設に入れよう、人間は無理だと冷静に方針を話し合って来た。でも犬だけはだめだ。もはや子供と同じと母は言う。けいれんが起きれば涙が止まらないし、動揺してうろたえて、食べれなくなればチュールをシリンジで注入してやったりする。人間の祖父母は絶対胃瘻はつけない、延命のための点滴もしないって決めているのに。
結局2時過ぎまでかかってやっとこさ犬が寝た。お薬を追加して、もしや後半のこれは夜鳴きか??とチュールをやってとんとんしてやっとこさ寝た。人間の睡眠時間は4時間くらい。
仕事を休めなかった母の代わりに朝一で動物病院に連れて行く。犬はぐっすり寝入ってカートに乗せても座位がとれないからクッションを敷き詰めて最初から寝かせた。いつものごとく動物病院の先生総出でかわいいかわいいしてもらって。
「これはけいれんじゃなくて認知症かも???」
夜中の様子を動画で送ってもらってたのを見せる。先生曰く、意識ありそうだし老犬特有の夜鳴きかも。けいれんって区別が難しいのだけどこれは意思を持って鳴いてるようにも見える。どちらにせよお薬使うのも変わらないしとお薬は増量になった。人間もそうだ、老いた生き物は夜動く。不穏ーー寝てくれーーまだ3時ーー。真っ暗闇の中カーテンを開けたすぐ目の前におばあちゃんが立ってたりするから巡視中何度も叫びそうになるのと一緒。一緒だといいな。けいれんじゃなくて先生の言うとおり夜鳴きだといいな。いや夜は寝てほしいのだが。それでも発作じゃないといいな。
そして人間の方はあなた勝手に立たれて転ばれると一大事だからナースコール押してくれとあれほど。眠れない??寝なくてもいいよ。死ぬまでずっと眠れない訳じゃなし、いつかは眠れる。大体19時から大いびきだったじゃないの。お前は既に眠っている。こう言いたいのをぐっとこらえて横にならせてお布団をかけてあげる。困った時の湯たんぽ。ぬくぬくすると大体の生き物は力が抜けて眠たくなるし。
そしていつもの11時、犬のぐるぐる運動タイムだ。ぱちぱち瞬きして起きた、まどろみしかしそのうち覚醒してくる。足がパタつく。起きれないーーと犬が鳴いた。そうかそうかと起こしてあげて、後ろ足に力が入らず自力で立位を保てない。歩けないーーと犬が鳴いた。腰のあたりを支えてあげて滑り防止のマットの上を歩かせる。よたよたとだいぶおぼつかないが、本犬はこれがしたいらしい。これはけいれんじゃないとわかった。眠くてまともに食べていなかった朝ごはんを少しとおやつを食べて、べちょべちょになった口元を拭いてあげて抱っこしてゆらゆらトントンしておくるみもして寝かしつけた。寝た。これは、これはけいれんではない。
いつもの様子だと次は16時だなぁと思った。