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IMJものがたり10〜19(本編)

割引あり

10 右脳系人材と左脳系人材をつなぐ鍵は?

 横尾忠則さんの建築物はデザインはカッコイイけど、使いづらく、住みにくいという話を聞いたことがある。その真偽はともかく、デザインと機能性の両立、アートとテクノロジーの融合はウェブサイトにおいてもとても重要な課題だ。
 ヒューマンインターフェイスは人の気持ちを動かすには欠かせない一方で、ユーザビリティが悪かったり、それを支えるシステムが追い付いてなければ0.3秒で離脱される。

 フロントエンドのインターフェイスを司るのがウェブデザイナー、バックエンドのシステムを司るのがシステムエンジニア。この2つの職種、ざくっと言ってしまうと右脳系と左脳系。課題に対する捉え方や解決のためのアプローチも真逆。どちらが正しいとかではないが、折り合いがつかないことが多いのだ。
ネット系企業でなくとも、営業部門と技術部門とか、制作部門と販売部門とか異なる部署で利害が対立することは多々あるが、部門間対立以上に、そもそもの思考パターンが違うので仲があまりよろしくない(笑)。

 さて、2009年のIMJ。クリエイティブを統括していた役員は梶野さん。この梶野さんに学んだことは「クエリエイティブを論理的にも語れる」ところ。
我々一般人は「カッコイイ」とか「クール」とか「なんか好き」とか感じるが、どうしてそう感じるのか、どういう要素・仕掛けが心を動かしているのか、まではわからない。梶野さんは、その背景やロジックをわかりやすく説明してくれるので、顧客に対しての説得力がまるで違う。「グランメゾン東京」のように料理やワインのウンチクをソムリエが語ってくれると、その美味しさやありがたみが倍増するのと同じと言える。
 「どうしてIMJが構築したモスバーガーサイトのハンバーガーが同業他社から話題になるほど、美味しそうに見えるのか? それは、出来上がったハンバーガーを撮影したのではなく、バンズ、ハンバーグ、レタス、玉ねぎなどを別々に撮影し、シズル感が出るように陰影を付けながら合成したからです」
 この手間ヒマかけた制作に、関わった人の汗と物語を感じるわけである。
 後に作ったIMJのクレドに「同業他社を唸らせるハイクオリティの実現」と私が綴ったのは、このモスバーガー秘話がもととなっている。

 もう1人、システム部門の統括役員が自衛隊出身の逸見さん。
 自衛隊出身だけあって守りは強固、バックエンドを任せるにふさわしい(笑)。
 社長になりたての私との面談では、
「樫野さんも僕らを見てると思うけど、僕らも樫野さんを見てますから」
と宣戦布告とも言える言葉をもらった。5歳の子ども(創業5年)の父親(社長)になったばかりの私が、父としてふさわしい男か、きちんと家族を引っ張っていくことができるかどうかをチェックするという。社長に向かってそんな率直な物言いはなかなか出来るものではなく、逆に私は逸見さんを信用できる人だと感じた。逸見さんが私を名実共にIMJの社長として認めてくれるようになれば、IMJは本当の意味で一つになると思ったのだ。

 そんな個性的な役員に囲まれて幸せな環境ではあるのだが、だからと言ってスムーズに物事が進むわけではない(笑)。いつも喧々諤々の議論になる。正解が見えない、わからない新しいネットビジネスで、みんなが100%確実な意思決定は少なく、最後は社長の私が決めなければならない。その時に大切なのは、私の決断を信じてもらえるか、自分の意見と違う方針になっても、決まったあとはチームとして決まった方向に全力をあげて頑張れるかだ。
 そこは人間、感情が左右する。タイプが違っても、お互いにリスペクトする気持ちがあり、好感を持っていれば、「しゃーない。あいつが言うから協力しよか」「多少納得いかない部分はあるけど、チームのためにグッと飲み込むか」のような友情と信頼のベースが組織に必要だ。
 このように、異なるタイプの職種のコラボレーションの鍵は、とてもアナログで昔ながらの「友情」だと私は考えていた。プロフェッショナルの集まりによるドライな人間関係で、離職率3割という同業他社を横目に、IMJは「ウェットで、結びつきの強い家族的な会社」を目指していく。そして、それを実現するために「おもろいこと」をたくさん組織に埋め込んでいくことになる。
 

11 ムードメーカーは誰だ?

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