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バレエ感想「Amomentof」Noism Company Niigata 20周年記念公演


Noism Company Niigata 20周年記念公演「Amomentof」を見に行きました。金森穣さんやNoismについては以前からよく話題になっていたので、今回ようやくNoismの舞台を見れることを楽しみにしていました。
今回の公演にあたり、金森穣さんがNoismを創設した経緯や今までの苦労などをこちらの朝日新聞のインタビューで語られています。必見です。

Noismについて

Noismは新潟市民芸術文化会館を拠点に活動する、日本初の公共劇場専属舞踊団です。パブリックな劇場が専属の舞踊団を持つのは海外では当たり前ですが、日本では一般的ではなく、Noismはかなり時代の先を突き進んでいるカンパニーです。

令和3年紫綬褒章やブノワ賞(バレエ界のアカデミー賞と言われる賞)ノミネートなど各界で華々しい経歴を持つ金森穣さんが芸術監督を務められており、ダンサーにはモーリス・ベジャールに師事しNDTでも活躍した井関佐和子さんや、スロバキア国立バレエ団でソリストとして活躍していた庄島すみれ/庄島さくら姉妹などが在籍しています。

『Amomentof』

今回の公演はNoism20周年記念公演ということもあり、特に「Amomentof」は20周年の思い出や感謝が詰め込まれた作品だと感じました。プログラムによると「Amomentof」は「A moment of」から作られた言葉であり、Noism20年の闘いが「一瞬」であったということ、そして舞踊は「一瞬」への献身であるという金森さんの舞踊感に由来します。

この「一瞬」の表し方が非常に面白く、最初はダンサーたちが無音の中でバーについてウォームアップをするシーンから始まるのですが、そこで井関佐和子さんが腕を伸ばしてアロンジェというポーズを取った瞬間に音楽が始まります。
20周年へのオマージュということで、今まででのNoismで上演された作品の衣装を来たダンサーたちが一斉に登場したり、今までの公演のポスターが背景に映し出されるシーンもありました。私は今回がNoism初鑑賞なので分かりませんでしたが、おそらく振付も今までの作品を踏襲したものなのでしょう。
そして場面が再び最初のウォームアップのシーンに戻り、そこで井関佐和子さんが再び同じポーズを取って終わりとなります。ちょっとしたポーズを取る「一瞬」にこれだけの歴史と熱意が込められていると、初めて見る観客にも良く伝わる分かりやすい振付だと思いました。

正直にいうと作品自体は綺麗で良かったのですが、私は今回が初めてのNoism鑑賞ということもあり、20周年の感動に感極まって盛り上がる会場の空気には付いていけなかったのが本音です。というか、やっぱり分からないんですよね。最終学年に転校してきたから周りにうまく馴染めなかった小学生が、20年後の同窓会に行ってもなんだか馴染めない寂しさを感じるかのような、疎外感があったのも事実です。
ですが、ダンサー達が一丸となって作り上げる舞台は感動的でしたし、Noismの今後の更なる発展を心から願いました。

『セレネ、あるいは黄昏の歌』

「セレネ、あるいは黄昏の歌」は、セレネというギリシャ神話における月の女神の名称が元になっており、月の物理的影響力に金森さんが惹かれたことにより制作された作品です。マックス・リヒターの「四季」と共にオールホワイトの衣装を身につけたダンサー達が激しく踊る様子は見応えがあります。また舞台を円筒形に見せる背景のセットも「四季」の季節が移り変わるごとに色や高さが変わり、最後のシーンではロウソクが沢山灯された中にダンサー達が消えていきます。

この作品は「月」がテーマになっていることもあり、パンフレットを見ると「月の引力」という「目に見えない力」の影響を表現しようとしていることが分かります。

私たちは意識、感覚、気配という「目には見えない力」によるコミュニケーションを他者と交わし、集中力、想像力、判断力といった「目には見えない力」によって自らの人生を切り開いていく。そしてそれらも、月の引力(目には見えない力)の影響を受けていると言われる。

公式パンフレット「目には見えない力」より引用

実際の作品でも登場人物達はただ踊るだけでなく、狂ってしまった様子を表したり、何かに惹きつけられるように踊りまくる様子もあり、現代社会でメンタルを崩しておかしくなってしまう私たち人間を模しているようでした。

7/26公演を見て印象に残ったこと

色々なインタビューを読んだり、今回の舞台を見て、金森穣さんは理念や哲学をしっかり持った方だなと感じました。日本にヨーロッパのように公的補助がきちんと入った劇場文化を確立させたいだけでなく、「セレネ、あるいは黄昏の歌」のように目に見えない精神性を表現されようとしたり、ご自身の理念や哲学に沿って活動されていると感じました。
自らのバレエ団を率いるというと熊川哲也さんが思い浮かぶ人も多いかと思いますが、金森さんは熊川さんとはまた違ったタイプの天才だと思います。私はKバレエの舞台も見ますが、Kバレエはゴージャスな異空間に観客を連れていくような感じで、いわゆる「非日常」の体験がコンセプトかと思います。
Noismは私たちの「日常」、そしてそれを形成してきた「歴史」や「内面」に深く切り込んでくるような作品で自分自身を見つめ直すような機会を与えてくれると思いました。熊川氏は商業的ですが、金森氏は哲学的だと感じ、タイプの違う2人の天才がどう日本バレエ界を今後変えていってくれるのか非常に楽しみです。

