クリスマスなんてなければ…

 子供の頃、私の両親は自分たちなりに独自のクリスマスをしてくれていた。サンタ信仰は鼻からなかったものの、両親の都合の良い夕食にケーキを食べ、プレゼントを貰ったりした。ある年には、十二月半ばの祖母の誕生日を合同で催されるという始末で…独身時代も特別なヒトと過ごした記憶もなく…一般的なクリスマスの過ごし方を私は知らない。

 だが、あれは2008年のクリスマス目前の日曜だっただろうか。社会人2年目の私にも恋人のようななヒトができて、クリスマスデートをすることになった。

 しかもコレが4回目のデートというタイミングで。高校生の時、男子寮で回し読みしてたホットドックプレスに、3・4回目のデートでOKな女性が大半というデータが、私の脳裏にはしっかりと焼き付いていた。

 街はきらびやかな飾り付けが施され、例年なら耳障りなマライヤキャリーさも、この年は口ずさむ余裕さえあった。そんなクリスマスムード一色の中、ショッピングをしたりおしゃべりを愉しみ、あっという間に夕方に近づいて行った。

 今頃になってアレなのだが、朝、いや暫く前から私の頭の中はデートどころではなかった。M-1グランプリとトヨタカップがダブル…あと、4回目の勝負のデートがトリプルブッキングしていたのだった。

 私にとってこの2大イベントは特別なモノで、M-1は第一回中川家の優勝からずーっとその年のお笑い日本一を見届けてきたし、トヨタカップ(現在はクラブワールドカップか?)はフットボール祖国ヨーロッパ大陸と南アメリカ大陸のクラブチーム世界一を決める地球上において1年で一番重要なスポーツイベントと言っても差支えはないだろう。

 コレが、ロンリークリスマスポイントが溜まった私へサンタさんからのスペシャルプレゼントか、はたまた運命の悪戯なのか…夕方に差し掛かるまで、M-1かトヨタカップのどちらを録画してどちらをリアルタイムで目の当たりにしようか…そればかり考えていた。

 タイムリミットはM-1開始の6時半。例えば、一緒にお家で夕食をとりながらテレビを観るという選択肢も頭を一瞬よぎったが、彼女から1日この2つに関するキーワードは聞こえてこず、私との温度差は熱湯と零下くらいであることは明白だったし、いちいち素人に説明しながら楽しめる程、残念ながら私は人間ができていない。


 結局、松坂屋のデパ地下でつまみを調達し、地下鉄の入口まで彼女を送って別れた。そしてダッシュで家路を急ぎ、M-1グランプリ1組目に無事間に合った私は、これをビデオ録画し、フットボールのクラブチーム世界一の決まる瞬間に立ち会い、その後追っかけ再生でM-1もしっかりと見届けるという至福のクリスマスを過ごした。


 モテない人生を送ってきた私とは正反対だったであろう彼女が、どういう心境だったのか…このクリスマスがスパイスになったのかは分からないが、このカオスのようなクリスマスの彼女と、今、私は家庭を築きちゃんとクリスマスを過ごしている。

  

 


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