犬よ3
軽くなったねと抱っこする。本来なら冬毛で心なしか膨れている時期なのに小脇に抱えていられた。たわむれに捕まえてオラァと仰向けに寝た腹の上に乗せてみた。眠かったらしくそのまま人間の腹の上でグウグウし始めたので二重に驚く。そんなのしたことなかったじゃん。お前が敷いてるの人間だよ、乗せたのは下敷きになっているこの私だけども。
寒いのかブルブル震えることも増えたので室内でも服を着せられて毛布にくるまれている。小さい頃弟が使っていたトーマスの青がちょっと褪せているケパケパの毛布にケパケパな柴犬が寝ている。瞳の白い濁りがとうとう全面に強く、これは本当に見えてないなとわかった。月に一回犬に会いに実家に帰る。ひと月ひと月、犬は着々と老いていく。
犬のあまり好きではない散歩コースに河川敷があるのだけどこの前は犬をカートに乗せて足を伸ばしたら意外にも楽しそうだった。草むらの匂いが目新しかったのか、鼻先を完全に地面につけてふごふごしている。嫌いじゃなかったかこの道。無理は利かぬと半分以上はカートに乗せるのだけど、このときは頻繁に降りたがった。普段よりたくさん歩いたからか帰宅後恒例のくるくると回転するのは幾分短く早々に就寝した。このまま一晩おとなしく熟眠してくれれば良いのだが夜中に起き出してくるくるしながら水の器をひっくり返して派手な音がした。足が濡れたとクンクン鳴いて文句も言う。自分でやったのだよと母にたしなめられて足を拭いてもらった。くるくる回るからおむつも外れてつけ直してもらって抱え込まれて寝かしつけられた。放っておくといつまでも起きているのでがっつり抑えないと人間も眠れない。
チャッチャッチャッと犬の足音、時折壁にぶつかる音、台所の隙間にはまって抜けられず鳴く声。老いた犬はなかなかに夜も賑やかしい。