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バレエ本感想「舞台医学入門」武藤芳照、山下敏彦、田中康仁、山本謙吾
振興医学出版社による「舞台医学入門」を読みました。綺麗なバレリーナのシルエットに釣られ、バレエの怪我やリハビリ等について沢山書いてあるのかなと思い購入しましたが、バレエだけでなく楽器演奏者や声楽家など様々なジャンルの舞台芸術でよく起こる怪我や手術などについて解説されている内容でした。
執筆者はカバーに名前のある4先生のみかと思っていたのですが、ページを読み進めるにつれ、もっと沢山のお医者様達が執筆されていて驚きました。舞台芸術における様々な症例を見てこられた医療の専門家達による知識が集結した一冊となっています。
よくある素人向けのなんちゃってリハビリ本ではなく、白黒とは言え患部の手術写真等も随所に掲載されている医療の専門家向けの学術書です。
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アキレス腱症のページにて
専門用語や医学的知識が無いと読み進めるのが難しいということもあり、私はバレエっぽい部分にのみフォーカスして読み進めました。
医療のど素人の私には正直結構難解なのですが、アキレス腱症の欄に「バレエで求められる可動域」という説明でバレリーナの足の写真があったのですが、昔見たザハーロワの写真によく似てるなと思ったらやっぱりそうで、一気に懐かしい気持ちに!
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このザハーロワの写真が大好き過ぎて、昔PCのトップ画にしてたんですよ。まさかこんなところで久々に見れるとは💕
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ちなみにバレエダンサーは全員おそろしく柔軟な体を持っていますが、彼女レベルの可動域持つのは何百万人もいるバレエダンサーの中できっと10人もいないぞ…と素人ながらに勝手にツッコミを入れつつ読み進めました。
足底腱膜炎について
足底腱膜炎(そくていけんまくえん)という症例は、おそらく私たち一般人にはほぼ馴染みがないと思いますが、こちらの本に症例が載っているので、バレエ界では結構一般的なのかと思います。
ちなみになぜこの症状に私が反応したかというと、私が楽しみにチケットを買っていた牧阿佐美バレヱ団「白鳥の湖」にゲスト出演予定だったワディム・ムンタギロフは"plantar fascia"の手術を理由に怪我降板しました。馴染みのない言葉でしたが、"plantar fascia"日本語に翻訳すると「足底腱膜」とのことで、あのムンタギロフの症例と同じか!?と興味を持ったわけです。
なおムンタギロフの症状について細かいことは把握出来ていませんが、ジャンプ等の繰り返しにより圧迫力が積み重なり、足底腱膜に炎症を起こして痛みが生じるそうで、こちらの本によると80%は保存療法で治癒するとあるので、手術となったムンタギロフは相当の重症なのだろうなと思いました。
I will take some time off to heal my plantar fascia.
https://www.instagram.com/vadimmuntagirovofficial/p/C_Z9e-zMnD8/?img_index=1
その他紹介されていた主な足の怪我について
著作権もありますのでここで詳細を紹介するのは控えますが、「ダンスにおける足、足関節障害のメカニズム、診断、治療とリハビリテーション」の欄ではこれらについて紹介されていました。
長母趾屈筋腱障(ちょうぼしくっきんけんしょうがい)
後腓骨筋腱障害(こうけいこつきんけんしょうがい)
疲労骨折
外反母趾
足関節前方インピンジメント症候群
足関節後方インピンジメント症候群
疲労骨折や外反母趾については私のように医療のど素人でもなんとなく想像が付きますが、その他については専門家ならではの解説でとても勉強になりました。
ちなみにバレエダンサーの疲労骨折では足の中足骨の疲労骨折が非常に多いそうで、骨の名前等に全然詳しくない私でさえ「中足骨」ってバレエの怪我降板でよく聞く気がします。
上野水香さんだけでなく、確かオリガ・スミルノワとかも中足骨を骨折して怪我降板したことがあった気がします。ちなみにこちらで水香さんが骨折された「第五中足骨」は、本書によると"骨癒着が得られにくく手術が選択肢となる"と記載されており、みなさま本当に大変な思いをされていたんだなと…🥲
膝関節外傷や障害について
片足で踏み切り着地するジャンプやターンアウトが多いバレエダンサーは常に膝の怪我と隣り合わせの職業です。
私がパッと思いつく限りだとロイヤル・バレエ団プリンシパルのスティーブン・マックレーはACL KNEE RECONSTRUCTION(前十字靭帯再建手術(ACLR:Anterior Cruciate Ligament Reconstruction))、東京バレエ団セカンド・ソリストの南江祐生さんは右膝半月板断裂の手術をされたことがあるなど、ダンサーの膝の手術の話は本当によく聞きます。
この本では膝前十字靭帯(ACL)再建についても症例が紹介されていたのですが、一般のACL再建手術の場合、どの部分の腱を手術に使うか選択肢があるが、クラシックバレエダンサーには動きを妨げないようとある部分の腱が再建に使われるというお話など興味深く読みました。ACL再建手術をしたスティーブン・マックレーもこの方法を使った可能性もありますね。
ちなみにこの章では股関節伸展位の重要性を示す写真にバレリーナの写真が使われているのですが、このポアントや足の形はニーナ・アナニアシヴィリっぽいと思ったら本当にニーナでした。バレエオタクなのでバレリーナの写真に反応してばかりです😂
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最後に
「舞台医学入門」は専門書でありつつも、バレエダンサーによくある怪我の症例や治療法について解説されており、少なくともバレエと関わる人が読めばかなり役に立つ本かと思います。ムンタギロフ、マックレーの怪我のように素人にはよく分からない怪我だと思っても、バレエダンサーによくある怪我というものは確実にあり、それらについて初歩的な部分は結構解説されています。
最初は骨や筋肉の名前が分からないために漢字が読めず苦戦しましたが、調べてみると知っているダンサーが何かしら手術をしていたりなど、改めてバレエ界の怪我の多さを感じました。
個人的に思ったのは日本でバレエダンサーが怪我降板すると怪我の名前は基本的には秘密ですが、ムンタギロフやマックレーのように積極的に怪我の部位や名前を発信して欲しいなと。バレエダンサーにとって怪我は辛いと思いますが、沢山のダンサーが症状をはっきり発信していくことによって症例の記録が増えたり、治療法などが広く知られるようになり、舞台医学や治療法がもっと発達していくのではと思いました。
またバレエの怪我だけでなく例えばルチアーノ・パヴァロッティのクーリング法や、マリア・カラスのダイエットなど体型変化についても説明されているなど、舞台芸術に馴染みのある方は読んでみると楽しいかもしれません。