228 水戸で常陸の酒蔵を訪ねる旅
前回に引き続き、水戸旅行記。前回は偕楽園を訪ねましたが、今回は地酒を造る酒造会社を見学します。
タクシーに乗って五分ほどで到着したのは吉久保酒造さん。「一品」という地酒を醸造している酒造メーカーです。創業は1790年といいますから230年前。もとは米屋だったのですが、水戸黄門で知られる徳川光圀公が引いたといわれる笠原水源の水を使って酒がつくれないか、と考えた初代吉久保清三郎が酒を醸造したことが始まりです。
今でも吉久保酒造では笠原水源の水を汲んで使っていて、井戸は持っていないそう。市民が使う水でおいしいお酒が造れる、水の美味しい町なのです。
米屋が出自だということもあって、吉久保酒造では社内で精米しています。これまでにいくつかの酒蔵を訪ねたことがありますが、精米所を持っているところは初めて。今でも米にこだわりを持っていることがわかります。
米の削りによってどれだけ味が変わるのかはしっかりデータを取って残しているそう。杜氏の勘ではなく客観的に数値化したうえでよりおいしいお酒を造ることを重視しています。主力商品の「一品」ではあまり米を削りすぎないようにして熟成感が出るように工夫しているそうです。
ところで、水戸といえば「納豆」ですが、酒造りにおいては納豆は天敵。麹菌と納豆菌は生育環境が似ていて納豆菌が混じってしまうと麹に影響をきたしてしまい酒の味が変わってしまうのです。吉久保酒造の杜氏も酒造りの期間中は納豆禁止だそうですが、この会社の裏には思い切り納豆屋さんが…!
それでも影響はないんだそうで、吉久保酒造さんは日本で一番納豆屋に近いところにある酒造メーカーだそうです(自称)。
温度変化を嫌う米麹。倉庫の片隅に保管されていました。食べていいと言われたので数粒いただくとほんのり甘い味わい。日本酒っぽい香りが鼻腔をくすぐりました。こちらの米麹は比較的温度変化に強くて日持ちするんだそうです。
こちらのタンクでアルコール発酵して醪をつくります。中をそっと覗いてみるとぱちぱちと泡を弾けさせている様子がわかります。ああ、酒って生き物なんだなって思いました。ぱちぱちはじけるのは炭酸ガス。ふたが開いていますがふたを閉じてしまうと爆発を起こしてしまいます。このタンクに落ちてしまうと二酸化炭素で窒息してしまうそうです。
「この穴からちょっとにおいをかいでみてください」と言われたのでかいでみます。が、
「けほっ!!」
あがってくる炭酸ガスが鼻にしみます。においなんてわかったもんじゃありませんでした。
一通り見学が終わり、お待ちかねの試飲タイム。
この春の新酒に、無濾過生原酒も純米酒、それに梅酒。梅酒は偕楽園の梅を使い、和三盆で味付けをした上品な甘さ。クセになってしまいそうな味でした。原酒はこの地特産のアンコウなど旨味の多い食品にうまくマッチしていると感じました。
試飲って普通ちいさいおちょこですよね?ここは大ぶりなグラスに結構な量。おかわりもさせていただいて大盤振る舞いです♪
ここ10年足らずの間でチルド輸送が急速に普及して、これまで地産地消が主だった地酒が全国で楽しめるようになったといいます。正直、私の住む東海地方で水戸の酒は馴染みがありませんでしたが、今はもう容易に手に入れることができるようになっているのでしょう。荷物になってしまうため水戸で「一品」を買うことはできませんでしたが、名古屋で買い求めて、工場で堪能したあの味をもう一度味わいたいと思います。