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私的考察:フィクションにおいてのミソジニーについて

「ミソジニー」とは一般的には女性に対する軽視や嫌悪を意味する言葉とされています。ここではフィクションにおいてのミソジニーについて自分の見解を書いていこうと思います。

幼い日の記憶

幼い頃は家のTVで『大草原の小さな家』を見ていました。私が好きだったから、という訳ではなく母親がお気に入りで家事の合間に見ていた為に、他に見たい番組もなかった私も自然に目に入れるようになっていました。

その中で強烈に印象に残っている2つのエピソードがあります。それが『ミソジニー』に関連するものであった為、紹介したいと思います。

まず『大草原の小さな家』の簡単な紹介を。

19世紀末の西部開拓時代のアメリカ・ミネソタ州を舞台に幌馬車で移動しながら暮らす一家を描く小説を原作にした海外ドラマであり、全9シーズン204話に及ぶ大作です。

一つ目のミソジニー

シーズン7内にて放送された「ある少女」、17話~18話と前編後編に分けられたエピソードそのものになります。


あらすじは上のリンク先に載っていますが、簡単に要約すると、父子家庭で厳格に育てられている少女と主人公の少年(アルバート)が恋人同士になります。しかしその少女は謎の男にレイプされ望まぬ妊娠をしてしまった挙句に最後には死んでしまう、というものです。それを主軸にして、少女と少年の悲劇的なラブストーリーが絡めて描かれており、とても印象にのこるエピソードとなっています。

当時幼い私もその話で初めて「レイプ」という単語を知りました。

もっといえば、「女性の意思に反し暴力や脅迫により性行為を強要する行為」があること自体を知ったきっかけでもあります。


さて、このエピソードで悲劇的な結末を迎える少女(名はシルビアといいます)ですが、フェミニズム的観点からすると「冷蔵庫の女」になるのではないか?と今は思います。

冷蔵庫の女

発祥

DCコミックのアメコミ「グリーンランタン」にて、五代目グリーンランタンとなったカイル・レイナーの恋人であるアレクサンドラ・デウィット(アレックス)が、メジャーフォースというヴィランに殺害され、遺体を冷蔵庫に詰め込まれるというエピソードが描かれた。

このエピソードを見たコミック作家ゲイル・シモーネ氏を始めとしたフェミニストのコミック読者集団が、男の成長や動機付けのために悲惨な目に遭う女性キャラクターの多さを指摘、それらを纏めたサイト「Women in Refrigerators(冷蔵庫の中の女性たち)」を設立した。

以降は「都合よく殺される女性キャラ」を指して、英語圏では冷蔵庫(fridge)に準えて「fridging」と呼び、日本では「冷蔵庫の女」という通称が広まっている。

ピクシブ百科事典

少女シルビアの死によって少年アルバートは“大人になった”と解釈できますし、なにより彼女がレイプされ望まない妊娠をして最後に死んでしまったことにより物語が盛り上がったことは確かです。

さらに、シルビアの父親もレイプされた事を知った後、我が娘を守ろうとはしますが彼女の気持ちに寄り添わずにただ無闇に彼女の行動を制限しようとするだけで、逆に彼女を追い込んでしまいます。

そして主人公のアルバートも無垢な存在ではありません。なにしろ話の冒頭で悪友と一緒にシルビアの着替えを覗こうとするのです。要は「少年の性の目覚め」もこのエピソードで描かれるのです。

さらに着替えを覗かれた被害者であるはずのシルビアは逆に父親に怒られてしまいます。「男を誘うようなことをするな」と。

それは現代の価値観からすれば非常に理不尽な話であり、この後レイプまでされてしまうことを考えるとシルビアのキャラクター造形は「男の性的加害になす術もなくただ耐えて泣き寝入りしなければいけない少女」になります。これは非常に男尊女卑的な思想ではないでしょうか?

「ある少女」は非常にミソジニックなエピソードであると私は考えます。

勿論、当時の幼い私がそこまで詳細に感じていたわけではありません。しかし、私がちょうど「男性という性」に属しているという認識を持ち始めていた頃に観たエピソードでもあり、個人的になにやら気まずい思いをしたのも確かです。

この「気まずさ」というのはレイプ魔と私が同じ属性であり、さらに主人公の少年がシルビアの着替えを覗くシーンとレイプ魔に襲われるシーンが幼い自分の頭の中で関連付けられ、「男性の加害性」を認識させられたからなのかもしれません。

当時の私は男性の描かれ方に不満を持っていました。

前述のとおりシルビアの父親は普段は強権的に振る舞うくせにいざとなったら役立たずで、主人公の少年も冒頭でシルビアの着替えを覗こうとするのですから。

不満に感じた主要因は登場する男性陣が(当時の私の感覚からして)“かっこよくなかった”からなのです。


二つ目のミソジニー

もう一つのミソジニーですが、こちらは少し記憶が曖昧で海外ドラマであるのは確かです。こちらもおそらく『大草原の小さな家』での一場面ではあると思います。こちらはメインのエピソードではありません。

