バレエ感想②新国立劇場バレエ「ニューイヤーバレエ」2023
A Million Kisses to My Skin
2023年のミリオンキスは米沢唯さんと直塚美穂さんのダブルキャストで、私が見に行ったのは直塚美穂さんが主演した回です。
とにかく直塚美穂さんが、出てきた時から凄かったです。音楽のテンポがかなり遅く、最初は「このテンポで眠らずに30分過ごせるかなぁ」なんて思っていましたが、直塚さんが出てきた瞬間、空気を切り裂くような緊張感とエネルギーが客席に伝わってきて、あっという間に引き込まれてしまいました。直塚さんが発するエネルギーがとにかく強大で、鳥肌が立ちました。
技術的にも、アラベスクやアラセゴンがザハーロワのようにまっすぐに伸びていて、柔軟性も周りのダンサーの数倍あり、直塚さんだけ異次元の美しさでした。ザハーロワとクリサノワとステパノワのいいとこ取りをした感じですごかった。技術だけでなく、周りに合わせる優れたパートナーシップや柔らかいポールドブラなども感じられ、すごいダンサーが新国立バレエにやってきたと改めて思いました。
まさに「初演のために新国立が海外からゲストダンサーを呼んできました!」って言ってもおかしくないレベルで、1人だけ完成度が違いました。技術、オーラがとにかく凄かったです。発せられるエネルギーが凄まじく、180センチくらい身長ありそう、と思いながら見てましたが、最後のカーテンコールで並んだらみんなとそんなに変わっていなかったことにビックリです。あの小柄な体躯から凄まじい技とエネルギー。直塚さんだけでなく、パートナーの奥村康祐さんも非常に柔軟性が高く、パドドゥでは身体能力の高さを見せつけられました。この舞台は一生忘れないと思います。
ちなみにミリオンキスはDavid Dawson振付で、衣装はナタリー・ポートマンのBlack Swanの衣装もデザインした、竹島由美子さんです。そしてYumikoレオタードのページを見ていたら、ミリオンキスにインスパイアされたレオタードが販売されてるではないか!!!!! これは!!!!憧れのバレリーナとお揃いの衣装が着れるではないか!!!!!(嬉し過ぎてレッスン集中できなくなりそうだけど😂) YumikoのLarissaレオタードを着てもっと頑張ろうかな💛
ナグディ、ボールの「眠れる森の美女」
ヤスミン・ナグディはキラッキラのお姫様。マシュー・ボールは立っているだけで王子様のようなスタイルと雰囲気はさすがでしたが、長旅のせいか非常にお疲れ気味の王子様という感じでした。踊りに関しても、ヤスミンは強靭なテクニックの中にもお姫様オーラが出ていて、喜びいっぱいでしたが、マシューはとにかく疲労が顔に滲み出ており、怪我しないように抑えているような印象を受けました。
まぁ100年のたっぷり睡眠から目覚めた元気いっぱいのお姫様と、お姫様を探して旅をしてきた王子様、という意味では現実的な演出だったかも。
コジョカル、トルーシュの「ドン・ファン」
アリーナ・コジョカルは重力を感じさせない軽やかさ、アレクサンドル・トルーシュは何かに取り憑かれたような演技が凄く、このカップルも観客に発せられるエネルギーが凄まじかったです。「ドン・ファン」はノイマイヤー振付で、昔ヌレエフが踊ったものみたいです。
ただ、正直カップルは素晴らしいのですが、このパドドゥはちょっと長すぎるかも。
Symphony in C
マリインスキーやオペラ座のSymphony in Cが大好きで、何度もYoutubeで見ていたバレエです。幕が開いた瞬間、体格の差にガックリ。西洋人と東洋人の体格差は仕方がないとはいえ、やっぱりロシアやフランスのバレエ団の美しさはコールドの存在が大きいなと改めて実感。
個人的に印象に残ったのは、中島駿野さん、中家正博さん、そして直塚美穂さん。
中島駿野さんは第一楽章のドゥミ・ソリストとして踊ってましたが、めっちゃ背が高くて、スタイル抜群で、1人だけいい意味で浮いてました。コッペリウスやマッドハッターなど、キャラクテールのイメージが強かったのですが、周りと並ぶと1人だけ王子感がすごい。ジャンドブリエンヌとか、とにかく王子な役柄が凄く似合いそうと思いながら見てました。
中家正博さんは第四楽章のファーストソリストでした。この方、1人だけジャンプが絶対にへっぴり腰にならず、とにかく安定感がすごかったです。最近は見ていてハラハラするダンサーが多い中、安心して見れる貴重なダンサーです。バランシンの振付が凄く似合うし、パートナーシップも優れていて、もっと色々見て見たいです。5番もきちんと入っていて、綺麗でした。
直塚さんについては、見れば見るほど「なんでこの人がコールド!?運営の頭おかしいんじゃないの?」という感じ。ミリオンキスの疲れも感じさせない、溌剌とした俊敏な動きを見せてくれ、それでいて、上体やポールドブラも綺麗で、これぞバレエという感じでした。コールドの中にいても、美しい人はやはり人目を惹きます。新国立のメンバーが直塚さんにいい影響を受けて、もっとレベルアップしてくれるといいなぁと思います。
結論:観客は美しいダンサーを安心して見たいんだ!
私が行った回はトラブルなく終わりましたが、他の回では怪我人が出たり、途中退場するダンサーがいたみたいです。最近はリアルでも動画でも、見ていてハラハラするダンサーが多く、それってどうなの?と思います。チケット代は決して安くないですし、技術的に安定しないダンサーをわざわざ見たいとは思いません。
私たちは高いチケット代を払って、バレエダンサーの美しさと非日常の空気を堪能したいのです。ハラハラした瞬間、それは非日常ではなく、ただの現実になります。なんで観客が、わざわざ高いお金を出して、不安定なダンサーの心配をしなきゃいけないのでしょうか。
海外のバレエ団を見慣れている身としては、「日本のバレエ団ってこんなもんだよなぁ。新国立だしまぁこんなもんか」みたいな感じで半ば諦めていましたが、直塚さんを見ていると「日本人だって世界レベルに踊れる」ということを彼女が証明してくれた気がします。美しさも、安定感も素晴らしい。これこそが、高いチケット代を払って見に行く価値があると思うし、日本人バレリーナの真髄だと思います。