281 日本で唯一!「飛び地の村」へ・和歌山県北山村
わたしは旅行好きですが、大の地図好きでもあります。
地図好きにとって、一番の好物。それは「飛び地」です。
「飛び地」とは一つの行政区画のうち、地理的に離れている区画のこと。上の例では黄色の南陽市の市域の中に赤い高畠町の町域が2か所存在しています。
こちらは千葉県山武市と東金市の飛び地。黄色の東金市の市域に薄緑の山武市の市域が飛び地で点在し、さらにその中に東金市の飛び地が存在するという二重飛び地になっています。山武市の中にも東金市の飛び地があってかなり複雑ですね。
飛び地ができる理由は様々なものがあります。川の流路が変わったため市域が川で分断されてしまったケースや、武家時代に与えられた領地が飛び地であったことに由来するもの、飛び地部分の開墾や干拓などに尽力しお金を費やした自治体がその領域としたため飛び地となったというケースもあります。
ところで、いまご紹介したものはすべて「ある行政区画の一部」が飛び地となっているケースでしたが、日本には唯一「村がまるごと県の飛び地」になっている自治体があるのです。
それがあるのは和歌山県。右真ん中ほどのところに、三重県と奈良県に挟まれた「北山村」という村があるのがわかります。これこそ日本唯一、村丸ごと県の飛び地となっている自治体です。なお、北山村のそばにも飛び地がもう一つありますがこちらは新宮市の飛び地です。
こういう特異な場所があると行ってみたくなるのが地図ヲタ。かねてから行ってみたいと思っていたんですが、ついに今回その機会を得て訪ねてみることにしました。
新宮からのアクセスは熊野川沿いを走る国道168号のみ。かなりの山奥でどんな道かとビビっていましたがきちんと片側1車線の走りやすい道です。
小さめの道の駅「瀞峡街道熊野川」が見えてきました。今日は天候不良で運行されていませんが熊野川の川下りはここにも船着き場があります。
熊野川が眺められる橋を渡ります。熊野川とはここで別れ、ここからは支流の北山川に沿って進みます。
竹筒という集落に入りました。ここは奈良県の最南部にある十津川村に属します。
上の地図の「+」がある場所が竹筒。地図上部が奈良県、左部が和歌山県、右部が三重県。その中に和歌山県の飛び地が入り込んでいて何とも複雑な県境。こういう場所、大好きです。
起伏の激しい道路を抜けるといよいよ和歌山県北山村に入りました。よくある県や村の入り口を示すサインはありませんでした。歓迎看板が北山村に入ったことを教えてくれます。そして同時に道路が本格的な山道に入りました。
新宮の市街地から車で1時間、北山村の中心部、「道の駅おくとろ」に到着しました。お土産物の販売や、温泉施設もある立派な道の駅です。折角なのでひとっ風呂浴びさせていただきましたが露天風呂もあり山に抱かれながら温泉を満喫できて最高です。隣接する施設「山のやど」で宿泊すれば露天風呂につかりながら満天の星空を眺めることができるそうです。
さて、北山村に来ると必ず目にするのが「じゃばら」。じゃばらはこの地域にしか自生していない柚子やカボスなどの仲間の柑橘類で、この果汁を使った様々な商品が作られています。以前和歌山の道の駅でじゃばらジュースを飲んだときは少し苦みを感じたのですが、こちらのじゃばらウォーターは蜂蜜がくわえられていて甘く飲みやすいです。
地図上では全国唯一の飛び地の村なんですが、来てしまえば山の中の普通の村。こういった看板を見ないと飛び地に来た実感がわきません。
せめて県境感を感じようとやってきたのは道の駅から600mほど離れた上瀞橋という橋。
川の真ん中に県境があって、川の向こうは三重県熊野市です。
三重県側に着きました。和歌山県側と何も景色が変わりません。
足元はグレーチング、両脇は欄干があるわけではなく御覧のような状態。この日は風は穏やかでしたが、風の強い日はとても怖いと思います。この道路、1tまでなら車が通れます。軽乗用車くらいなら通れるわけですが…通る度胸ありますか?
日本で唯一、村ごと県の飛び地になっている北山村。行ってしまえば山深い山村の一つといった印象でした。ここが飛び地になったのは、紀伊国が三重県と和歌山県に分割されることになったため。熊野市などが三重県になる中、林業が盛んで川を使って紀伊山地の木を新宮方面に運んでいた北山村は新宮市との結びつきが強く、このことから和歌山県に属することを選びました。県境は繋がっていないように見えますが、川を通じて和歌山県と繋がっているんですね。
北山村の人口は400人ほど。紀伊山地の村はどこも激しい過疎に見舞われていますが北山村も例外ではありません。それでも温泉にじゃばらに、観光需要を掘り起こそうと努力をされていました。熊野古道を訪ねた際には是非こちらも立ち寄っていただき、長閑な山村でデトックスを楽しんでみてください。