2人の男の子と1人の女の子のちょっとしたいざこざを描いたものになります。2人の男の子は友達でありその1人と女の子は恋人同士でした。

ある時、女の子と恋人の男の子はお祭りにでかけました。その際に、友達の男の子にばったり出会ったのですが、その男の子を女の子は(確か...貧しい生まれだったことやみすぼらしい身なりだったことなどを理由に)罵倒します。すると恋人の男の子は友人が侮辱されたことに腹を立てて、女の子のために買ってきたスイカをその女の子の顔面にぶつけます。女の子がさめざめと泣く中、男の子2人は肩を組んで歩き去る場面でこのサブストーリーは終わります。

これも、女の子(女性)が酷い目にあうエピソードとして幼い私に強い印象を残しました。しかし、上で紹介した「ある少女」とは“酷さ”の種類が違う、となんとなく思っていました。

種類の違うミソジニー

「ある少女」においてシルビアはレイプされ妊娠した挙句に死亡してしまいます。あまりにも救われない物語です。

その後に紹介した、友人を馬鹿にされた男の子が恋人の顔にスイカをぶつけたエピソードですが...「ある少女」のシルビアに比べればあまりに大した事が無いように思えます。しかし、当時の私は同じくらいの衝撃を感じたのも確かです。

当時の自分の気持ちを言語化してみます。

当時の私も「女性(女の子)は大切にしなくてはいけない、男性は女性を守らなくてはいけない」という価値観はなんとなく共有していたと思います。だからこそ「ある少女」を見た時に居心地の悪い、気まずい思いをしたのです。

「ある少女」では、男性がまるで役に立たない、いやそれどころか男性特有の加害性をはっきりと描写されます。そこにミサンドリー(男性嫌悪)を感じ取っていたのだ、と私は今になって思います。

しかし後に紹介したエピソードでは、少女は非のない男の子を一方的に侮辱して、恋人から報いを受けることになります。シルビアとは違って完全にこの少女は(大袈裟な表現ですが)“悪役”です。しかもよくある「悪女」のような“カッコ良い”ものではありません。最後はスイカをぶつけられ2人の少年の友情を際立たせる為の汚れ役でもあります。

フェミニズム的に言うならば、「ホモソーシャルの当て馬にされた」となるでしょうか。

当時の私は、「女の子にこんな酷い役をやらせて良いのだろうか」とおぼろげながら思ったものです。要はメタ的に見て“女性が酷い目に遭っている”と感じたのですね。今までみてきた作品では、そのような役回りは大抵、男性や男の子が演じてきたのですから。

内面

「ある少女」における少女シルビアは確かに作中において悲劇的な結末を迎えます。しかしその内面は丁寧に描かれてはいましたし、なにより彼女は“悪”ではありません(厳格な保守的価値観からすればレイプされた事は“過失”になるのかもしれませんが)。

物語序盤に少年たちに着替えを覗かれその後成人男性にレイプされる流れを見れば、むしろ“悪”は男性であり、男性特有の加害性(性欲)を描きだしていると捉えることもできます。

フェミニズム的な考えでは「ある少女」は少女が一方的に男性から性的に見られ加害された挙句に死んでしまうミソジニー的な作品になるのかもしれません。しかし幼い私にとっては男性の悪い部分をこれでもかと見せつけられた、初めてのミサンドリー的作品であったことは確かです。

フィクションにおいて、ミソジニーとミサンドリーは表裏一体の場合があるのです。

しかし後述のエピソードにおいてはミサンドリーは描かれません。少女もそこまで酷い目にはあっていません。スイカを顔にぶつけられた“だけ”です。

しかしスイカを顔にぶつけた少女の“内面”は描かれていませでした。最後に「男の友情が勝つ」描写からすれば、少女はその友情を際立たせるための無機質な悪役でしかありませんでした。

「女性は(フィクションであろうが)なにがなんでも大切にしなくてはならない」という考えを前提にするのであれば、友を侮辱した報いとしてスイカをぶつけられた少女のエピソードは「ある少女」と同じく、いや、内面が描かれない無機質な悪役として描かれた分、よりミソジニックではないかな、と今は思います。

終わりに

今はフィクションにおいても女性の描かれ方は非常にセンシティブなものになっています。

上で挙げたような女性が無機質な悪役として描かれて最後に“退治”されるようなミソジニックな描写は、女性がレイプされる描写以上にこれからはタブーになっていくのではないかな、と私は感じます。





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