自分の中にある当事者性とどう向き合うか。早朝6時にもかかわらず信じられないほど美しい女性と、どこの誰だかわからないおじさんとつながった、忘れられない体験の話。
もう1週間前になりますが、イギリス在住のマインドフルネスの先駆者であるヴィディヤマラ・バーチさんをお迎えしたセッションを開催しました。
イベント詳細はこちら。https://note.com/caorina/n/nf022711029fe
ヴィディヤマラさんのことは、ソーシャルリーダー向けにセルフマネジメント研修をしていただいている、ピーターF.ドラッカー大学院の准教授、ジェレミー・ハンターさんより以前からお話をいただいていて。ジェレミーさんは「地球上に、これ以上に尊敬できる人がいるのか」(ご本人談)というほどに、素敵で素晴らしい方だとお聞きしていて。いつか、日本のリーダーの皆さんとお会いすることができたら、と話していたのです。
それが今年、ジェレミーさんの来日にあわせて、ついに実現しました。ヴィディヤマラさんのことは、(おそらく)日本ではほぼ知られていませんが、イギリスではかなり有名な方です。受賞歴のある作家であり、マインドフルネスの講師を600人育成したBreathworksの共同創業者。ヴィディヤマラさんが開発した痛みと病のマネジメントプログラムは、世界中で10万人以上の人々に受け入れられ、英国の保健サービスや、世界の公衆衛生局にも認められていて、英国で最も影響力のある障害者の一人に選出されています。
ヴィディヤマラさん自身は、10代のときに脊髄を損傷され、下半身の麻痺と慢性的に「痛み」を常に抱えながら、これらに取り組まれています。ご自身の療養中に瞑想と出会い、心身の苦痛の緩和に「マインドフルネス」が効果的であることを直感し、活動を始められました。
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セッションは日本時間の午後2時から始まりました。日本のほうが8時間進んでいるので、イギリスは朝6時。Zoomオーナーをしていた私は、ヴィディヤマラさんの入室をドキドキしながら確認。パッとビデオに映し出された彼女の姿が、もう信じられないほど美しくて…。大袈裟かもしれないですが、うっすら後光が差して見えました!(心の中で、「え、そちら朝6時ですよね…?早朝でもそんなばっちりなお顔って、やっぱり有名人はすごいですね…」っておもったよね、さすがに口には出さなかったけど)
ヴィディヤマラさんのさらっとした自己紹介のあと(ご自身のことを多くは語らない、謙虚な姿勢がさらにかっこよかった)ジェレミーさんの進行のもと、いろんなエクササイズがありました。どんな内容か、たぶんここで書いても伝わらないとおもうので、割愛させていただきますが、セッション中わたしが考えていたこと、感じたことを書き残しておこうとおもいます。
そのまえに、このセッションにあたって、自分が抱えてたテーマについて、話しておこうかな。
自分のなかにある当事者性とどう向き合うか
書くのに若干の勇気がいるのですが、わたし自身ちょっとだけ(ほんのちょっとね)、つらい幼少期を送っています。それを引きずってかどうかわからないけど、10代、20代もツイてないというか、まあ苦労が多かったんですね。
今の仕事にたどり着いたのも、その経験があったからこそだとおもっていますし。ギフトだ、とまではおもってないけど、まあその体験の延長にいまの私があるとおもえば、悪くない体験だったのかな、とはおもってます。(もう一度同じ人生を歩くかと聞かれたら、絶対に断るけど!)
いわゆる子どもの貧困とか虐待とかDVとか?、あと、大人になってから気づいた医療的ケア児の課題や、シングルマザーの問題とかも、自分のなかにある”ちょっとした”当事者性も手伝って、より深く興味をもって関わることができるし、本気で解決したいっておもえます。
本を読んだり、具体的なケースを聞くときはつらくないの?って聞かれたこともありますが、メタな視点から自分の体験の「答え合わせ」をしているような感覚なので、むしろちょうどいい。
それに原体験って、やっぱり前に進むエネルギーとしてかなり使えるし、わりと長持ちするガソリンにもなります。
当事者性が、邪魔をする
ただ、さいきん、問題だなとおもっていたのは、自分の原体験が、見る視点や本質をあるがままとらえることに、邪魔をしているんじゃないか、ということ。別に誰かに指摘されたわけでもないのですが、なんかそんな気がして。
頭ではよくないとおもっていても、相手の「痛み」や「つらさ」を勝手に解釈してしまうこと、たまにやってしまってるなとおもうんです。違ったら「ごめんなさい」すればいいことなんだけど、相手との関係性において「それ、違う」って、言いにくい立ち位置にいることもたぶん多くて。
たまに「それは、誰が求めていることなんだっけ?」とおもうことも。相手が求めていること、その人が抱えている「痛み」を、わたしはちゃんと捉えられていたのか。相手の「痛み」を、自分の「痛み」に置き換えていなかったか。自分がやってほしかったことをやることで、自己満足していないか、と。