金森さんの作品を見てとても興味深いと思ったのが井関佐和子さんの存在です。
今回「Amomentof」と「セレネ、あるいは黄昏の歌」の2作品を見て、井関佐和子さんこそが金森さんのインスピレーションであり、金森さんの思いを体現される方だと感じました。私はNoismの舞台を見たことがなかったので、最初は「2つとも井関さんが主役なんだ」くらいにしか思ってませんでしたが、舞台を見て納得しました。井関さんはまず体型からして周りと全然違います。誰よりも鋭く空間を切り裂くシャープさを持ち、誰よりも体を鍛えて金森さんの振付を体現するための努力を続けているダンサーだと思いました。もちろん周りのダンサーもレベルは高いのですが、井関さんの領域にはまだ及べていないのが現実だと思いました。
金森作品には井関さんの存在が不可欠であり、金森さんの才能とインスピレーションとなる井関さんの存在があるからこそNoismはここまで長く活動を続けてこられたんだろうなと思います。

Noismは公共劇場に所属する団体なので、予算など運営面の窮地はこれまでもあり、今後もお役所とぶつかることはあるでしょう。でも運営面でなく、Noismという団体としての危機が今後訪れるとしたら、それは井関さんがダンサーを引退する時ではないかと思いました。もちろん井関さんは引退されても金森さんと活動を共にされると思いますが、金森さんという天才の「目に見えない」言語を井関さんほど鮮明に表せるダンサーは現時点で他にはいないと思います。

Noismが今後発展していくためには、運営面での充実、そして井関さんに並ぶことが出来るようなダンサーの育成が必要でしょう。Noismには優秀なダンサーが集まっていますが、クラシックバレエ出身の優秀なダンサーはどうしても東京の大手バレエ団に行ってしまうと思います。NDTのようにNoismが日本国内のダンサー達をもっと集められるようになるためにも、公的支援をもっと充実させ、給与面などダンサー達の待遇を東京以上に良くしていくことは急務ではないでしょうか。
お役所の方には「バレエなんて金がかかるばかりで儲からん!」と思う方も多いでしょう。しかしオランダのNDT(ネザーランドダンスシアター)などは現在世界中から人が集まる大人気カンパニーとなっており、オランダの先進的なイメージを発信しています。NoismにはNDTのように世界的に人気で、新潟や日本の格好良さを全世界にアピールしていくポテンシャルがあります。そのためにもぜひ公的補助を充実させ、Noismがもっと大きく活動できるように力を入れてサポートして欲しいと思いました。

印象に残ったダンサーについて

金森穣さんや井関佐和子さんを見れたことは嬉しかったのですが、個人的にはスロバキア時代からちあこチャンネルでよく見ていた「すーさん、さーさん」こと庄島すみれ/さくら姉妹をついに見ることができたのがとても嬉しかったです!
ちなみに見分け方は簡単で、現時点で前髪が無い方がすみれさんで、前髪ありがさくらさんです。衣装で言えば「Amomentof」でバーの下手側でカーキのレオタードを着ていたのがすみれさん、真ん中寄りでネイビーのレオタードを着ていたのがさくらさんです。「セレネ、あるいは黄昏の歌」では白い毛の長いホケホケした衣装を着ているのがすみれさん(途中でスポブラみたいな衣装に変わります) 、ルーズソックスみたいなのを履いているのがさくらさんです。前髪で判断したので間違っていたら申し訳ないですが、手足が長くて舞台映えして素敵でした💕

しかし双子のバレエダンサーっているようで、あまりいないですよね。有名どころだとハンブルクバレエのイリ/オットー・ブベニチェクくらい…。いつかこの2人をバーンと押し出した作品が出来たらめっちゃ面白そうだなと思いました。いやぁ、それにしてもこのビデオは何回も見てたし、あのすーさん、さーさんをまさか日本で観れて嬉しかったです。

あともう1人印象に残ったダンサーがいて、糸川祐希さんです。糸川さんは「セレネ、あるいは黄昏の歌」で男性陣が3人で踊る際にセンターで踊られていたのですが、目を引き寄せられる魅力がありました。白い衣装を着ていたということもあってか、マシュー・ボーンの「ロミオ+ジュリエット」を思い出しました。今後また見れるのが楽しみです。

おわりに

Noismの舞台は工夫に溢れていて面白かったので、ぜひ近いうちにまた見に行きたいです!
そして個人的に思ったのですが、新潟で一からカンパニーを創出し、役所との折衝も20年こなしてきた金森さんにはぜひいつか新国立劇場バレエ団などの芸術監督になって頂きたいと感じました。間違いなく大活躍していただけるだろうし、この20年の実績を見て彼こそが日本を代表する大バレエの監督に相応しいのではないかと思いました。もちろんNoismも素晴らしいですが、ぜひいつか東京にも来てバレエ界を変えていって欲しいです。

そういえば私は今回までNoismの舞台を見たことがなかったのですが、井関佐和子さんのお名前は知っていました。どこで聞いたか思い出せなかったのですが、このインタビューです!
井関さんが酒井はなさんとトゥシューズやソックスについて語っており、久々に読んだところなんとNoismのソックスはイッセイミヤケの特注だそうです。実は客席にはイッセイミヤケの服をお召しになった方も多く「素敵だな」と思っていましたが、もしかしてNoismにはイッセイファンが多いのかなと思いました。しかし特注ソックス気になります。一般発売してくれないかな…。

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