バレエ感想「マーメイド」K-BALLET TOKYO(2024/09/23マチネ)
9月8日に引き続き、再びK -BALLET TOKYOの「マーメイド」を見てきました。別キャストで2回目を見て、この作品やKバレエのダンサーに対する印象が大分変わったので、忘れないうちに書いておこうと思います。
今回のマーメイドはKバレエで躍進中の岩井優花さんでした。バレエチャンネルのインタビューで熊川哲也監督がイメージする動きを岩井さんの身体で試していたという話を読み、彼女はファースト・キャストでは無かったけれどある意味オリジナルキャストだったのではないかと考え、とても楽しみにしていました。
岩井さんのマーメイドは初々しくて溌剌としていて、とても可愛らしかったです。王子は栗山廉さんで、高身長でハンサムで立っているだけで王子様という感じでした。シャークの田中大智さんもかなり頑張っているなという印象でした。
他にもロブスターの吉田周平さんはカーテンコールまで役になりきっており、スリの少年の本田祥平さんや、娼婦役の大久保沙耶さんと布瀬川桃子さんもはっちゃけていてとても良かったです。あと話題の井上慈英さんも2幕のコールドで出ており、美人の布瀬川さんとのコンビは見目麗しくて素敵でした。
ただし、正直にいうと全体的に初日キャストとの差は歴然としていたと感じました。
理由はいくつかあるのですが、1番はシャークです。
Kバレエ「マーメイド」のオリジナルキャストであるシャークはこの物語のキーとなる重要な役柄です。海のシーンではまずシャークが登場して観客を海の世界に引き込み、人魚姫が足を得るシーンもシャークが重要な役割を果たします。
私は初日にプリンシパルの石橋奨也さんが演じるシャークを見て、アンゲリーナ・アトラギッチがデザインした衣装の美しさと、ケープのはためきによって水中を表現する様子に感銘を受け、9/23も再びその感動を味わいたいと心を躍らせて劇場に向かいました。
しかし、残念ながら田中大智さん演じるシャークはケープの取り扱いに非常に苦戦しており、海の中を素早く泳ぎ回るシャークというよりは、布がもつれまくってまるで泥水の中でもがき苦しむシャークのようでした。冷静に考えれば自分の体より大きいケープなので、取り扱いに苦労するのは当たり前で、田中さんは彼なりに頑張っていたと思います。ですが衣装の取り扱いに苦戦するがあまり、石橋さんが表現したシャークの躍動感は全く感じられず、私はシャークを1番楽しみにしていたので本当に残念でした。
また、もう一つ残念だった理由が人魚姫が足を得るシーンです。このシーンでは人魚姫が足を得る瞬間にシャークがヒレを表した衣装のスカートを剥ぎ取り、人魚姫の足があらわになるという演出なのですが、一瞬でスカートを剥ぎ取って観客を驚かせた石橋さんと比べ、田中さんは「今からスカートを剥ぎ取るから準備しています」という状態が客席から見えてしまい、なんだか現実に戻されてしまって非常に残念でした。
私は初日にシャークが海中を泳いでいる様子や荒々しい様子は、アトラギッチの衣装が素晴らしいから表現できていると思っていました。しかし2キャスト見比べて、シャークにあれほど感動したのはプリンシパルの石橋奨也さんが振付や演出の意図を理解して応え、そして衣装の動かし方にまで多大な工夫をされたからだと気が付きました。
衣装の取り扱いで絶対にケープがこんがらがらないように工夫していただけでなく、演出についても一瞬で衣装を剥ぎ取って観客を驚かせるなど、観客に最高の舞台を見せるようかなり考えられておりプリンシパルとしての格を感じました。
正直バレエダンサーとしては田中さんの方が身長が高いので、本来であれば有利だと思います。
しかし石橋さんは振付と演出の意図を理解して、衣装の扱いまでも非常に工夫されていたと感じましたし、これだけの結果を舞台で出せるのがプリンシパルなんだと感じました。初日にあれだけ感動したのは石橋さんの創意工夫によるものが大きいでしょう。改めて、素晴らしいダンサーだと思いましたし、これからも石橋さんの舞台を見続けたいと思いました。
今回の舞台を見て他のバレエ団と比べて、Kバレエのプリンシパルは結構厳しい基準があるのではないかと感じました。
例えばテクニック面において、初日の飯島望未さんと今回の岩井さんは同格だと思っていましたが、例えばアチチュードターンなどの見せ場では飯島さんの方が巧みにダブルを何度も入れていたり、初日のプリンセス役の日髙世菜さんはかなり早いテンポでトリプルを混ぜたフェッテを披露しましたが、今回の長尾美音さんはダブルを入れているとはいえ日髙さんに比べるとテンポがゆっくりだったり、初日との違いを感じました。
何より王子の踊りは軽やかに全ての技を決めていた初日の山本雅也さんに比べ、今回の栗山廉さんはジャンプの時などに歯を食いしばって険しい顔になっており、改めて熊川さんの振付は難しいんだろうなと感じると同時に、Kバレエのプリンシパルにはテクニックの高さがかなり要求されるのかもしれないと感じました。
岩井さんも、長尾さんも、栗山さんも、田中さんもよく頑張っていたと思います。岩井さんのアチチュードターンは素晴らしかったですし、長尾さんのダブルフェッテも日髙さんのトリプルを見なければスタオベしたと思います。栗山さんのジャンプも力むダンサーはいますし、田中さんは高身長で格好いいです。
しかし圧巻だった初日キャストに比べたら物足りなかったと感じたのが本音ですし、Kバレエのプリンシパルは相当厳しい基準があるのかもしれないと感じたのも本音です。もちろん基準等は私の想像ではありますが、やはりプリンシパル達が勢揃いした初日に比べると少々残念だったかなと感じています。
それにしても今更ですが、改めて石橋奨也さんのシャークは素晴らしかったです。あれだけ振付や演出の意図を理解して、衣装の素晴らしさを期待以上に生かし、観客を圧倒させるダンサーはなかなかいません。
初日にアトラギッチの衣装に夢中になっていて海の中を泳ぐシャークは衣装のおかげで表現できていたと思っていましたが、あれは石橋さんが動かし方や踊り方を工夫したから表現できたものだと今は理解しています。石橋さんの工夫や魅力に気が付かなかった自分を恥じていますし、彼は素晴らしいプリンシパルだと思いました。次はどんな舞台を見せてくれるのか、心から楽しみです。