これを克服(?)するには、自分の体験を「消化」ではなく、完全に「昇華」して、メンタルモデルを書き換えるぐらいのことを、せんとあかんのとちゃうか~とおもっておりました。
で、ヴィディヤマラさんは、どうやって当事者である自分を乗り越えていらっしゃるんだろうか、という疑問をもっていました。
嫌いな人と、ともにいる
セッションの途中で、屋外に出て、外で歩いている人とつながるというワークをやってたとき(注:もうこれ以上の説明はしづらいです;)のこと。
ヴィディヤマラさんから「今いるところから、普段なら避けたくなる、不快な気持ちが湧く人と、つながってみてください」という指令(!)がでました。
わたしは、オフィス裏の公園にいたのですが、別の雑居ビルの裏で、喫煙所でもない場所で、たばこを吸っているおじさんとつながってみました。普段なら、嫌みなぐらい距離をとって、わざとらしくササっと速足で避けているとおもいます。
どのぐらいの時間が経ったのかわかりませんが、わたしは無事おじさんと「ともにいる」ことができ、ワークの最後には、不快な気持ちは驚くほど消えていました。その状態でなら、嫌みな態度で訴えるのではなく、おじさんに共感をしながら、喫煙所の場所を教えることができたかもしれないです。
で、ひと通りのワークが終わって、オフィスに戻ろうと歩いていたときに、ヴィディヤマラさんの痛みに対する向き合い方が、少しだけわかった気がしました。
ほんとうにつらいのはなにか。
ここからは、完全にわたしが感じたことです。ご本人に聞いたわけでも、確かめたわけでもないです。
ヴィディヤマラさんには、常にからだに「痛み」があります。「痛み」ってかなりストレスです。もし私が同じ立場なら、痛みそのものも当然ながら「誰にもわかってもらえないこと」が、本当につらいだろうな、とおもいました。
わたしは「痛くて苦しい」。でも、周りの人はそうではない。
自分だけが、こんなつらい思いをしていて、誰もそのことを知らない。
みんなは幸せなのに、わたしだけこんな目に遭っているのは理不尽だ。
幼い私は、まさにこう思っていたとおもいます。その後「自分だけが不幸だ」という思い込みは、引きずってしまうわけですが。
先ほどの嫌いなおじさんとつながるワークをしていたときに、自分がついているその足、その地面を通して、おじさんは当然ながら、まわりにいるすべての人とつながっていくような感覚が湧いてきました。すると「自分だけが不幸」という私が、どこかにすぅぅぅぅっと、溶けていったんですよね。ほんの少しの時間でしたが、明晰夢を見ているような不思議な感覚でした。
ともにいること。
痛いこと、つらいこと、嫌なこと、不快なこと、それにたいしてジェレミーさんも以前のセッションで「そのままでいる、友だちといるように」とお話いただきました。
そのことが、ヴィディヤマラさんのワークで、どこの誰だがわからないおじさんとそしてその周りの空気と「つながっている」という感覚を得たときに、どういうわけか「痛みや不快と、ともにいる」ということが、どういうことかカラダでわかった気がしたんです。「他者とつながる」ことをしているのだけど同時に「自分ともつながっていく」そんな不思議な時間でした。
ヴィディヤマラさんは、どうやって乗り越えていらっしゃるんだろうか。という問いは、たぶん「乗り越えている」のではなく「痛みも含めて、自分であり、その自分を含めた周りの人とも、ともにいる」というのが近いんだろうなと感じました。(実際に聞いてみないとわからないですが)
いま、この瞬間にも、どうにもならない肉体的な痛みや、精神的なつらさを抱えている人もいるとおもいます。その状況が、少しでもよくなることを願っているし、そうなることを祈りたいし、回避できるならしてほしいです。
それでも、どうしようもない「つらさ」を抱えている人が目の前にいたら、私はその人とつながりながら「つらさ」と、ともにいることを選んでみたいとおもいました。(さて、ほんとにできるかな?)
約4時間半のセッションはあっという間に終わりました。マインドフルネスを、なかば修行みたいにとらえていたけれど、高い精神性はぜんぜんいらなくて、無理がないトレーニングでした。ヴィディヤマラさんの本がでているので、もう少し深めてみようかな。
<追記> 雑にまとめると、自分の当事者性には「反応」ではなく「対応」するというのが、しっくり。結局、セルフマネジメントに行きついたのでした。
<関連書籍>
『からだの痛みを和らげるマインドフルネス: 充実した生活を取り戻す8週間のプログラム』 https://www.amazon.co.jp/dp/4422116762/
『幸せになりたい女性のためのマインドフルネス: 自分らしく輝く8週間のプログラム』 https://www.amazon.co.jp/dp/B07N84WPW9/
<マインドフルネスはじめの一冊はこちらがおすすめ>
ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室
―― Transform Your Results (著:ジェレミー・ハンター) https://www.amazon.co.jp/dp/483342360X/