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その家は丘の上にあった


その家は丘の上にあった。

最北の地を走るローカル線の
その車窓のあちら側を流れてゆく景色と
その景色にまたがり仁王立したまま
憮然とボクを見下ろす雲の間で

ボクは旅の静寂さを手のひらで持て余していた

「これから何処へ行くのか」

レールと枕木のきしみ合う音が微妙なリズムを刻む中
そんなことをぼんやりと考えていた

あの夜
旅に出ようと決め部屋のドアを開けた時から
その事をずっと考えていた

行く場所があれば
帰る場所がある
行く場所がなければ
帰る場所もない

もしも行く場所もなく帰る場所もないとしたら
それはきっと流浪の旅になってしまう

仁王立ちする雲と流れてゆく景色
その頭上を放物線に飛ぶ鳶を見つめながら
ぼんやり考えていたその時
あの家が目の前に現れた

「寄っていかないか」

景色と共に流れ去ろうとしていたボクに
青草たちが手招きしている

その家は丘の上にあった

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